佐々木俊尚「ブレイクスルーな人たち」
2012年05月04日(金) 佐々木 俊尚

佐々木俊尚×牧野洋「『当事者の時代』とジャーナリズム」対談 第2回「メディア経営が厳しい時代だからこそ、新聞記者を専門家として育てる仕組みが必要」

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佐々木: 日本の場合、一次情報、たとえば政治家や企業経営者に夜回りして聞いてきたというような、一次情報の取材に関しては相変わらず新聞社が強いわけです。でも、逆に言うと強みはそこだけです。役所でも企業でも最近は多くの情報がパブリックになっている、一般に公開されているケースが多い。そうすると、あとは論考とか分析の勝負になってくる。

 そういう観点で記事がちゃんと書けているかというと、日本の新聞というのはいわゆる"枠組み"に落とし込むような記事がすごく多い。自分の頭で物を考えていない。牧野さんが本に書いていますが、たとえば公式発表前日に「明日逮捕」「明日合併」という形でネタを抜くような記事ばかりで、論考や分析を必要としないケースが多いですよね。そうすると、いったいどこに優位性があるんだろう、という話になってくるんです。

 「田中角栄研究」を書いた立花隆さんの言葉で僕が「なるほど」と思ったのは、「私は得体の知れないネタは扱わない」ということです。たとえば、僕らの業界で「二課事件」と呼ばれる、警視庁の捜査二課が扱う詐欺とか汚職のような、その手のネタのまわりには"事件屋さん"のような得体の知れない人たちがたくさんうごめいていて、それがよくわからないチャートを流してきたりして・・・。夜の世界で妙な情報がグルグル回っているわけじゃないですか。

 新聞記者はそういう情報を拾ってきては、検察や捜査二課に持っていったりして「事件」に仕立ていくということをやるんです。ネタの出所もわからないし、そもそも本当かどうかもわからないわけです。そういう得体の知れない人たちと付き合ってネタを仕入れてくるのが新聞記者の仕事だと思っている人が多い。でも立花隆いわく「そんな情報は必要ないんだよ」と・・・。裁判の資料や公式に明らかにされている情報だけをていねいに分析していけば、ジャーナリズムは十分成り立つんだ、ということを書いている。

 実際に「田中角栄研究」も、そういう不確かな情報はいっさい使っていない。本当に地道に登記簿謄本やら何やらを一生懸命取り寄せて、裁判資料も漁って、公にされている情報だけを元手に記事を書いている。そうすると、日本の新聞記者のトレーニングとしてOJTで行われているような夜回りの手法は、本当は役に立っていないんじゃないかと思うんです。

牧野: おもしろいのはアメリカで誕生したNPO報道機関です。彼らはどういう人材を雇っているかというと、データアナリシスに強い人間なんですね。もちろん普通の記者も雇っていますが、それに加えてデータアナリストとしての専門性を備えた記者を雇っていて、じつはそちらのほうが給料が高いんです。

 コロンビア大学のジャーナリスト・スクールの学長は「これからのジャーナリストは回帰分析くらいできなければいけない」と言っていました。つまり統計学です。主に公開データが対象となりますが、膨大なデータを入手して、それを統計学まで使って分析するくらいの能力がなければいけない、ということです。

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