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中国次期最高指導者、早くも躓く
特別レポート「弱すぎる男」習近平の悲劇

習近平氏〔PHOTO〕gettyimages

 中国の「次期皇帝」習近平とは、何者なのか。政治信条、性格、学歴など、その多くがいまだベールに包まれている。政権深奥への取材で、その実像に迫った産経新聞特派員・矢板明夫氏のレポート。

失脚した幼なじみ

 3月、中国では数年に一度の大きな政変があった。共産党の権力中枢を担う3つの派閥、太子党・共青団・上海閥のうち、太子党のトップランナーの一人と目されていた薄熙来が、事実上失脚したのだ。

 中国では今秋にも、胡錦濤総書記から習近平への権力委譲が行われる見込みだが、この次期最高権力者である習近平もまた、太子党に属する。薄熙来の失脚により、習近平の権力基盤はどうなるのか---。

 太子党とは、かつての共産党高級幹部の子弟を指す。親の七光りの恩恵を受けて、党内で異例の出世を遂げたり、若いうちから多額の金銭的利得を得るなどの特権を持つ人々のことだ。

 彼らのもう一つの特徴は、幼少期から幹部専用住宅に住むため、互いに顔見知りで、広範な人的ネットワークを形成していることである。実際、習近平と薄熙来も幼い頃から面識があった。

 両者の関係を示すこんな話がある。

 習近平と薄熙来は、薄の方が4歳年上だが、幼稚園の頃から一緒に育った。薄熙来は喧嘩ばかりしている腕白なガキ大将で、一方の習近平は大人しくマジメな子供だった。

 薄の弟が習近平をいじめていたという噂もあった。いわば二人は不良グループとマジメな子グループの代表で、習は薄に頭が上がらないという間柄だった。そのせいか、今でも習近平は薄熙来をどこか怖がっているふしがある。仲間でありながら同時にライバルでもある、そんな微妙な関係だというのだ。

 ではいったい、薄熙来を失脚させたのは誰なのか。

 薄は現総書記の胡錦濤、首相の温家宝らにとって邪魔な存在だった。というのも、彼は書記を務める重慶市で次々に保守反動的な政策を実行に移し、貧しい民衆の不満を煽りながら、現指導部と真っ向から食い違う政治方針を打ち出した。さらに、胡錦濤の腹心とも激しく対立していたのである。ここで薄を潰す決断を下したのが、現最高指導者の胡錦濤であることは確実だ。胡はずっと「薄打倒」のタイミングを計っていた形跡もある。

 習近平にとっては、胡錦濤がライバルの薄熙来を倒してくれるなら悪い話ではない。それで、今回の政変では中立を決め込んだ。

 ただ、習近平は複雑な心境でなりゆきを見守っているはずだ。薄熙来の失脚により、太子党全体には少なからずダメージがある。胡錦濤=共青団の力を見せつけられ、習の政権は発足後しばらく共青団に配慮しながらの運営を迫られる。習の権力は、スタート前にして既に揺らいでいると言っていい。

習近平 共産中国最弱の帝王』(文藝春秋)が話題となっている。

 中国残留孤児2世というルーツを持つ著者の矢板明夫氏は、産経新聞中国総局特派員として北京に暮らす。

 中国の新たな最高権力者・党総書記に就任する習近平の素顔、生い立ち、政治信条は中国国民にさえほとんど知られていないが、氏は同書でその深層に迫っている。

 現在の中国は、改革開放政策で経済的豊かさが増す一方、共産党一党独裁が続くという大きな矛盾を抱えている。そこで生まれているのが、共産党幹部と財界の癒着だ。

 こうした状況下で薄熙来は、貧しい人たちの共産党・政府に対する不平不満を煽って、地元の金持ちの共産党幹部を捕まえて処刑し、自らはヒーローを演じるという政策を実行していた。

 重慶に住む貧しい層は、これに拍手喝采を送った。

 '10年に取材で重慶を訪れたとき、日本円で200円ほどの安価なマッサージ店に入った。すると、マッサージ師が「薄熙来は素晴らしい」と褒めちぎり始めた。「偉そうな奴ら、悪いことをして金持ちになった官僚は、みんな彼に捕まった。中国をよくできるのは薄熙来だけだ」と。

 薄は捕まえた人を簡単に死刑にしたので、「でも、なにも殺さなくてもいいんじゃないか」と反論したところ、「お前は官僚の味方なのか。帰れ!」と怒鳴られ、マッサージの途中で追い出されてしまった。それほど一般民衆の間には官僚、特権階級への怒りが溜まっていた。

 しかし、その薄熙来は排除されてしまった。

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