勝間和代(経済評論家)×村木厚子(内閣府政策統括官兼待機児童ゼロ特命チーム事務局長)vol.3「少子化対策を打つことが経済成長の第一歩」

vol.2はこちらをご覧ください。

勝間: 東北の被災地を訪問してわかったんですが、年中津波が来ている地区の方はけっこう皆さん助かっていて、なぜかと言うと小さい頃からお爺ちゃんお婆ちゃんにひたすら昔のことを習ったからだというんですね。それもわざわざお説教くさく言うのではなくて、日常会話に出てくるんですって。

 ご本人たちはことさらに津波教育をしているつもりなんかなくて、思い出話や昔話をしているだけのつもりなんですけれど(笑)。ですから、沿岸部よりも少し内側のほうが被害が大きかったんですよね。

村木: 今回の震災でよくわかったことは、たとえば、子どもたちが安全だったかどうかを確認するときに、小学校以上の子どもなら学校に問い合わせれば全部わかるんです。ところが、幼稚園や保育所や各家庭となるとバラバラで、そういう未就学の子どもたちというのはある意味では災害弱者のはずなんですが、それを自治体が把握できていない、あるいは子どもたちの状況を把握する力がすごく弱い、ということがわかりましたね。

 ですから、そこは縦割りの弊害が強く出た部分で、このシステムの議論をしているときに、「やっぱり地域全体の子どもたちをしっかり見ていく新しい仕組みが要りますよ」と被災地の方が言ってくださって、本当にその通りだな、と思いましたね。

勝間: とくに、幼稚園にも保育所にも行っていないお子さんの安否の把握ができなかった、ということを聞きましたが。

村木: そうですね。それと、お父さんお母さんも、おうちの片づけをしたいとか、これから働かなければならないとか、あるいは失業してしまったりとか、保育所に通っていたお子さんが「保育所に行きたいのにもう行けないの?」というようなことがあって、親の事情次第で子どもたちがあっちへ行ったりこっちへ行ったり、居場所がなくなるようなことがないようにしなければいけないね、という話を福島の方にしていただいて、本当にその通りだな、と思いましたね。

司会: 原発事故の問題で、僕らの周りでもいちばん放射能汚染を心配されているのは子どもを持っているお母さんで、そういう方々の不安感というのは、少子化問題を考えた場合、今後影響が出てくるということは考えられますか?

村木: これからのサポート次第というか、本当にこれからが復興対策になるわけですね。それは、新しい仕組みや充実した仕組みを作るチャンスでもあるわけですから、これだけの不幸な出来事ではありましたが、だからこそ今後に向けて良い仕組みを作ろう、というふうに動いていけば、プラスの部分も必ず出てくると思うんですね。

 この前たまたま読んだ新聞記事で、福島では放射性物質の関係でなかなか屋外で遊べないので、非常に大きな屋内で遊ぶ施設を造ったという話があったんです。そのときに、それに携わった方が「屋外で遊べないとかいろいろなハンディがあるけれど、キチンと環境を整えて運動能力を高めていって、10年後に福島の子どもの運動能力が日本一になるようにしたい」と言っておられました。

 そういうことを考えると、大人のそういう「子どもを守ろう」という思いがあれば、解決策は作っていけるのかな、と思って、その記事にはすごく元気をもらいました。

勝間: いちばん心配されていますからね、子どもの運動能力に対する弊害というのは。

村木: それを「落ちないようにしよう」というのではなくて、「10年後には福島の子どもが日本一になるようにするんだ」と言っておられたのが非常に印象に残っていますね。

勝間: 実際、子どもの運動能力はずっと下がっていますからね。それは福島の子どもに限らないことで、それは外で遊ぶ場所が減っているからですよね。私が小さい頃といえば、普通に外でかけずり回っていろいろなゲームをしていたんですよ。

 私が育ったところも大してクルマがいなかったので、道路にチョークでケンケンパの線を引いてみんなでゴム跳びしたりして、クルマが通るとよける、というような。でも、今は子どもたちがみんな家の中に入り込みすぎているわけですよね。

