田原聡一朗がウッドフォード元社長、「スクープ記者」山口義正氏に聞くオリンパス事件の深層 第3回「日本には『サムライ』と『愚か者』しかいない」

田原: 12月6日に、オリンパスの第三者委員会が調査報告書を発表していますが、この調査報告書は山口さんも読んでいますよね。これを読むと、山口さんが『FACTA』にお書きになったこととほぼ同じ内容でしたよね。

山口: 僕が書いた記事よりも、はるかに詳しく突き詰めた内容になっていたと思います。

田原: それを見てどういう感想を覚えましたか?

山口: これは、捜査関係者ですら「よくもここまで調べたな」と感心するほどの内容だったと聞いています。

田原: バブルのときの投資で1000億円の損失を出して、それをごまかすために2億円程度の売上の会社を700億円で買収した、さらにイギリスの会社も買収したということがみんな書いてありますよね。それで山口さんは「よくもここまでやったな」と思ったわけですね。さあ、12月6日にオリンパスの第三者委員会が調査報告書を発表しました。これを聞いてウッドフォードさんはどういうふうに判断されましたか?

ウッドフォード: 私は事態の成り行きについてかなり懐疑的に思っていて、あまり期待していませんでしたが、その報告書が上がってきて、内容がとても充実したものだったので、本当にびっくりしました。もちろん内容もそうなんですが、その率直なトーンについても驚きました。よく日本人は遠回しな表現や婉曲法が好きな国民だと言われるんですが、甲斐中さんのあの口調は「芯まで腐っている」「イエスマンばかり」「汚染されている」というような直截な表現で、本当によくやってくれたと、本当に甲斐中さんには感謝しております。これで本当に事態は動くだろう、と期待しました。

田原: わかりました。では山口さん、菊川さんをはじめとする人々が逮捕されたのはいつ頃だったんですか?

山口: 年明け頃ですね。

田原: それで21日に地検と警視庁が強制調査をして、この辺から警察が本格的に乗り出したわけですね。そのときの感想はどうでした?

山口: まあ、遅かったな、というのが第一の印象ですね。アメリカもイギリスももっと早くやっていたわけですし、しかも3月当初に日本の捜査当局はだいたい捜査が終わってしまった、と。いちばん遅く捜査を始めたところがいちばん早く捜査を終えてしまったわけですから、何かちょっと僕としては釈然としないところがありますね。ただ、12月の初旬、僕がある捜査関係者に話を聞いたら、「われわれは『さんずい』の線を疑っている」と言っていました。

田原: 「さんずい」って何ですか?

山口: 警察関係者の符牒で、「汚職」の「汚」がさんずいへんだから「さんずい」と呼ぶんですね。ですから、最初警察は政治家や官僚にお金が渡っているんじゃないかということを疑っていたようなんです。幸いにしてそういうふうな変な方向にはいかなかったんですが。

田原: 彼らはどんな罪状で逮捕されたんですか?

山口: 金融商品取引法違反ですね。有価証券報告書の虚偽記載ということで。ただ、最近はそうした投資家の判断を誤らせる行為については年々量刑が重くなっていると言われています。ですから、そんなに軽く済むものかどうかな、というふうには思います。

田原: そこでさらにウッドフォードさんに聞きたいんですが、菊川さんの後任で社長になった高山修一さんは、こういうことを全部わかっていてなんでウッドフォードさんを最後まで「内部告発」と言っているんですか? ウッドフォードさんは正しいことをやったんでしょう。

ウッドフォード: 高山さんは役員のなかで私がいちばん親しく感じていた人なんですけどね。10月1日に私はCEOになり、それを知らせるWEBサイト上のプレスリリースでは私を絶賛していながら、2週間後の14日に私は解任されました。

 今でもWEBサイトをご覧になれば、1日と14日の通達を両方ご覧になることができますが、その2週間の間に何があったかと言えば、私が役員たちに6通の書簡を送って6通めの書簡で菊川さんと森さんの辞任を要求したという、たった一つのことだけです。

 甲斐中さんも調査報告書で「ウッドフォードが正しいことをして、そのために解任された」と書いてくれています。しかし、高山さんがそれを否定し続けているのは、私には道化者のように見えます。

この国にはサムライがたくさんいる

田原: もう一つうかがいますが、ウッドフォードさんは完全に勝ったわけですよね。第三者委員会もウッドフォードさんの言う通りだと認めている。それなのに、なぜあなたは社内闘争をやめて撤退してしまったんですか? 本当なら社長に復帰すればいいんじゃないですか?

