公的支援のエルピーダメモリが破綻
国民負担280億円、問われる政府の責任[半導体]

記者会見で冒頭に頭を下げるエルピーダメモリの坂本幸雄社長(左)=東京都中央区で2月27日

 半導体大手のエルピーダメモリが経営破綻した。負債総額は4480億円にのぼり、製造業としては過去最大。国が公的資金を使って一般事業会社を支援する枠組みの適用第1号だったが、半導体価格の下落に加え、円高で業績が悪化し、資金繰りが行き詰まった。今後は裁判所の管理下で債務を整理し、支援企業を探す。破綻に伴い約280億円の国民負担が生じる見通し。支援決定から3年足らずでの再建失敗に、経済産業省の責任も問われそうだ。

 同社が東京地裁に会社更生法の適用を申請した2月27日、坂本幸雄社長が、東京都内で記者会見した。「急激な円高進行などで経営環境が思った以上に悪化し、債務支払いが困難になった。さまざまな企業から提携の申し出を受けていたが、具体的な形にならなかった」と破綻の経緯を説明した。社長ら経営陣が当面留任することも明らかにした。

 同日、枝野幸男経産相は記者団に対し、「急激な円高に加え、震災やタイの洪水で厳しい事業環境にある中、(再生法適用申請は)やむを得ない」と述べた。公的支援を決めた政府判断については「震災などで急激に事業が悪化をした経緯を踏まえれば、当時の判断は当然だった」と説明した。

 官民双方の責任者がそろって、「想定外」の要因を強調した格好だ。しかし、多額の国民負担を生じさせた責任の所在は明確にする必要がある。

 日本の半導体産業は1980年代に世界シェア5割を超え、全盛期を迎えた。日米間で「半導体摩擦」が問題となり、86年には日本市場で外国製半導体のシェアを20%以上に高めることを柱とした日米半導体協定が結ばれたほどだ。

 しかし、85年のプラザ合意以降の円高も相まって、日本メーカーの競争力は次第に低下した。とりわけ、ピーク時に世界シェア8割を占めたDRAM(記憶保持動作が必要な随時書き込み読み出しメモリー)は、韓国や台湾メーカーの追い上げが激しかった。日本のメーカー各社は90年代に入って、膨らむ一方の設備投資に疲弊し、シェア低下と共に事業撤退と再編を加速させた。

 エルピーダは、DRAM事業からの撤退を模索した日立製作所とNECが99年に経産省主導のもと、同事業を統合して設立した「日の丸半導体」メーカーだ。03年には三菱電機から同事業を譲り受け、国内で唯一のDRAMメーカーになった。

 世界シェアは韓国のサムスン、ハイニックスに次ぐ第3位。坂本社長が就任した02年以降、業績は一時回復したものの、韓国勢に対する劣勢は跳ね返せなかった。

 DRAMは、素材になる直径30センチのシリコンウエハから、いかに多く製品(チップ)を作り出せるかが勝負になる。チップ面積を小さくし、不良品にしない歩留りを向上させる技術の競争だ。韓国メーカーは豊富な資金力を背景に生産効率のよい新製品を開発し、追随されれば値下げでシェア維持を図る。世界シェアが韓国勢の5分の1程度のエルピーダが汎用性の高いDRAMに固執しても、勝ち残るのは難しい情勢だった。

 一方、経産省はリーマン・ショック後の世界不況で、経営難に陥った企業を支援するため、09年に産業活力再生特別措置法を改正した。これにより、一般事業会社に対し、公的資金を活用した資本注入が可能になった。国から認定を受けた企業は、日本政策投資銀行の出資を受け、それでも破綻した場合は損失の5~8割を、国が100%出資する日本政策金融公庫の資金で穴埋めする仕組みだ。

産活法適用第1号の再建失敗

 エルピーダは、その適用第1号となり、300億円の出資を受けたが、「カンフル注射」の効果も長くは続かなかった。11年4~12月期の連結最終(当期)損益は989億円の赤字に陥った。

 今年4月には金融機関への返済で770億円の資金が必要となり、金融機関側から借り換えの条件として、抜本的な再建策を求められた。そこで、米半導体大手マイクロン・テクノロジーとの資本・業務提携による財務基盤強化を模索したが、半導体不況で他社も経営環境が厳しく、交渉は難航した。

 さらに、3月末に産活法の期限を迎え、日本政策投資銀行に出資金を返還する必要に迫られたことから、エルピーダは資本金を6割超減資すると発表する一方、同法適用の3カ月延長を経産省に打診した。しかし、同省は「具体的な再建計画がない段階では支援しようがない」(幹部)と退けた。

 産活法適用による支援作業に関わった同省幹部がエルピーダ株をめぐる金融商品取引法違反(インサイダー取引)容疑で逮捕されたことも、「動きづらい状況」(他の幹部)を招いたという。3社の事業を統合したため、資金繰りを全面的に支える主力取引銀行がなく、「汗をかく銀行が最後まで出てこなかった」(大手行)という事情もあり、万策尽きた。

 破綻からの再建を目指すにあたって、坂本社長は需要と利益が見込めるスマートフォン(多機能携帯電話)向けなどの高機能製品に絞り、海外勢との差別化を図る方針だ。価格下落が激しい汎用品からの転換を目指すというわけだ。

 エルピーダは、再建を支援するスポンサー企業の選定を本格化させている。破綻前から提携交渉を進めていたマイクロン・テクノロジーが軸になりそうだ。台湾大手なども支援に名乗りを上げる可能性があり、今回の破綻が世界的な業界再編につながる展開も予想される。

 今回、官主導の再建策は失敗に終わった。元々、経産省がエルピーダの設立から再建支援にまでかかわったのは、DRAMはハイテク産業のけん引役として、日本になくてはならない産業だという認識があったからだ。

 しかし、破綻を受けて枝野経産相は「エルピーダのサプライチェーン(部品供給網)における位置づけは(公的支援を決めた)当時とは大きく異なる」と述べた。エルピーダ破綻が産業界に与える影響は大きくないという認識だ。

 国内に不可欠として公的支援を決めてから、まだ3年もたっていない。当時の経産省の判断が妥当だったのか。産業政策の欠陥を指摘する関係者も少なくない。

 経産省は破綻の経緯や経営責任をただすとともに、公的資金を活用した資本投入の是非も検証する必要があるだろう。 

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