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佐々木俊尚×田原総一朗×80年代生まれの若者4人
第三回「なぜ普通の企業ではなくNPO、社会的企業なのか」

第二回はこちらをご覧ください。

佐々木: さっき田原さんが質問したように、「なぜ普通の企業ではなくNPOなのか、なぜ社会企業(ボランティアではなく収益事業として社会的課題の解決に取り組む事業体。社会的企業とも。)なのか」という疑問を、けっこう多くの人が抱いているようです。

 とくに、2000年頃にネットバブルというのがあって、ちょうど堀江貴文さんやサイバーエージェントの藤田晋さんが出てきたのですが、あの頃に社会に出てきてガーンと今のインターネットの先端をやってきた人たちには、「俺たちが一生懸命ビジネスをやって金儲けをして苦労したことが、今の新しい社会を作っているんだ」という強烈な自負を持っている人が多いわけですね。

 「それに比べると、今時の若い奴は金儲けもやらないしビジネスも知らないくせに、何を社会企業とかNPOとか甘っちょろいことを言っているんだ」というふうに、「ロストジェネレーション」というか70年代半ば以降に生まれた人たちが今の若い人たちを批判する、というような構造がけっこうでき上がっていますね。

田原: とくに堀江貴文がそういうことを言っているよね。

佐々木: ああ、言っていますね。「社会企業なんてけしからん」とか(笑)。ああいう批判に対して皆さんがどう思っているのかということを、ちょっと一人ずつ聞いてみたいと思うんですが、慎さんからお願いします。

慎: 的を射ていることもありますし、その通りかな、と思うこともあるんです。その通りだと思う理由は、海外の社会企業というのは本当に事業としてもすごく大きなもので、成長しつつ社会的なミッションをちゃんと達成しているんですね。
たとえば、マイクロファイナンスをやっているユヌスさんのところもそうです。そのくらいの規模で、堀江さんのような10年くらい前にネットの世界で台頭してきた方々を「おおっ!」と言わせるようなものが、日本ではまだできていないという現状がある。それができるようになったらまた変わってくるんじゃないかな、とは個人的に思っています。

田原: そもそも「社会企業」という言い方はいつ頃から出てきたんですか?

慎: 僕は普通の企業と社会企業の境目はすごく曖昧だと思っているので、いつ頃出てきたのかというのはちょっとわかりませんね。

田原: 最近は「社会企業」と言う人がどんどん増えてきましたよね。

西田: それについては僕が受けたほうがいいですかね。日本だと社会的企業という言葉が出てくるのは99年が初めてなんですね。普通の雑誌の記事に出てきたのがそのくらいの時期でした。

田原: でもあれ、インチキでしょう? 小林陽太郎とか言っているんだけれど、全然やっていなくてインチキじゃないですか(笑)。

西田: 最初の記事では「アメリカで最近注目されているのは社会的企業だ」という形の紹介記事だったので、日本に根差したものではありませんでした。日本に根差した社会的企業の議論が盛んになったのは、通常の意味では2005年以降ですね。ジャーナリストの人たちが言い出したのがまず最初で、斎藤槙さんや町田洋次さんの著作、あとは写真家の渡邊奈々さんの「チェンジメーカー」という書籍が最初の頃ですね。

佐々木: それは海外の話を紹介しているんですよね。国内で社会企業をやる人が現れたのは、2006、2007年くらいですかね?

西田: それこそ本当に、どの事業体を社会的企業ととらえるかの問題になりますが、自分たちでそう言っているかどうかよりも、周囲から社会的起業家や社会的企業と見られているかどうかを尺度にするほうがいいと思います。そういう人たちをメディアが社会的起業家と呼び始めたものとしては、法人が立ち上がったのが2003、2004年くらいが中心で、広く普及するようになったのはごく最近ですね。民主党が「新しい公共」と言い始めた頃だと思います。

田原: 僕は功能聡子さんという人をよく知っていて、彼女はカンボジアで元々NPOをやっているんですが、彼らの話を聞くと元々カンボジアはポルポト政権でめちゃくちゃになって、国連を中心として世界から支援を行った。

 ところが、カンボジアの人たちが「支援や援助でもらうばっかりだと自分たちのやる気が起きない。だから投資をしてくれ、そうすれば返せるから」ということで、カンボジアの側からむしろ投資を呼びかけた。それでソーシャルビジネスが出てきた、と功能さんは言っていたんだけど、違うかな?

