勝間和代(経済評論家)×村木厚子(内閣府政策統括官兼待機児童ゼロ特命チーム事務局長)vol.2"空気のような差別"が満ちるこの国で女性が直面する「産み悩み」と「育ての苦労」

vol.1はこちらをご覧ください。

勝間: 単純な発想として、国にとって子どもが生まれれば将来その子どもたちが納税するんだから、投資だと思えばいいんだと思うんです。

村木: そういう意味では社会保障のなかでも、いちばん投資的な要素というか回収できる要素が強いのは子どもの分野だと思いますね。

勝間: それを皆さんあまり大きな声で言わないのはなぜなんでしょうか(笑)。

村木: 保育・幼児教育が変わるといろいろ良い面があります。一つはお母さんが働けるということ。雇用が生まれるだけでなく、子どもが生まれることによって将来の支え手が増えるという面もあります。

 OECD諸国の人々がよく言うんですよ。「小学校1年生から教育がスタートするわけではない」と。小学校までの初期投資が人材育成にとっては非常に大事だし、その初期投資は非常に効率が良いと言われているんです。子どもに対する投資は、何重にも良い効果があると思うんです。

 たしかに高齢化がここまで進んで、年金にも医療にも介護にもものすごくお金がかかって、借金しながらそれを賄うという状況になってからの子育てへの投資なので、なかなか景気のいいことは言えないんですが、だからこそ今やっておかなければますます苦しくなってきます。

勝間: その文脈で言うと、もう一つ不妊治療の問題がありまして、北欧3国の少子化対策として、不妊治療による成果で出生率を0.2~0.3程度上げているんじゃないかと言われていますね。日本は、ちょっとした補助をつけていますが、ある意味「自腹で何とかしろ」という国ですよね。

村木: そうですね、不妊治療にはたいへんお金がかかります。経済的な支援は強化もしているんですが、その一方で課題とされているのが、年齢によって治療効果に大きな違いがあるということなんですね。

勝間: それを専門家と議論していまして、日本ではある意味で効果がないとわかっているのに不妊治療をするクリニックが多すぎる、と。

村木: 不妊治療の効果を上げるためにも、ご本人が結果が出ないのに苦しまなくて済むためにも、どういう形の不妊治療が良いのかということを、もう少し共通認識として持たなければいけないということと、妊娠や出産に対する知識の情報提供をもう少しやらなければならないんじゃないか、という議論があります。

 産婦人科の先生方やNPOの方々が、若い人たちに身体の仕組みや妊娠出産について知ってもらおうと動き始めていて注目しています。政策的にもお手伝いできることがあればいいな、と思っています。

勝間: ちょうどそのときに見せていただいたデータが、受精した場合の着床率に関するもので、20代だと6割くらい着床するんですが、30代40代になるとすごい勢いで落ちてきまして、40代だと10%とか15%に落ちてしまいます。そういうことを知っていれば、のんびりとキャリアを積んで30代後半とか40代前半で産めばいいや、という発想にはならないと思うんですよ。

村木: 産み時で悩んでいる若い女性はたくさんいるんですが、年齢で身体の機能が違ってしまうことを知ったうえで判断できるような状況が、すごく大事だと思います。

勝間: その先生がおっしゃっていたのは、「芸能人の方々が30代後半や40代前半で子どもを産むのはあまり報道しないでくれ」と(笑)。あれを見て「私も産めるんだわ」と、安心してしまうという問題があります。あれは運が良い人たちなんだ、ということをもう少し理解してほしい、と。

村木: 高齢出産ということ自体決して悪いことではないんですが、妊娠の可能性は確率的には非常に下がってくるという知識はお伝えする仕組みが必要だと思いますね。

勝間: 高校生くらいの頃から避妊教育と同時に妊娠教育もやってくれ、ということをずいぶん言われました。

村木: 性教育の問題はいろいろな意見があって難しいところがありますが、逆に言えば、たとえば大学生であるとか職に就いたくらいの早い時期の成人の女性がそういう知識を持つことには誰も反対しないでしょうから、そういう部分についてはうまく情報発信ができれば、本人も苦労せずに良い選択ができるな、という気がしますね。

勝間: 身の回りでも多すぎるんですよ、40代になって不妊治療を初めて結局何年か苦労してやめてしまうという人が。せっかく妊娠しても、子宮外妊娠だったり流産してしまったり、ものすごくお金と時間をかけて、そのうえ仕事を辞めてしまう人もいますし。

村木: ご自身の負担も大きいですから、できれば早く選択ができるようになればいいと思いますね。まずは、キャリア形成に妊娠出産がハードルになっている状況を取り除いてあげないといけない、というのがあるんでしょうけれどね。

変わらない女性の負担

勝間: 村木さんのご本『あきらめない』では、「普通でいいんです」ということをずっと言ってらっしゃいますよね。すごく感動しました。スーパーウーマンでなくても普通に子どもを産んで育てて仕事ができる、ということを示したかったと・・・。

村木: 周りがあんまりスーパーウーマンと言うものですから(笑)。スーパーウーマンだとなかなか「じゃあ私も」ということにはならないので、「普通で大丈夫ですよ」というメッセージを出したいな、と思いまして。

勝間: でも、誰も村木さんを普通だと思っていないと思いますよ(笑)。「普通の選択で普通にできることを示したい」ということをずっとおっしゃっているんですが、なぜ日本では普通だとくじけてしまうんでしょう?

