2012.04.25(Wed) 岡田 真理

プロ格闘家のすさまじい減量

筆者プロフィール&コラム概要
格闘家にとっていちばん過酷なのは、試合中よりも、試合前の「減量期間」!?〔PHOTO〕gettyimages

 かつて、プロ格闘家のマネージメント業務を担当していたことがある。こう言うと語弊があるかもしれないが、格闘家とは、嫌いでもなんでもない人をブン殴ったり、蹴り飛ばしたり、締め上げたりして成り立つ職業。とても普通の精神状態ではできないシゴトである。

 普段の穏やかな物腰はどこへやら。彼はリングの上では完全なる別人だった。アドレナリン大放出状態で、対戦相手を打ちのめし、リングに沈める。しかし試合が終わると、また穏やかな顔で笑ってみせるのである。(勝てば、の話だが)

 格闘家にとっていちばん過酷なのは、試合中よりも、試合前の「減量期間」のように思う。

 私が担当していた選手は、ミドル級と呼ばれる70キロ級の大会に出場する選手だった。普段の体重は75~6キロ。試合の1ヵ月前になると、食事制限とトレーニングで約5キロの減量を始める。減量開始の前夜は好きなものをたらふく食べ、午前0時を迎えた瞬間から、炭水化物をはじめ、糖分を多く含むものは口にしない。たんぱく質と野菜中心の食生活が始まるのだ。

 減量開始から一週間も経つと、身体はみるみるうちに引き締まり、これまで脂肪の底に埋もれていたシックスパックが次第に浮き上がってきて、ギリシャ彫刻のような肉体に変化し始める。ストイックな生活を送っているせいか、顔つきもどんどんシャープになる。しかし、糖分を極端にセーブしているため、思考能力が落ち、目に見えてイライラするようになる。

 血糖値が50mg/dlを下回ると、大脳のエネルギー代謝が維持できなくなり、精神が乱れるといわれている。しかし、人間には50mg/dlを下回らないために適切なホルモンが分泌されるという回避システムがもともと備わっているため、通常は低血糖になっても極端な異常は見られない。そのかわりアドレナリンが大量に放出されるため、交感神経刺激症状が起こり、イライラしたり睨んでいるような顔つきになったりする。

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(おかだ・まり) フリーライター 1978年静岡県生まれ。立教大学文学部卒業後、カリフォルニア大学エクステンションにてマーケティングのディプロマを取得。帰国後はプロアスリート専門のマネジメント事務所に勤務し、格闘家やプロ野球選手などのマネジメントを担当する。退職後はフリーライターに転身し、主にアスリートのインタビューやトレーニング関係の記事を執筆している。
 


アスリートと「食」

自らのカラダに細心の注意を払うトップアスリートたちは食生活にもプロフェッショナルである。アスリートにとってもそうでない人にとっても役に立つ、スポーツ選手たちの食に関するエピソードを、自らもプロ選手のマネジメントに携わった気鋭のライターが紹介する。