村木: 路地から子どもたちの声が聞こえる、というような風景も今はなくなってしまいましたよね。

勝間: そうですよね。子どもたちもお互いにアポを取っていくんですよ(笑)。相手がお稽古事でいなかったりするので、携帯電話で打ち合わせをして集まるんですね。

村木: 子どもたちにもスケジュールがある、という時代ですよね。

勝間: ですから、三々五々路地に子どもたちが集まるということがなくなってしまったんですね。

村木: 子育てだけに限らず、もちろんパブリックなサービスというのは非常に大事なんですけれど、それにプラスアルファで家族や地域の力ってすごく大事ですよね。勝間さんにまたお願いをしますけれど、地域や企業などいろいろな力を子育てのために集めたいと思います。

勝間: そういえば、地域の子育て振興制度がありますが、あれは何という制度名称でしたっけ?

 東京ではやっていないからメディアの方はよく知らないんですが、東京以外のところでは、いろいろなお店や事業者さんがクーポンを出しているんです。たしか愛称がない名称だったように思うんですが。

村木: 企業参画型の子育て支援事業です。要するに、地域で子育て振興をするために、企業や商店などいろいろな人たちの力を借りて、子どもがいることでいろいろなメリットを感じられるような形を作っていこうということで、地域と企業がジョイントで子育てを支援するという事業をやっているんですよ。

 残念ながら東京と沖縄だけやっていなくて、他の45道府県にはあるんですが(笑)。今年もまたイベントをやるんですが、ずっと勝間さんにその事業ではお世話になっていて・・・。

勝間: ちょうど昨年の3月11日にそのイベントの講演で、まさに私が村木さんと交替したときに揺れたんですよ。

村木: それで「これはただ事じゃない」と。

勝間: 交替してから係の人に「何かしゃべってください」とか言われて「講演どころじゃない、これは避難でしょう!」ということで、参事官と2人で「避難しましょう」と会場に呼びかけて、皆さんに避難してもらいました。

社会全体のリソースを子育てに

勝間: でも、だからと言って路地で子どもが遊ぶような状態には戻れないんですから、そこは仕組みでカバーするしかないですね。

村木: 少し人工的にそういうものを作っていくということなんでしょうね。そうすると、幼稚園や保育所、学校なども含めて、企業さんの力を借りたりして助けていかないといけないんだと思うんですね。ですから、子どものための環境を作るという課題が一つあって、いわゆる社会保障とか福祉というような公的な制度だけではきっとダメだと思うんですよね。

勝間: 被災地でも、今までの空き地にどんどん仮設住宅が建ってしまって、子どもの遊び場が減っているので、子どもたちの集合場所をロレアルさんが寄付されてそこの運営をNPOの方たちがされていて、子どもたちやお母さんたちがたくさん集まっていました。

村木: 騒いでも叱られてない場所って、子どもには大事ですよね。

勝間: 大事ですよね。そういう場所をもっと増やしていかなければいけないと思うんですが、新システムのなかではNPOさんというのはどういう位置づけになっているんですか?

村木: 今回指定制でいろいろな事業に参加してもらうときに、NPOの人たちも子育てのいろいろなサービス供給の主体としてしっかり位置づけていこうということが一つ。それから、子育ての応援拠点を全国に増やしていこうとしていて、その担い手としても期待しています。また、新システムになって多様なサービスが始まったときにどれが利用しやすいかといったことを相談できる場所を充実していこうと思っていて、自治体で直接相談を受けてもらってもいいんですが、委託もできるので地域のNPOの力を上手に使ってください、と言っています。そこは自治体とNPOが上手にコラボしていくという動きが出てくると思います。

勝間: 最近では、自治体が入っているビルの1フロアが子育て広場になっているケースが増えてきましたね。

村木: ああいう形は良いと思います。力のあるNPOの人たちが上手に地域を巻き込んでいくというふうになると、とても良いと思います。

勝間: さっきのロレアルさんの件でも、ボランティアの方が交替でいらしていて、子どもたちを見守ったり遊びを教えたりしていました。でも、そこは仮設住宅の扱いなので、3年以内に撤去しなければいけないんだそうですけど。

