東京電力が「社長人事」を囮にして守った「金融機関の利益」と「電力事業の独占」

東京電力と原子力賠償支援機構が、当面の実質国有化、経営陣の一新、電気料金の値上げ(特に家庭向け10%値上げ)、経費削減、などを内容とする総合特別事業計画(以下「総合計画」)を策定し、枝野経産相に提出した。

 この総合計画は、東電利用者、国民、原発事故被害者、株主、金融機関、政府、東電経営陣、東電社員、東電取引先、原子力関係者、など非常に多くの利害関係者に生々しく影響する。完全に公平な評価を行うことは難しいし、ある意味では怖くさえある。

 総合計画がこのまま承認され実行に移されるのかどうかは、まだ分からない面があるが、この計画で生じる利害や、そのことによって影響される将来の問題などについては、今から出来るだけ目配りしておきたい。

 総合計画で最大の問題は、東電の破綻処理を回避して、株主責任と金融機関の貸し手責任を問わない処理を前提とすることだ。これは、原子力賠償支援機構が前提とするスキームでもあるが、総合計画が承認されて実行に移されることによって、この処理が既成事実化するだろう。

金融機関が大きく得をする仕組みになった背景はなにか

 今回の東電の処理は、りそな銀行への公的資金投入とスキームが似ている。公的資金で会社を存続させることにより、公的資金を将来の事業利益で返済させる仕組みで、要は、もっぱら東電のユーザーが将来支払う電気料金の中から原発事故の賠償金を払わせようとするものだ。株主・社債(東電債)保有者・金融機関、中でも、特に金融機関が通常の破綻処理の場合と比較すると大きく得をする(損が減る)仕掛けだ。

いつ、どのように返済されるかは不透明だが、基本的な仕組みとして、公的資金は、将来の電力ユーザーに返済させる予定の「つなぎ」に過ぎない。もちろん、破綻処理の場合に、金融機関が被るはずの損失も、将来の電力ユーザーの負担に転嫁される。

 どうしてこのようなアンフェアで不細工なスキームになったのか。筆者は理由を知らないが、想像するに、金融機関が原発事故後の東電に融資する際に、政府から(政治家から、というよりは、役所から、ということだろうか)「融資を実行して下さい。悪いようにはしません」という言質を取ったのだろうか。

 破綻処理では、事故被害者が一般債権者と同列に並ぶので、賠償に問題が生じるといった屁理屈もあるが、事故の被害者に対しては国が賠償責任を負えばいい。国にも原発事故の責任が大いにあるのだから、当然の措置だし、そのほうが被災者も安心だろう。

 会社更生法等による破綻処理を行って、株主の責任と金融機関の貸し手責任を問うなら(「責任を問う」とはつまり彼らの権利を損失処理に充てることだが)、電気料金の値上げは不要になるか、少なくとも大幅な圧縮が可能になる。少なくとも総合計画が盛り込んだ「家庭向けの10%の電力料金値上げ(3年間)」は不要にできる。

 本件を巡る重要で先鋭な利害対立の一つは、「銀行の損失回避」対「電気料金値上げの有無(又は多寡)」だ。しかし、多くのメディアはこの点に触れず、経営権を巡る現経営陣と政府のやりとりや、公的資金の返済の見通しなど、敢えて注意を逸らすような報道を続けている。

 総合計画に広告宣伝費の削減が10年で2200億円ほど盛られているように、東電はしばらくの間広告スポンサーとして期待できないが、金融機関は有力な広告スポンサーだ、という事情によるものか。それにしても、「値上げは権利」(西沢俊夫現東電社長の言葉)だと考えていた強力な独占企業が、多額の広告宣伝費を使っていた事実はなかなか興味深い。

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