日本人が知らないテロ組織を追った話題のノンフィクション『モンスター』著者:山田敏弘に聞く「ビンラディンの死後、パキスタンがひそかに『次のアルカイダ』を育てる理由」
山田敏弘氏

 世界で最も憎まれ、崇められた国際テロ組織アルカイダの最高指導者ウサマ・ビンラディンが米軍特殊部隊に殺害されたのは2011年5月のこと。だがビンラディン死後も、世界からテロがなくなることはない。そして今、「次のアルカイダ」と呼ばれる組織がパキスタンに存在している。パキスタン、インド、カシミールでその組織の実体に追ったノンフィクション『モンスター』(中央公論新社)を上梓したジャーナリストの山田敏弘氏に話を聞いた。

ーー「次のアルカイダ」とも言われるイスラム過激派組織ラシュカレ・トイバはどれほど危険なのですか?

山田: 08年にインドのムンバイでゲリラ的な市街戦テロを実行して、欧米の諜報機関などを中心に世界的にもかなり警戒されています。もうほとんど雲散霧消しているアルカイダに代わって今後、表舞台でも台頭する可能性があります。パキスタンや隣国のインドで取材をすると、ラシュカレ・トイバが国際的なテロ組織になろうとしている様子が伺えるのです。

 ムンバイでの大規模テロがその転機になったとする関係者の声は多く聞かれる。ラシュカレ・トイバによってアメリカ本土がテロ攻撃される可能性もあると警告している専門家もいます。ラシュカレ・トイバは、虎視眈々と着実に力を蓄えているんです。

 つい先日ですが、アメリカ政府は4月初めに、ラシュカレ・トイバのリーダーであるハフィズ・サイードの逮捕につながる情報に、最高で1000万ドル(約8億円)の報奨金を発表しました。これはアフガニスタンの対テロ戦争でアメリカが戦うイスラム武装勢力タリバンの最高指導者オマル師に対する報奨金と同金額です。

ーームンバイテロについてあまり多くは語られていませんね。

 私も取材したニューヨークの米同時多発テロは、多角的に語られてきています。一方で、ムンバイテロはそうではないのです。世界的にみれば、11月26日に発生したために「2611」と呼ばれるムンバイテロは、911に匹敵するくらいの衝撃があったと言える。

 さまざまな取材や記録を通して、ムンバイを市街戦テロで3日間恐怖に陥れたテロの一部始終とその背景に迫っていくと、これから世界が対峙するラシュカレ・トイバというテロ組織がいかに面倒な相手かが見えてくる。警戒すべきはアルカイダだけではない。しかもその背景には根深い憎悪が絡んでいるのです。

ーーアルカイダは現在どうなっているのですか?

山田: 組織というよりは、もう「運動」という感じになっていますね。かつてのようにアルカイダが作戦を考え、資金を提供し、訓練を行うという形のテロはほぼないと言えます。先日もフランスでユダヤ人学校などを襲った銃乱射事件がありましたが、犯人は殺害される前に警察に対して自分はアルカイダだというような発言をしてた。でも結局は彼がアルカイダのメンバーだというのは疑わしく、ただ単にアルカイダのシンパ、もっと言うと自分はアルカイダだと勝手に主張していただけに過ぎない。つまり反欧米・反イスラエルのアルカイダというイメージに便乗した模倣犯のようなものですね。