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 4月1日、朝日新聞のコラム「波聞風問」に原真人編集委員が『「財務省陰謀説」の正体』という原稿を書いていた。エープリルフールなので「シャレだろう」と思って読んだところ、大まじめな財務省擁護論だったのでかえって爆笑してしまった。また、同紙3月29日付「経済気象台」では『不十分な副作用への配慮』という題で"山人"という筆者が金融緩和警戒論を展開し、日銀の肩を持っていた。

 「波聞風問」には「日本の税収では歳出の半分も賄えない。増税を考えない方がおかしい」というくだりがある。財政再建のためには増税が必要であり、増税すれば税収が増えるという前提なのだろう。これは、マスコミにありがちな厳密性に欠ける文章の典型だ。

 財務省は、ここまでおめでたくはなく、税率の引き上げと税の増収をきちんと区別している。なにしろ、'97年に消費税を上げたものの翌年以降の税収総額は逆に減少し、いまに至るまで'97年の税収を一度も超えていないのだ。

 財務省の狙いはあくまで税率の引き上げである。なぜか。税率が高くなると、軽減税率を求める業界が政治家に陳情し、特例措置ができる。その例外扱いには官僚の裁量が深く関わるので、そこに官僚利権が発生する。特例措置を認める代わりに天下りも確保できる。財政再建など、実は二の次なのだ。

 財政再建だけが目的ならバブルを起こすのが手っ取り早い。だが、それでは税率アップができないので、財務省は日銀と結託して金融緩和を目の敵にする。まさに「経済気象台」の内容だ。このコラムには日銀官僚独特の言葉遣いも多い。

 ところで、官僚のマスコミ操縦には様々な手口がある。記者が勝手応援団として書くのは放任するが、中には自分は役所の味方だとアピールするとともに間違いを直してもらうために、原稿チェックを求める記者もいて、そうした場合、役所は数字の間違いしか直さない。例えば、税の増収と税率の引き上げを混同していても指摘しない。誤って理解しているほうが役所には好都合だからだ。

 凄まじいのは、都合の悪い記事に対して反論する場合だ。ある官僚OBから聞いた話だと、最初に役所が新聞コラムのスペースを確保し、その後で適当な学者を筆者に仕立てる。その上で、役所が原稿まで用意するという。御用学者たちは、そんな役割を嬉々として引き受けるらしい。

 役所がマスコミや学者を籠絡するときに利用するのが審議会だ。広く国民の意見を聞くという名目で学者枠やマスコミ枠があり、少なくとも年に1回以上、海外や国内視察がある。国内では世間の目が気になってあまり羽目を外せないが、海外視察は別だ。当然アゴアシ付き。飛行機のランクも、役所の規定どおりなら良くてビジネスだが、役所のコネでグレードアップし、ファーストにすることも少なくない。現地の空港では大使館員が迎えに来るので、通関も待ち時間なしで済む。これだけで、たいていの人は舞い上がる。

 通常では面会できない人にも役所の便宜で会える。随行の役人とは何日も寝食を共にするから個人的関係も深まる。一緒に歓楽街で遊ぼうものなら、それこそ一生の付き合いにもなる。

 そうした関係を背景として、役所のプロパガンダに協力してくれと頼まれたら、普通の人間なら断れないだろう。増税に理解のある記事や学者発言が目立つのは、こんなことが背景にあるからかもしれない。もちろん、「波聞風問」は無関係だと思うが。
 

「週刊現代」2012年4月21日号より


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