雑誌
首都直下型地震で「山手線が 崩壊する!」

 築100年超の高架、盛り土区間、脆弱な橋脚・・・次々と見つかる危険な箇所。JR東日本は対策に520億円を投じると言うが、「アメ横」「有楽町ガード下」を〝営業中〟のままでは耐震補強できず、いったいどうする?

 首都圏の大動脈と呼ばれるJR山手線は、ピーク時には1時間に24~25本が走行するほどの過密ダイヤで運行されている。乗車率は200%を超えることも多く、その時間帯の利用者は最大15万人にも上る。そんな山手線を巨大地震が襲ったならば、乗客の身の安全は守られるのか。線路を支える橋脚は耐えられるのか。

 首都直下型では震度7クラスの地震発生が予想されている。今年3月、JR東日本は520億円を投じて山手線を含む首都圏9路線の緊急耐震工事に着手することを発表した。工事の対象はレンガや石積みの古い橋脚など約200ヵ所で、5年以内の完了を目指すという。

新橋駅近くのレンガ造りのアーチは、関東大震災でも崩壊しなかったほど耐震性の高い構造物だが

 だが、工事はおろか事前調査ですら難航が予想される区間もある。本誌はまず、その代表的な二ヵ所を訪ねた。

 初めに向かったのは上野―御徒町間の高架エリアである。高架の下に連なっているのは300mに及ぶ「アメ横商店街」だ。約400ある商店の多くは橋脚の間に店を構えているが、その様相は、戦後の闇市から続く歴史が物語るように、やはり古い。鉄サビがあちこちで目に付き、天井にはたわんだ箇所もあった。

「耐震工事?JRから直接は何も聞いてないよ。阪神大震災(’95年)の後だって何の工事もしてないんだから。それに『商店は一時移転』と報じられてたけど、冗談じゃないよ。仮にどこかのビルに入ったとしても、同じような商売が成り立つとは到底思えない」(鮮魚店店主)

(左上)代々木駅近くの盛り土区間は、付近の土地が低いためビルの3階部分相当の高さ
(右上)目黒―恵比寿間にある古びた架道橋。電車は、盛り土の上に敷かれた線路を走る
(左下)新橋駅付近にて。高架を支える脚部は貧弱で、何とも言えぬほど不安になる・・・
(右下)目黒川沿いの山手通りをまたぐ架道橋はサビにまみれて見るからに劣化が激しい

 補修工事のためには店舗をいったん撤去して内装を剥がし、橋脚を鉄板で巻くなど大掛かりな作業が必要となる。その間、他の場所へ一時移転をするということは、つまり、町から人が消えることを意味する。JR東も「交渉はこれから」と語っているように、先行きはいまだ不透明なのだ。同社は阪神淡路大震災を受け、危険度が高く、かつ高架下に店舗がない箇所の補強工事を’08年までに終えているが、アメ横は未着手のままである。町の姿も風情も変えてしまいかねない工事だから一筋縄ではいかないのだ。

 アメ横と同様にガード下に小さな飲食店が身を寄せ合うように乱立しているのが、有楽町―新橋間だ。こちらはさらに古い歴史を持つ飲食街である。レンガ造りの連続アーチ状の高架橋の建設は、なんと100年以上前、1907年のことだ。

「鉄道事業の草創期に建設されたレンガ造りの構造は、関東大震災にも耐えたほど優れた耐震性を持つことが実証されています。とはいえ、劣化による補修工事はもちろん必要です」(建設業者)

 アメ横に比べ、こちらは補修工事も目に付いた。近隣の不動産業者によると、「JR東が重点的な再開発を行おうとしているから」だという。とはいえ店舗が入っていない箇所は着工できても、テナントが入っていればアメ横と同様に手をつけられない。店舗の移転先や補償をどうするのかという問題は、ここでも依然として横たわる。直下型地震によって高架を支える橋脚が崩れ、電車は脱線、下の店舗にも甚大な被害が出る---そんな恐怖が拭えないのである。

崩落しかねない盛り土区間

 山手線内で一番きついカーブを走行しているのが品川-大崎間だ。その区間のほぼ中央部には目黒川が走っている。それをまたぐ橋梁は、川から上る蒸気にあてられ、至るところに金属のサビが見られる。コンクリートの壁には2mはあろうかというヒビも複数あり、脆弱と言うしかない。

 実際に外回り線(時計回りの進行)に乗車してみると、最前車両では一瞬、前方の視界からレールが見えなくなるほどのカーブだ。身を外側に持っていかれるほどの遠心力が感じられる。もし、この区間を乗車中に地震に見舞われ、脱線でも起こしたら・・・・・・。阪神大震災の発生直後に多くの車両が脱線、横転、そして炎上した光景が思い起こされた。

 また、阪神大震災と言えば、橋梁や橋脚の倒壊のほかにも、盛り土が横滑りしたような崩落が数多く見られたのも忘れてはならない(写真下右)。山手線で言うと、盛り土区間が延々と続いているのは高田馬場―目白間、そして代々木―原宿―渋谷間だ。JR東はこれらの区間の盛り土の補強をするための調査・設計費も計上するという。だが、具体的な工期となると、「早期完了を目指す」と述べるのみである。直下型地震は明日にも起こりかねないのに・・・・・・。大規模な崩壊への不安が湧き起こるばかりであった。

 そもそもJR東の耐震工事計画は「後手後手に回らざるを得ない」と指摘するのは、鉄道構造物に詳しい工学博士の山下彰彦氏である。

「これはJRが民営化したことの弊害と言えるかもしれませんが、実は今現在、耐震工事の設計というのは3つの団体がそれぞれ独自に行っているんです。一つはJR東本体。あと二つが、国土交通省の鉄道局の下部組織である鉄道総合技術研究所と、鉄道建設・運輸施設整備支援機構。国鉄の時代は一体であった三者ですが、今やそれぞれの考え方があり、なかなか前に進まないという問題があります。鉄道総合技研は、国からも補助金が下りているので耐震基準の設定には積極的です。が、実際に補修工事を行うJR東では、高度な工事を実行するためのソフトウェア開発が追いついていない。

 また、そもそも、すべての構造物に耐震設計を施すことは土台無理であるし、それだけでは被害を最小限に食い止めることができないのは、JR東も十分承知しているでしょう」

 そこで同社は、直下型地震に備えて地震計を従来の97ヵ所からさらに30ヵ所増設させることも発表した。これにより、地震の発生から警報発令までの時間を2秒ほど短縮させて約4.5秒にでき、列車をより迅速に停車させることが可能になるという。走行中の列車をいち早く停めることが被害の拡大を防ぐ最良の手段だからだ。だが、関西大学社会安全学部の安部誠治教授は「震源が首都圏直下だった場合、まったく無意味だ」と主張する。

「地震計の増設は、地震発生時のP波をいち早く測定し、車両を急停車させるための方策です。しかし、それは沖合を震源とする地震では役割を果たすことができても、直下型ではP波とほぼ同時に強い揺れが襲ってくるために、無用の長物にしかならないのです」

 安部氏によると、耐震工事や地震計の増設などのハード面だけでなく、ソフト面の充実を図るのが肝要だという。

「例えば、地震が起きた際に救助活動をどうするのかといったことです。行政との連携も不可欠ですし、総合的な対策が求められる。そのためには、『M8クラスの地震発生で山手線はこう崩壊する見込みである』といったようなシミュレーションやリスク開示が、必要不可欠です」

 繰り返しになるが、首都直下型地震は明日にでも起こりかねない。JR東は、襟を正して対策事業に邁進してほしい。

「フライデー」2012年4月20日号より

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら