中国政府のしたたかな一手
人民元とドルの交換レート制限幅1%拡大の裏事情

人民元の管理当局である中国人民銀行〔PHOTO〕gettyimages

 4月14日、人民元の管理当局である中国人民銀行は、人民元とドルの交換レートの制限幅を従来の0.5%から1.0%に拡大すると発表した。今回の措置は、中国政府が人民元の改革を進める姿勢を示すことによって、欧米諸国からの切り上げ圧力をかわす狙いがあるとみられる。

 中国政府高官の一人は、「中国政府は一歩ずつ人民元改革を進めており、欧米諸国の批判は適切なものではない」との趣旨の発言を行ったという。つまり、今回、変動幅を拡大することで、人民元は普通の通貨へと一歩ずつ歩んでいることを示したかったのだろう。
ただ、変動幅拡大の背景には、海外から中国への投資資金の流入が減少していることから、変動幅を拡大することによって、人民元相場を押し下げる=対ドルで人民元安に誘導することで、自国の輸出企業にテコ入れをする意図があるとの見方もある。いずれにしても、中国は依然として一筋縄ではいかない国であることは間違いない。

 足元で、中国経済の成長率鈍化が鮮明化している。その背景には、欧州経済の減速によって、同地域向け輸出が伸び悩んでいることがある。今まで、中国経済を牽引してきた輸出にやや陰りが出ており、そうした傾向が続くと、今後、景気が一段と減速することが懸念される。

 それに伴い、海外から中国に流れる投資資金が少しずつ細っている。また、今年秋に予定されている共産党指導者の交代などの政治要因も、経済活動に微妙な影響を与えているようだ。それは、香港や上海の株式市場の展開を見ても明らかだ。株式市場は、足元で不安定な展開になっており、国内の投資資金の一部も海外に流出しているとの見方もある。

中国政府の計算と本当の目的

 金融市場の専門家の間では、「今回の人民元変動幅の拡大には、中国政府のしたたかな計算がある」との見方が有力だ。その一つは、欧米諸国からの批判をかわす狙いだ。今まで、中国は自国通貨を政策的に過小評価にしておくことで輸出を振興し、それを成長のエンジン役として高い成長を達成してきた。

 それに対しては、欧米諸国から批判の声が上がっていた。中国の経済規模が拡大するに従って、その批判の声は高まっている。中国政府としても、そうした批判を何らかの方法でかわすことが必要になってきた。足元で、海外からの投資資金の流入が減少しているため、中国政府には、「実際の変動幅を広げても、それほど人民元が高くはならない」との読みがあるとみられる。

 もう一つ考えられることは、一日の変動幅の制限を上下0.5%から1.0%に拡大することで、むしろ人民元安を誘導し易くするとの政策意図だ。中国政府は、口では人民元改革を進めると言いながら、その一方、人民元の交換レートをより低下させることによって、自国通貨を安くして輸出産業を救済することを考えているというのである。

 為替市場の専門家の間では、「今回の人民元改革=変動幅拡大は、中国政府のしたたかさを示すもの」との見方が有力だ。それが本当の目的だとすると、中国の景気減速がかなり厳しい状況になっていることを示すものとも考えられる。いずれにしても、「やはり中国はしたたか」との印象が残ったことは確かだ。

真壁 昭夫(まかべ・あきお)
1953年神奈川県生まれ。76年一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行入行。ロンドン大大学院修了。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向、みずほ総研主席研究員などを経て、05年信州大学経済学部教授。07年行動経済学会常任理事、10年FP協会評議委員などを務める。 主要著書等:「日本がギリシャになる日」(ビジネス社)、「行動経済学入門」(ダイヤモンド社)、「実戦 行動ファイナンス入門」(アスキー新書)、「下流にならない生き方」(講談社)、「ファイナンス理論の新展開」(共著、日本評論社)、「行動ファイナンスの実践」(監訳、ダイヤモンド社)、「国債と金利をめぐる300年史-英国・米国・日本の国債管理政策」(東洋経済新報社) 、「はじめての金融工学」(講談社現代新書)、「日本テクニカル分析大全」(共著、日本経済新聞社)、「リスクマネーチェンジ」(共著、東洋経済新報社)、「最強のファイナンス理論-心理学が解くマーケットの謎」(講談社)、「行動ファイナンス」(監訳、ダイヤモンド社)
この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら