藤巻幸大 第2回 「マシンガントークを育む土壌となった女の子めあての伊勢丹就職と富士そば・寄席通い」

撮影:立木義浩

第1回はこちらをご覧ください。

シマジ 藤巻さんは大学で真面目に勉強するタイプではなかったでしょうね。

藤巻 大学はほぼきっちりとは通わず、ありとあらゆる職種のアルバイトをしましたね。ビルの窓拭きと死体洗いと家庭教師以外の仕事は、あっ、1回だけやったことありますが、何でもやりました。カフェのボーイ、クラブらしき店の呼び込み、道路工事の土工等々、そんなことをしているうちに4年生になってしまった。ぼくも就職して正業に就かなきゃならないと思ったんですが、これとてなりたい職業がない。そしたらたまたま新宿で同級生たちと宴会をすることになった。その待ち合わせ場所が伊勢丹デパート前だったのです。

 実際、ぼくは伊勢丹がどこにあるかもわからなかったので、新宿駅でどうやって行くか、訊いたくらいです。早めに到着したぼくは、伊勢丹の1階の化粧品売り場をキョロキョロみて回っていたら、資生堂の売り場の赤い絨毯と間接照明のなかに、とっても可愛い女性をみつけたんです。そのときの彼女はぼくにとって女神にみえました。ようし、就職は伊勢丹に決めた。そうしたら、毎日彼女に会えるだけでも幸せだぞ、と勝手に思いこんだのです。

 それから大学の就職課に行って、「うちの先輩で伊勢丹に入った名簿がありますか」と聞き出した。まだ個人情報なんて面倒臭いものがない時代でしたから、簡単に教えてくれました。その名簿は、あいうえお順になっていて、80名くらいいたのかな。まず「あ」から順番に連絡しよう、このなかにきっと後輩に会ってくれる奇特な人がいるだろうと、勝手に思いまして、名簿のいちばん上に書いてあった名前の秋谷孝さんに電話を入れたんです。

「上智の後輩の藤巻幸大と申します。秋谷先輩、伊勢丹にどうしても入りたいんですが、いろいろご教授いただきけせんか」と、"じかあたり"戦法で行ったんです。会ってくれた秋谷先輩が「きみは本当に上智なのか」って訊くんですよ。「どうしてですか」と尋ねると、「ジャージを着て会社訪問する後輩ははじめてだ」って言うんです。でも秋谷先輩はいい人で、翌日に人事課長に会わせてくれたんです。

「きみは何ができるんだね」と人事課長に訊かれたので、「ぼくはインテリジェンスはまったくありませんが、体力、気力では同年の者に絶対負けません」と胸を張って宣言したんです。また翌日、秋谷先輩から連絡があって、今夜女子社員たちと飲むからこないかって誘われたんです。これで就職は伊勢丹だと確信したわけです。

 面接は惨憺たるものだった思いますが、運良く78名の正社員の1人に選ばれました。だから最初に会ってくれた秋谷孝先輩にはいまでも感謝しています。