ウッドフォード: 私がそれを断念した理由はやはり、国内の株主の行動にあります。三井住友銀行をはじめ、日本生命、三菱東京UFJ銀行、みずほ銀行、それぞれの大株主のいずれもが、この事件が明らかになってからも一度も会社の旧経営陣に対して批判的な声を上げたこともないし、私に対して感謝の意を表したこともありません。オリンパスは多大な負債を抱えている会社ですから、やはりメインバンクと良好な関係を持たなければやっていけない会社です。ですから、国内の大株主がすべて私に反撥を感じていて、メインバンクが好意的ではないのであれば、私が社長に復帰する意味はないと思います。

田原: はい、それでは山口さん、そのことを解説してくれませんか? ウッドフォードさんは正しいことをした。ある意味ではオリンパスという企業を救ったことになる。それなのに、彼は結局CEOにも社長にも復帰できず、断念せざるを得なかった。これはどういうことでしょう?

山口: 僕がある銀行関係者に話を聞いたところ、銀行というのは証券会社や生損保とも違っているところがあって、自分たちが貸したお金をいかに回収するかということを第一に考えるもののようです。ですから、自分たちの貸したお金が返ってくるような経営の体制であるとか手法であるとか、そういうことをしてくれる、つまりメインバンクとの関係を維持して守ってくれるような、そういうところがあるのということです。

田原: ウッドフォードさんだと、銀行が困ると?

山口: そういうふうに思っていたんでしょうか。僕はそこは想像でしかわからないんですが。

田原: そうですか。では、瀬尾さん、この辺で質問があれば受けたいと思います。

瀬尾: はい、この中継を見ていた視聴者の方からメールで質問をいただいています。ウッドフォードさんにおうかがいしますが、今のオリンパス経営陣にはどういった資質が欠けていたために今回の事件が起こったと思われますか?

ウッドフォード: 企業統治の仕組みが完全に崩壊していました。人事においても、イエスマンばかり役員に取り立てられていたというところが問題だったと思います。

田原: 言ってみれば、愚か者の子分になっていたわけですね。正しいか間違っているかを判断する部分についてまったく能力がなかったということですよ。

瀬尾: 山口さんの著書の「サムライと愚か者」というのは、ウッドフォードさんにインタビューしたときに出た言葉ですね?

山口: そうですね、彼がプロクシー・ファイト(企業の支配権をめぐって株主からの委任状を奪い合うこと。委任状争奪戦)を断念するということを発表する前日にお邪魔して僕がインタビューしたときに、彼に「日本人というのはどうしてサムライと愚か者がこんなに両極端に分かれてしまうのだろう?」と聞かれたんですね。その言葉をいただいてタイトルにしたんですが。

田原: でも、オリンパスにはサムライがいなかったんでしょう? なんでイギリス人がサムライで日本人がみんな愚か者の子分だったんですかね?

山口: それについては、そうではないということを、きっとウッドフォードさんが言ってくださると思います。

瀬尾: では、ウッドフォードさん、今回の事件でサムライとは誰で愚か者とは誰のことだったんですか?

ウッドフォード: オリンパスにもサムライはいましたよ。まず、やっぱり勇気を発揮して山口さんに情報を明かした内部告発者の方でしょう。私は社長でしかもイギリス人ですから、いつでもイギリスに帰る選択肢はありましたが、その方はそうではありません。ですからその方こそが英雄で、私は彼を尊敬しています。また、オリンパスの元専務の宮田耕治さん。引退してから8年経ってからまた立ち上がって真実を訴え続けました。彼もまたサムライだと私は思います。

瀬尾: もう一つ質問がきています。今、日本ではいろいろ混迷していたり問題を抱えている会社がたくさんありますが、もしもウッドフォードさんがそういう日本の会社から「経営を何とかしてくれ、問題があればそれを正してくれ」ということで社長就任を依頼されたら引き受けますか?