村木: そうすると、また別の場所を探さないといけなくなりますね。

勝間: そういうふうに、どんどん企業さんやNPOをはじめ社会の人々を巻き込んでいかないと、国だけの予算では限りがあると思います。

村木: この間、マイクロソフトさんが被災地でいろいろな支援をしてくださるということだったんですが、元々そこは若者支援をやってくださっていて、そのときに、たとえばパソコンなんかのことをいろいろ教える教室を開くにしても、指導する役は自分たちではやらないんだそうです。

 必ずその活動と連携している地域のNPOの人たちにその役を演じてもらって、自分たちが手を引いたあともその活動が地域に根づくように活動していらっしゃいます。そういう形にすると、地域やNPOのエンパワーメントも含めてできるのですごく良いな、と思います。

勝間: 難しいな、と思うのは、これまであまりにも標準家族を主体として法律が作られ、標準家族が子育てを担うべきだと考えられてきたことですね。

村木: そうですね、日本の経済成長にも助けられて、家族だけの力でもそんなに無理なくできていたということですね。でも、今はサポートがないと、若い人たちにはそれはできないと思いますね。

勝間: そういう意味で、「女性は子育てから撤退している」という表現を使っている人もいますが。

村木: そう思います。静かなストライキなんだと思うんですよね。

勝間: そんなに何でもかんでもできませんよ、と。それは、社会のシステムであるとか、企業であるとか、そういったものが少し手伝っていく。

村木: 子育てが難行苦行だというだけではなくて、みんなが助けてくれて、人生の大イベントではあるけれど、楽しいことでもある、というような状況にしていかないと、当事者だけが大きな負担を負うのに「生んでください」とは言えないですよね。

勝間: そうなってくると、いろいろなサポートが多面的に必要なんですが、いちばん最初の質問に戻りますと、それならなぜ、今までも多面的なサポートをしてきたつもりなのにできなかったんでしょうか?

 それについて、新システムでは、地方自治体に権限を持たせる、仕組みを柔軟化してシステムそのものがいろいろな形で有機的につながって、自分自身が自分を改革できるようにする、ということをおっしゃっているんだとは思うんですが。

村木: 中央に子ども・子育て会議を作ろう、関係者の方がしっかり議論ができる形にしよう、それからもう一つ自治体にもそういう会議を作ってもらって、PDCAサイクルをキチンと回してみよう、というのが今度のシステムの一つの特徴なんですね。

 そういう意味では、現場の本当の当事者の声をうまく吸い上げることと、そこにキチンとお金をつけるということ、それから、そのお金が本当に良い形で使われているかどうかをみんながちゃんとチェックする。そういう仕組みが動き出して、関係者の声がしっかり活かされるようになると、良い仕組みに育っていくんじゃないかと思います。

勝間: そうすると、この仕組みはある意味で非常に画期的なんですね、これまでの中央統制型の仕組みに比べると。

村木: しかも、国と地方は敵対的に言われる場合もありますが、自治体も入って、子育ての当事者も入って、幼稚園の団体も保育所の団体も、関係者みんながていねいに議論して、子どもたちにとっていちばん良い方法を考えていくということで仕組みを作ったので、おもしろい形の新しいチャレンジだと思っています。

勝間: 医療や教育についても、同じような雛形が使えるのではないかと私は個人的に思っているんですよ。今はどうしても中央のほうで持ちすぎている権限を、お金と共に自治体に委譲して当事者たちが決めていく、ということですから。幼保一体化でいろいろな認定こども園を訪問したときに、制度の使い勝手が悪いということをずいぶん言われたんですよ。

村木: 認定こども園は現場では子ども達や保護者にとって素晴らしい取り組みを実践されています。どうしても二重行政を解消できていないので、園の皆さんにとっては事務手続き面ではご苦労をおかけしています。

勝間: それに対して、そこは園長さんがやる気のある方で、自腹を切ってでもという形で頑張っておられたんですけれども、そういう勇気がないと、それこそ難行苦行になりますね。

村木: 今の認定こども園の関係者の方々には本当に感謝しています。その方々の蓄積を踏まえて今度こそ二重行政ではないいい制度にしたいと思っています。
いずれにしても、これから、現場の声が十分に反映できて柔軟に仕組みが動いていけるようになると、相当おもしろいことになるかな、と思いますね。

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