慎: そういったニーズは間違いなくあると思います。特に、お金の調達というところで言うと、小口の数万円くらいのお金って投資を受けやすいですし、大規模な投資も集まるんです。しかし、あそこでベンチャーと呼ばれるような、日本円でいうと数十万円から数百万円くらいのお金ってなかなか集まらないんです。功能さんはARUNという団体で、このとくに投資が足りていない場所を支援するために活動されています。そういうお話は実際にありますね。

佐々木: じゃあ、イケダさんはどうですか、社会企業批判のような意見に対しては。

イケダ: 文脈としてはいくつかあるな、と思うんですが、今までは経済成長して雇用や税収を生み出して公共を支えていこう、という考え方があったんですが、今はそれが難しくなっているということをまず押さえなければならないと思うんです。社会企業と言われる企業の普通のビジネスと違う部分は、彼らは社会的課題と呼ばれるような領域に取り組んでいるところですね。

 たとえばうつ病だったり自殺の問題だったり何でもいいですが、そういう問題に対して彼らは取り組んでいます。そういう課題を解決することをビジネスにしたりしている人たちが社会企業と呼ばれているんですね。たとえば僕の近くでやっている方の例で言えば、聴覚障害者の方はコミュニケーションのときに手話の通訳を必要としますよね。でも、手話の通訳ってリアルにアサインするのはコストが掛かるじゃないですか。それをパソコンでいつでも手話通訳者を呼び出せるようにする、ということをやっている方がいます。

 彼はNPOと株式会社を両方やっていて、当然ビジネスを生み出しているんですね。いつでもどこでも手話の通訳者を呼び出すことができるというのは、当然企業のなかでもニーズがありますし、行政をはじめさまざまなニーズがあるので、かなり大きなビジネスが生まれてもおかしくはない。それに関してはもう十分ビジネスを生み出していますので、場合によっては上場まで行けてしまうようなビジネスだと思うんですよ。

 なので、社会起業家に対する批判意見で、「お金を稼いでないじゃん」という批判自体が僕はちょっと違和感があって、お金を稼ぐことも十分できるし、場合によっては上場まで行くようなビジネスも十分作れるというところを、前提としてすっ飛ばして批判されることがたまに見受けられるというところに違和感を感じています。

田原: 今の話でヒントを受けたんだけれど、僕は一昨日静岡に行きまして、静岡のがんにかかった患者の会に出てきました。女性が多いんだけれど、みんながん患者で200人くらい集まっている、と。それで、がん患者は悩んでいるわけね。医者はいるけれど、医者は答えてくれない、相談もできない、夫もダメだというので、話し合おうという会なんだけれど、困っているのはそのお金をどうやって集めるかということなんですよ。それで結局寄付を募っているんだけど、日本人ってケチで寄付しない、と。それは、どうすれば寄付してくれるんだろう?

イケダ: それは、それこそ僕はマーケティングだと思います。彼らが逆にしっかりとビジネスマインドを持って情報発信をしたり、寄付してくれる人とちゃんとコミュニケーションをとっていけばいいんじゃないでしょうか。

田原: どういうコミュニケーションをすればお金をくれるのかな?

イケダ: まあ、一般的にファンドレイジングという文脈で言われますが。

田原: じゃあ、この件はあとであなたに相談しよう(笑)。

イケダ: はい、それがいちばん早いですね。僕はその支援をやっているので。

佐々木: なぜ批判が起きるんでしょう?

