メディア・マスコミ
「ブログサイト」がピュリツァー賞を初受賞、ハフィントン・ポスト、取材陣は有力紙に迫る400人
ハフィントン・ポスト創業者のひとりアリアナ・ハフィントン〔PHOTO〕gettyimages

 日本で新興のブログサイトが新聞協会賞を受賞することがあるだろうか。まず無理だろうが、アメリカは違う。ブログサイトとして出発したインターネット新聞のハフィントン・ポスト(ハフポスト)が4月16日、創刊7年目にしてジャーナリズムで最も栄誉あるピュリツァー賞を受賞したのである。

 受賞作は連載企画「戦場を越えて」。全国ニュース部門での受賞で、イラクやアフガン戦争で重傷を負い、身体障害者になった退役軍人や家族の状況について生々しいエピソード満載で伝えている。ネットメディアと聞くと「低コストでスピード重視」を連想しがちだが、8ヵ月にわたる長期連載だ。

 筆者は66歳のベテランジャーナリスト、デビッド・ウッド。1977年にアフリカのゲリラ戦争取材のために雑誌タイムのナイロビ支局長に就任して以来、世界各地の紛争を取材する軍事専門記者として30年以上にわたって活躍してきた。直近ではイラクとアフガニスタンの戦線へ何度も出張取材している。

 補足しておくと、ウッドはハフポストへ投稿するブロガーでもないし、同紙へ寄稿するフリーランスでもない。同紙で雇用されている正社員だ。ロサンゼルス・タイムズやボルチモア・サン、ポリティクス・デイリー(AOLの政治ニュースサイト)記者などを経て、2011年前半に入社している。

 要するに、ハフポストはコストをかけてウッドのような人材を採用し、ピュリツァー賞をモノにしたのだ。同紙では現在、400人前後の記者や編集者が正社員として働いている。編集局の規模としては、経営悪化で大規模なリストラを強いられている有力紙ロサンゼルス・タイムズ(550人前後)に迫りつつある。同紙は全米第4位の日刊紙だ。

営利目的のネットメディアでは初の快挙

 印刷メディアを持たないネットメディアがピュリツァー賞の受賞対象に初めて加えられたのは2010年度。1年目に続いて2年目もネットメディアのプロパブリカが受賞し、注目を集めた。同社は調査報道を専門にする民間非営利団体(NPO)だ。慈善事業家や慈善財団から寄付を募って記者を正規採用し、公共性が高い調査報道に経営資源を集中投下している。

 プロパブリカのピュリツァー賞受賞はネットメディアとして初めてであり、快挙だった。だが、ハフポストの受賞は違う意味で快挙である。営利を目的するネットメディアとしては受賞第1号だからだ(今回は同じ営利のネットメディアであるポリティコも受賞しているが、風刺画部門での受賞)。

「ネット上を流れるニュースはタダ」が常識になっているなか、ネットメディアを立ち上げて収入を得るのは容易ではない。一方で、調査報道など質の高い報道を手掛けるためには優秀な記者を大勢雇わなければならない。つまり、収入は乏しいのにコストばかりかさむ格好になり、営利事業として成功させるハードルは高い。

 だが、ハフポストは営利事業として成功し、「アメリカで最も成功したネット新聞」と見なされるようになった。昨年2月にインターネット大手AOLの傘下入りを決めた際には、3億1500万ドル(約255億円)の値段(AOLによる買収価格)が付いた。創業5年余りでこれほどのブランド価値を築いたメディア企業は異例だ。

 どうやって成功したのか。単純化すればブログと検索エンジン最適化(SEO)である。

 まずはブログ。アメリカ初の黒人大統領になる直前のバラク・オバマをはじめ、ハフポストにブログ記事を投稿する有力者は枚挙にいとまがない。彼らは、リベラル派のコラムニストでハフポスト共同創業者のアリアナ・ハフィントンの思想・哲学に共鳴するからである。同紙はオバマのような「ニュースメーカー」もブロガーとして取り込み、知名度をアップさせた。

 現在、9000人以上のブロガーがハフポストに投稿している。ブログ記事は新聞で言えば論説面に相当する。新聞の論説面へ寄稿する著名人や専門家は、政治家ら一部を除き原稿料を得ることが多い。それに対し、ハフポストに投稿するブロガーは例外なく原稿料をもらっていない。その意味でハフポストの「論説面」は低コストといえる。

 次にSEO。グーグルなどで検索結果の上位に自らのウェブサイトが表示されるように工夫する技術のことであり、ハフポストは「SEOの王者」だ。他メディアのニュース記事を見やすいように整理する「アグリゲーション(寄せ集め)」などと併せ、SEOがハフポストへのアクセス数を押し上げる原動力になったといわれている。

 アグリゲーション形式の「ニュース面」も低コストである。ニューヨーク・タイムズの前編集局長ビル・ケラーは同紙上でハフィントンのことを「アグリゲーションの女王」と呼んだうえで、「有名人のゴシップ、かわいい子猫のビデオ、原稿料なしのブログ記事、他メディアのニュース記事を寄せ集め、リベラル派の味わいを加えれば、ウェブサイト上に何百万人もの人を引き寄せられる」と皮肉ったことがある。

 重複を除いて実際に何人がウェブサイトを見たのかを示す「ユニークビジター」ベースでは、4月の月間訪問者数はハフポストの場合5400万人。全米ニュースサイトの中で6位であり、5位のニューヨーク・タイムズ(5950万人)と競っている(1位はヤフーニュースで1億1000万人)。ウェブサイトへのアクセス数が多ければ多いほど広告収入が増える。

「有名人のゴシップ」に頼っているからといって「ハフポストはえげつない」とは言い切れない。利益を出すからこそ、「戦場を越えて」といった報道を手掛けられるのである。世界的にも突出した購読者数を誇っている日本の全国紙も、テレビ・ラジオ欄や折り込み広告を売り物にしている。この面ではハフポストと同じではないのか。

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