ウッドフォード: 私は日本を愛していますので、何としても日本との接点を保ちたいし、日本に戻ってそこで働く機会を得たいと思っています。

瀬尾: 日本の会社はもう懲り懲りじゃないんですか?

ウッドフォード: たしかに日本の社会の権力に対する遠慮がちな姿勢は企業統治において問題を生み出すことは多いですが、私は依然として日本という国に魅力を感じています。この国にはサムライがたくさんいますよ。

瀬尾: では、今までのお話を踏まえてアンケートをとってみたいと思います。「ウッドフォードさんの行動を支持しますか」という質問に対して、「1」が「支持する」、「2」が「どちらかと言えば支持する」、「3」が「どちらかと言えば支持しない」、「4」が「支持しない」です。では、皆さん、投票をお願いします。株主総会よりは良い結果が出るといいですね(笑)。

田原: さあ、どうなるかな。もう出たかな、じゃあ結果を読んでみてください。

瀬尾: 「支持する」が82.5%、「どちらかと言えば支持する」が12.2%、「どちらかと言えば支持しない」が1%、「支持しない」が3.3%でした。すごいですね、圧倒的に「支持する」が多いですね。

田原: すごいですね、株主総会はどうなりますかね(笑)。

ウッドフォード: 世界は悪い人ばかりじゃないですね(笑)。

瀬尾: 山口さんはいかがですか?

山口: いや、やっぱり驚異的ですね。

田原: だって、今までの話を聞いたら支持しますよ(笑)。どう見たって菊川さんが正しいという話にならないもの。

瀬尾: 田原さんは、今日お2人のお話を聞いていかがでしたか?

田原: まず、ウッドフォードさんは非常に率直にお話をしてくださって、ありがたいと思いました。そして、山口さんがここにいてくださらなかったら、僕はこの話がサッパリ理解できなかった。解説者として抜群に素晴らしかったと思います。

瀬尾: 今回の事件については非常に構造自体が難しい部分があって、まさに「飛ばし」なんていろいろな形でやっているので、一見しただけではわかりにくい事件です。これを丹念に取材して解明した山口さんがいてこそ、すべてが始まったのだと思います。

田原: 実を言うと僕は『FACTA』の記事を読んでもわからなかったんだけれど、今の山口さんの説明を聞いてやっと「なるほど」と理解できました(笑)。

瀬尾: ウッドフォードさんに最後にうかがいたいのですが、今回の『解任』という本を早川書房から出されましたが、これを書いた動機というか、これで何をいちばん言いたかったのか、そこを最後に一言お願いします。

ウッドフォード: 私は何としてでも真実を明らかにして、わかりやすく説明したいと思いました。これをお読みになって、もしも自分の会社に怪しいことがあると思っている方がいらっしゃったら、社内にちゃんとした内部告発の仕組みはないかもしれませんが、少なくとも『FACTA』や『現代ビジネス』のようなメディアに連絡してみるという選択肢があります。これから内部告発者がもっと増えれば良いと思います。


田原聡一郎(たはら・そういちろう)1934年、滋賀県生まれ。ジャーナリスト。岩波映画製作所、東京12チャンネル(現テレビ東京)などを経て、77年、フリーに。テレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。現在、早稲田大学特命教授として大学院で講義をするほか、「大隈塾」塾頭も務める。著書に『日本の戦争』(小学館)、『日本の戦後』、『私たちの愛』(ともに講談社)など多数。
マイケル・ウッドフォード
1960年生まれ。81年、オリンパス英子会社に入社。2004年10月、オリンパスメディカルシステムズ取締役。2008年4月オリンパス・ヨーロッパホールディング社長、2011年4月オリンパス社長。同年10月に解任された。
山口義正(やまぐち・よしまさ)
日本公社債研究所(現格付投資情報センター)アナリスト、日本経済新聞証券部記者などを経て、フリージャーナリスト

著者:山口義正
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著者:マイケル・ウッドフォード
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