イケダ: それは、一方でお金にならないこともやっているところだと思いますね。まさに、がん患者のコミュニティのようなものはビジネス化するのは難しいはずですから、それは社会企業とは呼ばれないもので、NPO活動というべきでしょう。やはりそこに批判があるんだと思います。

田原: そういう会が全国にいくつもあって、僕はあっちこっちに行くんです。どこもスポンサー集めという同じ悩みを持っているんです。

佐々木: インターネットの世界では、よく「嫌儲」みたいなことが言われていて、これはお金儲けを嫌う思想のことなんだけど、お金儲けをしていると「けしからん」と言う人がいる一方で、お金を儲けていなくても「けしからん」と怒られるというのは実に不思議だなと思っていて、「じゃあどうすりゃいいんだよ」と(笑)。では、今度は西田さんにその辺について、世代間ギャップなのか、内在的問題なのかというところを。

西田: ああ、いわゆる「ナナロク世代」と、たとえば「ハチサン世代」「ハチロク世代」の違いなのか、ということですね。

佐々木: 「ゆとり世代は社会企業とか言っていてけしからん」みたいな(笑)。

西田: 少し話がズレますが、この話でけっこう不思議なのは、今社会起業家と呼ばれている人たちは、ITベンチャーの人たちの後輩に当たる人たちなんですね。人脈的に見ていってもそれをたどっていくことができるんです。

 たとえばETICという元々ベンチャー支援をやっていた団体がNPO支援や社会起業家支援を始めていて、元々ベンチャー支援をやっていたノウハウでNPOを育てているんです。それで、彼らが育てたNPOが社会起業家と呼ばれるようになっているということがあるので、実は当事者同士はさほどいがみ合っているということはなかったりします。

 ただ、実はこれは株式会社とかベンチャーのほうではなくて、NPOのようなノンプロフィット側でもいろいろ議論があって、社会的企業の側が今までの文脈を踏まえずに社会的課題の領域に入ってきたので、ノンプロフィットの世界でも「社会起業家というのは市場に寄りすぎていないか」という議論がいつも為されていたり、いろいろな議論がありますね。

 これをどう解決するのかというのは難しくて、区別して考えていくことの意味のなさということを先ほどイケダさんがおっしゃいましたけど、本当にその通りで、社会起業家、あるいは社会的企業のなかでも、実際にたとえば有名なNPOだともう4億円近く稼いでいて、従業員が60人、70人というところがいくつか現れ始めてきています。そうすると、中小企業と区別する意味というのがほとんどないというような文脈もあります。雇用もちゃんと作り出しているし、経済的インパクトも、もしかして税金を納めていない中小企業よりも高いかもしれないですね。

自分自身を実験台に

佐々木: 高木さんはどうですか?

高木: 本当に個人的に言うと、たしかにお金を稼ぐのが、国に税金を納めるという意味でいちばん立派な社会貢献だろうとは思うんですよね。そういう意味でそれは大事だと思うので、僕もニートではあるんですけれど、一応友だちの会社で経営をしていたりとか、いろいろやっています。

田原: 会社を経営しているんだったらニートじゃないんじゃないの?

高木: いや、でも、社会的にはニートなんですよ。ニートというと少し違いますが、どこにも所属はしていないです。契約は結んでいないので。

田原: なんで所属していないんですか? 友だちの会社となんで契約しないんですか?

高木: 契約してもいいんですが、僕自身が今実験台なんですよ。僕というサンプルが「あんな奴でも生きていけるんだったら」というのになりたいなと思っているということです。ただ、それでもお金を稼ぐというのは税金という意味でも社会貢献だと思うし、僕は普通にビジネスもやってはいます。でも、そのなかで、ビジネスにも生きるし社会のこれからのコミュニティとかって問題になるだろうと思っていることに対しては何かしらのソリューションは出していきたいな、ということで、そういうのはどちらかに議論が偏らずに両方やっていける。

 で、今まではどこか一つの会社に所属して、そのことだけをやって、というのが働き方としてあったと思うんですが、今はいろいろな価値観を持っていろいろなコミュニティに所属しているじゃないですか。複数の自分のアイデンティティがあって。それを受け容れながら、グラデーションのように、これは社会のため、これはお金儲け、これは自分が生きていくため、とか、そういう感じでやっていければ別にいいのかな、と。

