勝間和代(経済評論家)×村木厚子(内閣府政策統括官兼待機児童ゼロ特命チーム事務局長)vol.1 「これまでの少子化対策はなぜ失敗だったのか」
〔左〕村木厚子さん(内閣府政策統括官兼待機児童ゼロ特命チーム事務局長)と〔右〕勝間和代さん(経済評論家)

勝間: 民主党の幼保一体化政策は、まず「子ども・子育て新システム」という名称を何とかしたいですね。いかにも無味乾燥で、これでは誰も何のことだかサッパリわかりませんよ。

村木: 多分、幼稚園と保育所を一体化した施設は法律上「総合こども園」という名称になりそうなので、施設の名称の方はだんだんみなさん馴染んでくださると思っているんですが、システムのほうはどうですかね。

勝間: この名称が決まったのは5、6年前ですか?

村木: 民主党政権になって最初の基本制度案要綱を作ったときには、もうそういう名称になっていましたので政府ベースでは今から2年ほど前でしょうか。

勝間: いつの間にかそうなっていたような印象ですよね。

村木: 「子ども・子育て新システム」を略すと「新システム」。ますます何のことだからわからない(笑)。

勝間: コンピュータの新しいシステムですか?といわれてしまいます。ちょっと残念ですね。

村木: 新システムという名前が法律上あるわけではないのでいい呼び名があればそれを使いたいですね。私が勝間さんと最初にお話しさせていただいたのは3年くらい前ですよね。私が勝間さんたちに「にっぽん子育て応援団」の設立に力を貸していただけないかというお願いでしたね

 あれは「高齢者介護の問題では100万人も応援団がいるのに、なんで誰も子育てを応援してくれないんだろう?」との思いがあって、子育てについても応援団を作ってくれたっていいじゃないかということで、まず介護の応援団を作った樋口恵子さんのところへ行ったんです。

 そのときに樋口さんに言われたのは、「1.57ショック(1989年の合計特殊出生率が1.57となり、丙午のため過去最低だった1966年の1.58を初めて割り込んだこと)以降に、政府がいったいいくつ子育てについてのビジョンやプランを出したか数えてごらんなさい」ということで、数えてみたらあの時点で結構あったんですよ。

勝間: たくさんありましたね、「エンゼルプラン」「新エンゼルプラン」「子ども・子育て応援プラン」とか(笑)。

村木: だから、今回の仕組みはそれまでに出されたビジョンやプランと何が違うのか、樋口恵子さんに約束したように、今度こそ問題を解決できるものになっているかどうかを、すごく自問自答したんです。

 そのときに、これまでの政策の蓄積を踏まえながら、今ある制度の単なる延長線上ではなく、仕組みそのものに切り込んで、今回こそは問題を解決できる仕組みとしたい、だから「新システム」なんだ、というふうに、自分自身では頭の整理をしたんです。ですから、この制度を作ったときには、本当に問題解決ができる仕掛けが入っているのか、待機児童のいる都市部も人口減少地域でも、地域の実情に応じて生活圏域の中で保育や幼児教育の機会を子どもたちにしっかりと保障できる仕組みになっているか、ということをちゃんと考えてきたんですよ。

大切なのは実情に沿った仕組み作り

勝間: これまでのさまざまなビジョンやプランは、なぜ問題解決の役に立たなかったのでしょう? いろいろなお金もつけましたし、ありとあらゆることをやったように思うんですが。

村木: 今までやってきた施策にはいくつか共通点があって、一つは今ある施策を将来に向けて伸ばしていく、足元をスタート地点にして量を伸ばしていく、というものでした。

勝間: たしかに量を伸ばしていくものでしたね。保育所の数を増やすとか。

村木: だから、必ず「○○年時点で△△ヵ所あるものを、○○年時点までに△△ヵ所に増やす」とか、「現在待機児童が○○人いるから△△ヵ所に増やす」というような形でした。いろいろなビジョンがあって、その考え方の整理をしてみましたが、最後の結論はやっぱり量を伸ばすことになるんです。

勝間: そうですね。昔の児童手当を倍にするとか。

村木: お金についても、量を伸ばす、対象を広げる、という形なんですね。それで相変わらず国が政策のメニューを決めて、そのメニューごとに補助金がついていて、それを全部伸ばしていくというものだったんです。

勝間: 仕組み自体を変えずに、量だけ増やすというものだったんですね。そこで、仕組み自体が問題なのだという認識に立ち戻ったわけですか?

