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「金正恩を吊るせ!」北朝鮮「革命」前夜をレポート 歴史は繰り返す
〔PHOTO〕gettyimages

 大事な式典を前に居眠りをする軍人。熱狂を帯びていない観衆。先の軍事パレードでは、これまででは考えられない変化が見られた。北朝鮮はいま、革命前夜のような奇妙な静けさに包まれている。

粛清のあとで

 いったいどうしたことか。新たな指導者が誕生したというのに、北朝鮮国内は驚くほど静かで、一種のしらけムードさえ漂っているという。

 4月15日、平壌で行われた軍事パレード。大量の兵器と大勢の軍人が動員され、新型ミサイルも公開された史上最大規模の式典となった。だが、対北朝鮮の情報収集にあたる韓国国防部の幹部は、「参列していた群衆や軍人らの様子に、過去には見られなかった違和感があった」と語る。

「軍事パレードの映像を分析し、参列していた人々の話を集約したところ、今回の式典では、従来なら必ず確認されたはずの、涙を流さんばかりに熱狂する聴衆はほとんど見あたらなかった。さらに、軍人の中には式典前に居眠りをしている者もいて、明らかに緊張感に欠けていた。金正日総書記時代であれば考えられなかった事態であり、金正恩の求心力の低さが認められる」

 この国防部幹部は「ミサイル発射の失敗を、ニュースを通じて知らされたことで、国民の間にもしらけムードが漂っていたのだろう」と分析する。北朝鮮住民の間に、明らかにこれまでとは違った空気が流れている、というのだ。

 ところが、軍事パレードに出席した金正恩第一書記は、そんな空気の変化をよそに、異常なほど明るく振る舞い、饒舌だった。

「おい、あの兵器は本当に大きいなあ」

「あのミサイルは、撃ったことがあるのか?」

 時折笑顔を見せながら、パレードに登場する兵器について、側近らに無邪気に尋ねる姿が見られたのだ。

 ミサイル発射失敗からわずか2日後のパレードだったにもかかわらず、金正恩に落ち込んだ様子が見られなかったのはなぜか。それは正恩がこの失敗を逆手にとって、軍部内に潜む〝反正恩派〟を一掃することに成功したからだ。北朝鮮との外交に携わる、中国の外務省高官が説明する。

「なぜ発射失敗からわずか4時間後に、朝鮮中央テレビを通じて『光明星3号の発射実験は予定通りには軌道に乗らなかった。現在、失敗の原因を究明中』と発表し、国民に失敗を知らせたのか。それも、金日成主席の誕生100周年を祝う『主体思想世界大会』の放映中に、わざわざ緊急速報を流して、だ。ここから、正恩第一書記の狙いを読み解かなければならない」

 1948年の建国以来64年間で、北朝鮮が国家的プロジェクト事業に関して非を認めたことは、過去にたった一度しかない。2002年9月17日に小泉純一郎首相(当時)が訪朝したとき、金正日総書記が日本人拉致を公に認めて、謝罪したことのみである。

 金総書記はその際、小泉首相に「日本人拉致に関わった一部工作機関の人間は、厳重に処分した」と語った。実際、拉致工作の実行者ら数十名が粛清されることとなったが、国のトップが責任を問われることのないこの国において、失敗の責任は別の人間がとらされる、ということだ。

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