 それ自体が、あまり多様な自分を認めながら働くということ自体があまり認められていなかったと思うんです。そういうことができていければ、それは問題ないのかな、と思っています。

佐々木: 田原さん、これはつまり、今までの企業家とはマインドセットが変わってきているということなんじゃないかと思いますよ。今まで皆さんのお話を聞いてなるほどな、と思ったのは、たとえばナナロク世代がベンチャー企業を作ります、それで社会に対して何かの価値を提供します、理念も作りました、というときに、常にベンチャーの経営者は第三者なんですよ。

 自分は社会の外部にいて、一生懸命に何か物を作って、それを社会に提供する、それを社会にいる人たちが自分の物を使ってくれて、そこに何か良い物を感じる。常にそこにはやはり、コンテンツなりサービスなり何かを発信する側と受信する側に違いがあったわけです。

 でも、皆さんのお話を聞いていると、そこの境目がなくなってきて、自分がその当事者として自分自身がコミュニティに入る、自分が救われる、自分がセーフティネットに救われたい、という気持ちがある。と同時に、同じようなことを他の人にもやってもらうわけです。

 先ほどイケダさんがおっしゃっていたように、自分がある種のモデルケースになってコミュニティを作ることによって、それが人々を救うことにもなるかもしれない。そこには発信する側と受信する側、消費者と企業という関係ではなく、自分自身と自分自身の周りというのは、常に関係性が変化している感じがすごくするな、と思うんです。

以降 第四回へ。(近日公開予定)

イケダハヤト: https://twitter.com/IHayato
1986年神奈川生まれ。ブロガー。ソーシャルメディア、マーケティング、スタートアップ、社会起業、NPOといったテーマを中心に執筆・講演活動を行っている。目下の興味は「テクノロジーによる公共のリノベーション」。IT技術がどのように私たちの社会保障を補完するか、について研究中。
慎泰俊(しん・てじゅん): https://twitter.com/81TJ
1981年東京生まれ。モルガン・スタンレー・キャピタルを経て、現在はプライベート・エクイティファンドの投資プロフェショナルとして様々な事業の分析・投資実行・投資先の経営に関与。仕事の傍ら、2007年に完全パートタイムのNPOであるLiving in Peaceを設立し、カンボジアの貧困層の金融へのアクセスを拡大するために日本初「マイクロファイナンスファンド」を企画。国内では、児童養護施設向けの寄付プログラムの策定・キャリアセッションを行う。アジアソサエティの「アジアヤングリーダーズ」、世界経済フォーラムの「グローバルシェーパーズ」、AERA「日本を立て直す100人」等に選出。朝鮮大学校政治経済学部法律学科卒(人権)、早稲田大学修士課程修了(ファイナンス)。
西田亮介: https://twitter.com/ryosuke_nishida
立命館大学大学院先端総合学術研究科特別招聘准教授。
1983年京都生。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修了。同後期博士課程単位取得退学。同助教(有期・研究奨励Ⅱ)、中小機構リサーチャー等を経て現職。東洋大学・学習院大学・デジタルハリウッド大学大学院非常勤講師、国際大学GLOCOM客員研究員等を兼務。ソーシャルビジネスと社会起業家、新しい公共、情報と政治等を研究。共編著に『「統治」を創造する』(春秋社)、共編著に『大震災後の社会学』(講談社)等。
高木新平:https://twitter.com/shimpe1
『21世紀の生き方』プロデューサー。
1987年富山生まれ。早稲田大学卒業後、(株)博報堂入社。インタラクティブプランナーとして複数のソーシャルメディアを連動させた広告企画に携わる。11年8月末で退社し、現在、新たな生き方を開発中。六本木にて『トーキョーよるヒルズ』という様々な枠組みを超えたライフスタイルを実践するコミュニティ型シェアハウスを立ち上げ、編集長として活躍。また、フリーのコミュニケーションプランナーとして、企業/サービスのブランディング案件も複数抱える。その他にも、TRYF Inc. CCO、生前の想いを死後に届けるウェブサービス『Living』ディレクターなど、領域をまたいで幅広く活動を展開している。
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