官々愕々
民主党に「国家ビジネス」は無理である

 緒方貞子JICA(国際協力機構)理事長が日本の原発輸出に疑問を呈したことが波紋を呼んでいる。「自分の国でうまくできなかったものを、外に持っていっていいのだろうか」などと述べたのだ(朝日新聞3月24日朝刊)。民主党政権は一昨年10月にベトナムへの原発輸出で合意し、さらに福島第一原発事故の原因究明も終わらないまま、ヨルダンへの輸出も目指している。仙谷由人元官房長官が先導役だ。JICAと言えば、原発輸出推進の中心的役割を担っている組織。そのトップである緒方氏が疑問を呈したのだから大変なことだ。本音は「疑問」というより「反対」なのだろう。

 緒方氏の疑問は至極まっとうだ。だがここでは、最近の民主党政権の「何でも国家ビジネス主義」とでも言うべき姿勢に潜む大きなリスクについて考えてみたい。

 国家ビジネスが成功するための最も重要な条件は、国家が前に出て競争力が上がることである。それは円借款や融資を出すとか原発輸出のための国策会社に出資するといった、カネを出したりリスクを取ったりして民間をサポートするということではない。何故なら、政府がカネを出してもリスクを取っても、民間は助かるが国全体としてのコストとリスクは同じ。国として儲かるかどうかは楽観できないからだ。

 他のライバル国では、米、英、露、中のように政府の情報機関が圧倒的な情報優位に立っていたり、あるいは武器供与など民間にはない交渉カードを持っていたりするが、日本政府にはこれがない。反面、国家が前に出ることで失敗のリスクがかえって増えるという懸念はいくつも挙げることができる。

 まず、日本政府は交渉が下手だ。サルコジ仏大統領のアレバ売り込みに御礼を言い、サミットで冒頭スピーチをさせてもらって喜んでいた菅直人前総理を見れば一目瞭然。海千山千の新興国のリーダーと駆け引きできる政治家など日本にはいない。ベトナムへの原発輸出のように、やみくもに揉み手をして交渉に臨み、優先交渉権をもらって有頂天になっている有様はそれを物語る。

 今後、原発輸出で最大の懸念は長期の運転保証のリスクを日本政府が喜んで受けてしまうことだ。新興国側の人為的なミスで事故が起きても、それを日本側の責任にされて兆円単位の賠償を求められる可能性がある。

 もう一つの危ない点は、止める決断ができなくなることだ。かつてイランのIJPCというプロジェクトでは政府の決断の遅れで撤退の時期を逸し、3000億円近くの損失を出した。今の民主党の浮かれぶりを見ていると、当時を彷彿とさせる。仙谷元官房長官がコミットした案件ということで、どんな難題を吹っ掛けられても、また、様々なリスクが顕在化しても日本は撤退できないだろう。

 さらに忘れてならないのは、政治家のみならず官僚も必ず自分達の利権を漁ろうとすることだ。大規模案件では企業や銀行が政府に頭を下げに来る。そして官僚は、一度利権を確保すると絶対に手放さない。失敗しそうなプロジェクトでも延々と続ける。リスクはすべて国民が背負うので、彼らにとってリスクはないからだ。先のIJPCでも誰ひとり責任を取っていない。民主党の国家ビジネスは早く止めたほうがいい。

「週刊現代」2012年4月14日号より

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「核のゴミ」を処理できないという大問題の解決策がない以上、「原子力は悪である」という前提に立った上で取り扱うべきだという「倫理感」が国民の共通基盤になるはずだという筆者の思いは、熱く、なおかつ説得力がある。
 福島第一原発の事故で原発の恐ろしさに目覚めた人、原子力ムラの企みと横暴に怒りを感じた人、そして「脱原発」を目指す多くの人に、真実を伝え、考える道筋を示し、そして希望を与える「魂のメッセージ」。