2012.05.02(Wed) 岡田 真理

アスリートとアルコール

筆者プロフィール&コラム概要

 ペナントレース真っ盛りのプロ野球。そのシーズンオフ、たまに選手と食事をするとき、彼らがワインを飲む姿をよく目にする。プロ野球選手には、ワイン好きが多いように思う。その代表格ともいえるのが、読売ジャイアンツやピッツバーグ・パイレーツで活躍した桑田真澄氏だ。テレビ番組では「僕はワインがプロです」と発言し、日本ソムリエ協会からは「名誉ソムリエ」の称号まで授与されている。

桑田真澄氏〔PHOTO〕gettyimages

 そんな桑田氏だが、かつてはアルコールをまったく口にしなかった。ある雑誌のインタビューによれば、ワインを飲むようになったのは、1995年に右肘靭帯断裂の大怪我を負ってリハビリ生活を送っていた頃だそうだ。復活への兆しがまったく見えなかった桑田氏は、赤ワインが体にいいことをテレビで知り、藁にもすがる思いで"一日一杯の薬"として試してみることにしたという。

 赤ワインには抗酸化物質であるポリフェノールが含まれており、悪玉コレステロールの酸化を抑えて血液をサラサラにする効果があるということは、最近はわりと広く知られるようになった。だからといってたくさん飲めばよいわけではないのは当たり前で、桑田氏も量はたくさん飲まず、質を楽しむ派。3本のワインを一杯ずつ飲んで、ボトルに少しワインを残して店を出るのだとか。

 最近では「シーズンオフでもアルコールは一切口にしない」という選手も増えているそうだが、「シーズンオフだけはアルコールを解禁する」「シーズン中とオフでアルコール摂取量を調節する」など、体質や嗜好、年齢、競技によってアルコールと向き合うスタンスは人それぞれ。果たしてアルコールはアスリートの体にどう影響するのだろうか。

 「お酒を飲みすぎると肝臓に悪い」というのは、誰しも聞いたことがあるだろう。肝臓は、体づくりと疲労回復を行う大切な臓器だ。ところがアルコールが体内に入ると、体づくりと疲労回復を後回しにして、まずアルコールの処理を優先的に行うようになる。これはアスリートにとっては致命的。また、お酒を飲むと肝臓が糖を分解できずに低血糖となり、お腹が空くという現象も起こるため、いつもより余分に食べてしまう可能性も。体重コントロールが重要なアスリートにとって、これは痛い。

 アルコールを摂取する上でもう一つ大切なのが、水分補給だ。アルコールの分解物である「アセトアルデヒド」という物質は、人体にとっては毒。あの悲劇的な二日酔いは、実はこの物質のせいなのである。体はアセトアルデヒドを酢酸に変えて体内に出そうとする。大量にビールを飲む人が「ちょっとスイマセン」と何度もトイレに立つ理由はまさにこれ。この状態で水分補給を怠ると、脱水になってしまう。脱水になると筋肉に十分な栄養が回らなくなるため、これもアスリートにとって嫌な話。

 さらに追い打ちをかけると、アルコールを飲むと血液の循環がよくなるので、怪我などで体に炎症がある場合は治りが遅くなることも。また、アルコールの分解にはビタミンも消耗されるので、ビタミンB群を中心に、多く摂取しておかなければならない。

 と、アルコールのデメリットばかり述べてしまったが、前述の通り、適量のアルコールが体によいことは多くの研究で立証されている。1日あたり1~2杯のお酒を飲む人は、まったく飲まない人と比べると死の可能性が少なく、2~4杯飲む人とまったく飲まない人の死のリスクは同じレベルであるという研究結果もあったとか。

 アスリートにとってもそうでない人にとっても、アルコールのいちばんの利点は、ストレス解消ではないだろうか。あるオリンピック選手は、ハードなトレーニングで疲れ切った脳と体をリセットするため、毎日のようにビール(もちろん適量)を飲むという。気分転換はトップアスリートになればなるほど必要。アルコールを自己コントロールのツールにしてしまえば、もう怖いものはない?!
 

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(おかだ・まり) スポーツライター、NPO法人ベースボール・レジェンド・ファウンデーション代表。1978年生まれ。立教大学卒業後、カリフォルニア大学エクステンションにてマーケティングのディプロマを取得。帰国後はプロアスリートのマネージメントに従事し、後にライターに転身。現在はアスリートのインタビュー記事を執筆する傍ら、ベースボール・レジェンド・ファウンデーションを運営している。


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