日銀法改正に向けた新たな論点
ニュージーランドの金融政策検証を踏まえた上で提言する二つのこと

ワシントンでのG20に出席するため訪米した日銀の白川方明総裁          〔PHOTO〕gettyimages  

 日銀は3月の金融政策決定会合で、さらなる緩和を見送り、白川総裁はワシントンで、景気を下支えするための金融緩和政策を長期にわたり実施した場合や、短期的な物価上昇率の目標達成へ過度に重点を置いた金融政策を実施することの副作用を指摘した。

 加えて、デフレ脱却のための金融政策に懐疑的であるとされる日銀審議委員候補が国会同意に付されるなど(結果は否決されたが)、日銀のスタンスをめぐってちぐはぐな動きが顕在化しだした。

 こうした状況では、2月14日のバレンタインギフトと称された、日銀の実質的なインフレ目標政策はたちまち雲散霧消してしまうのではないかと危惧せざるを得ない。

 そこで、議員有志で集う「円高・欧州危機等対応研究会」では、いよいよ日銀法改正案の検討を具体的に俎上に載せ、与党内の政策提言に昇華させようと取り組んでいるところである。内容が固まれば、また改めてお伝えしたいと思うが、日銀法の改正については、私は与党として現実的に改正に踏み出せるようにかつ新たな論点を付した法案を考えたいと思っている。

 他党の案も含めて、日銀法改正でポイントとして挙げられるのは、(1)通貨及び金融の調節の理念において雇用の最大化を明記する、(2)物価上昇率にかかる目標の設定いわゆるインフレ目標の明記、(3)総裁、副総裁及び審議委員の解任規定、などである。

 これら主要論点あるいはその他論点として、解任規定の前に説明責任の明確化を定める、また日銀と政府間で協定の締結を行うなど、オプションはいくつか考えられる。

 しかし、大きくは上に記したように、日銀の手段の独立性は担保しつつも政策目標については政府と共有することを第一に掲げ、物価の緩やかな上昇を基調として推移する状態を目指し、結果として雇用の最大化により国民経済の発展に資することを求めるものである。

 そして、それを確たるものにするために、インフレ目標を設定し、それに対して日銀のコミットメントを求め、不十分な場合には政府による責任者の解任も可能とするものであるのだが、私はここで、日銀の独立性をいわゆる政治の介入によって歪められるとの反論に対抗しうる仕組みも、与党としては検討すべきではないかと考えている。

スベンソンレポート

 そこで、そのために検証すべきものとして、ニュージーランドの例を挙げたい。

 2001年、マクロ・金融の専門家であり、現在、スウェーデン中央銀行の副総裁であるスベンソン教授が行ったニュージーランドの金融政策の外部評価のレポートが公表された。

 ニュージーランドは1980年代に高インフレ率に悩まされた後、1990年に世界で初めてインフレ・ターゲットを採用した国である。90年代のニュージーランドの金融政策は、インフレ率を低く維持することに成功したという意味で高く評価されている(伊藤隆敏2002年 「日本における物価安定数値目標政策の可能性」、フィナンシャルレビュー、以下、伊藤2002)

 成功したとされるニュージーランドの金融政策について、マクロ金融の専門家として定評のあるスベンソン教授が行った外部評価レポートは今後、日本銀行の金融政策を議論する上で大いに参考になる。

 外部評価レポートでスベンソン教授は、まず金融政策ができることを明示した上で、以下の6点について論じている。

(1) 金融政策の枠組み:インフレ目標
(2) 金融政策の手段:公定現金率(Official Cash Rate)
(3) 中央銀行が政策決定の際に用いる情報
(4) 金融政策の決定の過程と説明の構造
(5) 金融政策とプルーデンシャル政策を含めた経済政策の枠組みの他の要素との協調
(6) 金融政策のコミュニケーション

 ここで、日本銀行法の改正にあたり、(4)が参考になると考えられる。

 ニュージーランド中央銀行の金融政策は、まず、ニュージーランド中央銀行総裁と財務大臣との間でインフレ率目標を含む政策運営について合意を形成する(Policy Target Agreement, PTA)。

 これにより、中央銀行の義務が明確化される。なお、2002年以降、インフレ目標率は1~3%となっている。日本の政策金利に当たる公定現金率(Official Cash Rate,略称:OCR)の操作が金融政策の決定になるのだが、これは総裁の単独の決定責任の下で行われている。

 中央銀行には、財務大臣が任命する外部理事と総裁、副総裁を含めた理事会が設置され、総裁が理事会の議長を務め、総裁の仕事ぶりを評価する。そして、理事会が総裁の罷免を財務大臣に提言できることとされている(現在のインフレ目標率はニュージーランド中央銀行HP)。

 そのような枠組みに対し、スベンソン教授は以下のような評価・提言を行っている。

・金融政策の決定を総裁一人が行う枠組みは総裁の質に大きく依存する。そのため、総裁、副総裁2名、中央銀行のスタッフ2名の計5名で金融政策を行う委員会方式を提言。

・総裁の仕事ぶりを評価する理事会に総裁、副総裁がメンバーとなることは利益相反。そこで、理事会に総裁や副総裁が入らないようにし、議長は互選により選出すべき。

 ここで、金融政策の決定を委員会方式とする提言をする際に、委員会のメンバーが専門家によるべきとの指摘をしている。具体的には、イングランド銀行やスウェーデン中央銀行の金融政策決定委員会のように、マクロ経済学や金融市場の専門家により構成されるべきとしている。

 専門家でないメンバーは、独立的な評価(自分自身で経済状況を判断し、有るべき政策を考える)能力が劣り、また、議論に参加する能力に劣り、専門家の人質(hostage)になるであろうとしている。とりわけ、ニュージーランドのような小国では専門家に限りがあるため、委員会のメンバーに中央銀行のスタッフを入れる提案をスベンソン教授は行っている。

 また、理事会の役割について、「伊藤2002」では、総裁の罷免に関し、理事会の提言と財務大臣の決断という二重のしばりをかけているとしている。二重の縛りについては、現在のマスコミの論調の中心にある「中央銀行の独立性の尊重」等を踏まえると、参考になる。

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