増税に都合のいいデータのおいしいところはダメ。与党内議論の前提になった内閣府の「97年増税の検証」報告書は問題あり。国会で徹底的に議論を。


連休明けの5月8日より、社会保障・税特別委員会がスタートする。4月中の特別委員会設置に強い意欲を示した政府の意思を受けて、参院問責決議を行った後ではあるが野党はこれに応じ、消費増税の議論が国会で始まる。

 社会保障との一体改革であるゆえ、関連法案は11本と特別委員会においても異例の大量法案審議となる。消費税に対する逆進性対策や軽減税率の是非、あるいは簡素な給付措置に関わる詳細設計など、与党内でも議論が十分ではないとの声が上がっていた項目については、野党からの提案も含めて国会で決定していくプロセスに注目が集まることは間違いない。筆者は特別委のメンバーではないが、与党議員として議論は高い関心を持って見つめていくつもりである。

 しかし、公開性の低かった与党内議論や政府内決定とは違い、国権の最高機関としての国会での議論は唯一国民に開かれた極めて重要な意思決定プロセスである。ぜひ、この機会に巷間指摘されてきたことに対する国会審議(議事録として国会に残る議論)の場として欲しいと願っている。

 いまだに、多くの国民の皆さんからあがってくる「なぜデフレ下の今なのか?」、「増税のインパクトをどのように考えるべきか?」といった初歩的な疑問に対しても政権として十分に答えているとは言い難い。少なくとも、明確に公的に記される国会議事録での政府答弁が、国民への回答であることは間違いない。ぜひ、基本的な課題から議論をしていただきたい。

 今日まで十分議論してきたというのは、あくまで政府内と与党内でのことだ。国会という国民の代表の場での議論は真摯に、そもそも論も含めて行うべきなのである。

1997年増税の検証を

 まずそもそも論の一つでもある1997年消費税引き上げの影響について、改めて検証を行うべきだ。一つには、再び同じ過ちを犯してはならないとの想いであり、この機会に国会の意思としてその判断を明らかにすべき時だからである。 そしてもう一つは、相変わらず政府機関は自らの都合に合う情報だけをもとに国民に物事の判断を行わせようとする発表を繰り返しているからだ。

 特に、昨年の5月30日に与謝野大臣指示により内閣府でまとめられた「社会保障・税一体改革の論点に関する研究報告書」は、「社会保障改革に関する集中検討会議」の5名の幹事委員(学界…清家篤委員、宮本太郎委員、吉川洋委員、有識者…峰崎直樹委員、柳澤伯夫委員)の下、各論点について有識者に意見を求めそれを基に、吉川洋委員、井堀利宏教授(東京大学)が中心となってとりまとめを行い、内閣府が整理を行ったものである。メンバーそのものが偏っていると言われても仕方のない構成によるものであり、これが与党内議論においても基礎となっていたのである。

 本稿では、少し古いこの報告書についてあらためて問題点を指摘する。これからおこなわれる国会審議で、この報告書を基にする議論にごまかされることのないよう問題提起する。

 1996年度の実質GDP成長率が2.7%に対し、1997年度は0.1%、1998年度は-1.5%と経済成長率は大きく落ち込んだ。そのような中、1997年4月の消費税引き上げが成長率の落ち込みにどの程度影響を与えたのかの議論は、どうしても本質が見えにくいため複雑化してしまう。

 同年に所得税の特別減税の廃止や医療費の自己負担割合の増加などの引き締め的な財政政策が行われ、また、アジア通貨危機や日本の金融危機が発生したため、定量的に消費税引き上げの影響を識別することが難しいことに起因すると思われる。そこで簡単に当時の状況を思い出していただこう。

1997年
4月 消費税率3%→5%、特別減税の廃止、
7月 アジア通貨危機
9月 医療費の自己負担割合1割→2割
11月 三洋証券の破綻に始まる日本の金融危機(北海道拓殖銀行、山一証券の破綻と連鎖)
11月 財政構造改革法制定(12月施行)

 上述した内閣府の「社会保障・税一体改革の論点に関する研究報告書」(以下報告書)では、その中で、1997年の消費税の引き上げについてCashin and Unayama(2011)論文*1を引用しつつ、「1997年4月の税率引上げが及ぼした消費に対するマイナスの所得効果は約0.3兆円となる。これは、対GDP比では0.06%に相当する。こうした結果から判断すると、消費税増税が当時の景気後退の「主因」であると考えるのは困難である」と結論づけている。

 すなわち、この報告書の目的は「消費の落ち込みはわずかで景気の後退の主因ではない」と主張するためのものであるとも言える。

http://www.rieti.go.jp/jp/publications/nts/11e045.html
*1 Cahin, D. and T. Unayama (2011). "The Intertemporal Substitution and Income Effects of A VAT Rate Increase: Evidence from Japan." RIETIディスカッションペーパー

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