村木: 男女雇用機会均等法ができた頃に言われていたのは、「均等法ができて平等になったから、男性と同じトラックレースに参加できますよ」ということでした。でも、実際にやってみたら、気がつけば女性だけが荷物を背負って障害物競走になっていたわけです。

勝間: 子育ての負担を含めていろいろありますからね。

村木: やはり仕事と家庭の両立対策をするということと、男性にも家事や育児をいっしょに担ってもらうというところがすごく大事ですよね。

勝間: これはなぜなんですかね、日本の男性の家事参加率が低いのは。

村木: 大分良くはなってきているんですが、まだ低いですね。お子さんが生まれたら、お父さんは全員2週間とか1ヵ月育児休暇を取ってもらえるとすごくいいな、と思っているんですけどね。何か、運動になりませんかね。

勝間: 育児休暇の取得率は1%くらいでしたっけ?

村木: そうですね、年休で数日休んでいるというのはあるのかもしれませんけれど。

勝間: 目標値は13%ですよね、たしか。

村木: そうですね、女性が8割9割取るなかで男性は非常に少なくて。収入が減るというのもあるかもしれませんが。

勝間: 今は補償が4割でしたっけ5割でしたっけ?

村木: 5割ですね。それに保険料の負担がなくなりますから、実質はちょうど3分の2くらいお金が出るという形になるんですね。

勝間: そんなにひどく下がるわけではないんですね。

村木: そうなんですが、ちょっと苦しいというのはあるのかもしれません。

勝間: あとは、左遷されるんじゃないか、とか(笑)。ご本人たちもおっしゃるんですよ。一回育休を取ると左遷されて禊(みそぎ)が済んでからようやく本社に戻ります、というような。

村木: やっぱり、あいつはちょっと変わったやつで会社に対する忠誠心が足りない、みたいなのがあるんですかね。

勝間: 会社のほうで推奨しているところはいいんですけれど、ご自身が取りたいというと「はぁ?」みたいな顔をされるというんですね。

村木: でも日本では、たとえば忌引きみたいな形である日突然でもお休みが取れるじゃないですか。妊娠出産だとだいたい数ヵ月くらい前にはわかりますよね、ですから、工夫したら休めないわけはないんじゃないかと思うんですけれどね。

勝間: 私はそれを生産性の向上につなげればいいと思っているんです。私はアメリカの金融機関にいたので、2週間の連続休暇が義務なんですよ。なんで年に2週間休ませるかというと、不正防止が目的なんです。その人が2週間いなくても不正がバレません、という。

 そうすると当然私のペアの人の仕事が全部できるようになっていますし、仕事を交換すると向こうの非効率な部分もわかりますから、とくに私がシニアとしてジュニアと組んだ場合にそういう部分がわかるんです。それで、ジュニアに対して、仕事についてここをこうしてこうしましょう、というように生産性の提案ができるんですね。

 あとは会社のほうでもすごく労働時間に気をつかっていて、私のアシスタントの労働時間が一定範囲を超えてしまうと私が人事に呼び出されて、「おまえは何をやっているんだ、管理能力がないんじゃないか」と言われるんです。そういう形で、社会全体がもっと労働時間を少なくするような方向の意識づけが必要ですよね。

村木: 今回は震災で節電対策もあって、企業のなかでも労働時間短縮ということで今までのレベルとは違う一段上のレベルのことをやっていて、いろいろな発見があったと企業の方からも聞いているので、チャンスじゃないかと思うんですね。

勝間: 具体的にどういう発見があったんですか?

村木: 今ちょうど資生堂の岩田さんからそういうメールが入ったところで、ものすごく残業対策になったというふうに聞いたので、ちょっと具体例を聞いてみなければいけないと思っているんですが、資生堂みたいにあれだけそれまでにワーク・ライフ・バランスについて努力をしていたところでも、かなり強制的にやったことで相当残業量が減ったと言っているんですね。

勝間: やり方を工夫しなければならなくなるんですよね、強制的に電気を消されてしまうので。

村木: あれだけ普段ワーク・ライフ・バランスという掛け声でできなかったことがどうもできているらしいということを聞いたのですが、要するに非常事態だと思うから、今までやれなかったところまで手を着けたんじゃないかと思うんです。

勝間: ああ、今までなあなあでやってきたところにも手を着けた、と。

 ええ、ワーク・ライフ・バランスならここまでというのが、節電でもう強制的にやらなければならないので、もう一歩二歩踏み込んだんじゃないかと想像しているんですよ。ですから、ちょっとそこを聞いてみたいと思っているんですが。

勝間: 震災と節電で子どもが増えるんじゃないかという話があって、少なくとも結婚は増えているんじゃないかということで、結婚が増えれば子どもも増えるはずなんですけれど。

村木: 日本の場合はそうですね。ですから期待はできると思いますし、家族の大切さや、引き継いでいくこと、つないでいくことの大切さは実感しましたよね。

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