野球
二宮清純「広岡流から学ぶこと」

 広岡達朗さんといえば、ヤクルト、西武で4度のリーグ優勝、3度の日本一を果たした名将です。スパルタ式の厳しい指導に定評がありました。

 しかし、スパルタ式とはいっても、ただ頭ごなしにああやれ、こうやれと非科学的な練習を押し付けていたわけではありません。今にして思えば、広岡さんくらい丁寧な教え方をする人はいなかったのではないでしょうか。

ヤクルトを変えた特別レッスン

 広岡さんがヤクルトの内野守備コーチに就任したのは74年ですが、チームはまだ一度も優勝したことがありませんでした。守備はザルと言われるほどひどかった。そこで広岡さんはどうしたか。

「選手ひとりひとりに一個ずつボールを持たせました。部屋でボールを転がし、正面で捕る練習をさせたんです。もちろん素手で」

 いくら下手クソとはいえ、教えている相手はプロの選手です。少年野球のような指導には、当然、反発が出ました。

 再び広岡さんの話。
「最初のうち、選手はまるでバカにされたような顔をしていましたよ。しかし、そう簡単ではない。速い球、遅い球と交互に転がすとスキが見えてくるんです。そこで“オレ、いたずらするぞ、油断するなよ”とやる。シャッと速い球を転がしたりする。“そんな速い球、放るんですか!?”と目を白黒させていましたよ」