村木: たとえば、待機児童の問題なんかが典型ですが、毎年4万、5万人分の保育所を造るんですが、ずっと2万数千人の待機児童がいるんです。潜在需要も含めて将来どのくらい必要があるか、ということを、自治体が自分の地域についてキチンと把握していくことが必要です。

勝間: すいません、それはこれまで需要を把握していなかった、ということなんですか?

村木: こうした新しい仕組みの必要性は、安倍政権のころから検討が始まっていてその頃からやっと潜在需要の調査が行われ始めました。

勝間: すごい! 市場調査をせずに保育所を造っていたんですか?

村木: というか、「今いる待機児童がニーズである」という考え方ですね。

勝間: でも、女性の労働力率がどんどん上がっていますから、いくら保育所を造ってもいたちごっこですよね。

村木: だから、お母さんたちの「働きたい」あるいは「保育所があれば働くという人生設計をする」というニーズを丁寧に把握することまではできていなかったのは事実だと思います。また、お母さん方のライフスタイルも多様になってきて、おうちにいるか、フルタイムで働くかという二者択一ではなくなっていますよね。

勝間: その発想自体が歪んでいるというか、現代の実情に合わなくなっていますよね。

村木: もう一つの問題は、都市部には待機児童が山のようにいるんですが、地方では逆に子どもがいなくなっていて、保育所や幼稚園の存続が難しくなっています。それについては、それぞれの自治体でその地域に合った施策をちゃんとやるために、自治体に権限や責任を降ろしていかなければいけません。

 今回は市町村に大幅に権限や責任を降ろすようにして、メニューはいろいろ作るけれど、「まとめてお金を渡すので、潜在需要もちゃんと調査して自分の自治体に合った子育ての計画を立てて、いちばん自分の地域に合ったサービスの組み合わせで、お金を効率良く上手に使ってくださいね」という形にしました。

 そういう形で市町村を中心にして、そこに流すお金もできるだけ束ね、国においても役所の権限も内閣府に集約をするということが大きいですね。

 それと、もう一つ問題があって、今まで自治体は自分のお財布を見ながら保育所を造ることになっていたんです。

勝間: そうなんですね、造れば造るほど赤字になるということになっていて。

村木: 苦しいんですよね。先日東京のある区の区長さんが来て、「『○○区は頑張って保育所を作ったので待機児童が少なくなった』という評判が広がった途端に、みんながうちの区に引っ越してきてしまった。お願いですから、全部の自治体がちゃんと頑張るような仕掛けにしてください」と言われました。

勝間: 頑張った区が逆に予算を増やさなければならなくなりますからね。

村木: 今度のシステムでは、待機児童のために保育をやるということでいろいろなサービスが始まったら、自治体がお財布を見てそれをブロックをすることができない仕組みにするんですね。認可制から指定制に転換するということで、他の分野でも供給量を上げるのに役立った仕組みなんですが、それを保育にも採り入れるということです。

勝間: それはどうやってブロックしていたんですか?

村木: 今までは認可制で、認可したら認可保育所に対する補助が出るという形だったので、自治体に裁量の余地があったんです。基準をクリアしていなければいけないのはもちろんですが、クリアすれば必ず認可されるという仕組みではなかったんです。しかし、指定制というのは、客観基準をクリアしていて質が担保されているところが事業を始めて子どもたちが通っていたら、必ずそこに公費を流さなければいけない、という仕組みなんです。

勝間: 乙武さんが保育園を造られたときは、それでものすごく苦労されて、「認可が取れない取れない」とおっしゃっていました。

村木: そうなんです。しかし、新システムでは、指定が取れた段階で必ずお金が出るという仕組みにしますので、市町村がお金のことが心配で認可しないということはなくなる仕組みです。

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