藤巻幸大 第1回 「ハマで鳴らしたジャズシンガーに初恋の人を揉まれて人生の大切なことを知った熱い夜」

撮影:立木義浩

 店主前曰

 世の中には触るとヤケドしそうな"燃える男"がいるものである。藤巻幸大はそういう男だ。あまりに激しく燃えあがり、心臓がパンクして闘病生活を余儀なくされたこともあった。また、"燃える男"藤巻幸大は"じかあたり"の大好きな男である。相手が面白い人間だと直感すると、地の果てへでもすっ飛んで行って、じかに会う。会うと藤巻は、マシンガンのごとく、相手にしゃべりまくり、言葉を乱射する。ツイッターやフェイスブックが隆盛を極めるこの時代、藤巻幸大の存在は貴重であり、大きい、とシマジはいつも感服している。

 シマジが"燃える男"のマシンガン襲撃を受けたのは、たまたま広尾にある馴染みのセレクトショップ"ピッコログランデ"の縁である。人生は運と縁で動いていると言っても過言ではない。加藤仁店長の読みかけのシマジの処女作『甘い生活』をレジの脇に置いたのを、目ざとく見つけた"燃える男"は、すぐさま本屋に走り、買って読破した。

 どうしたわけか、読み終わったその夜から、"燃える男"は、どうしてもシマジに会いたくて、会いたくて夜も眠れなくなったと後日告白された。シマジは、"燃える男"が女でなくてよかったと胸を撫で下ろした。藤巻は顧客の特権をフルに使って加藤に「カトウちゃん、シマジさんとメシを食う一夜を作ってくれ」とすごんだ。

「わかりました。藤巻さん、何とかいたしましょう」と加藤はモミ手で答えた。

「シマジさん、大変です。"燃える男"がついにシマジさんの妖しい魅力に完全に感電したようです。一生のお願いです。一緒に食事をして、サロン・ド・シマジに招待してあげてください。もちろん、ぼくと妻のアヤも同席させてください。そうしないと殺されます」

 若いとき、「週刊プレイボーイ」を100万部売った"燃えた男"シマジは、面白いそうな夜になりそうだ、と直感して快諾した。そんなわけで、ついに"燃える男"と"燃えた男"は遭遇したのである。

 シマジにはじめて会った藤巻幸大は、開口一番大音声で語りだした。

「シマジさんの『甘い生活』を読んだ瞬間、ガツンとやられました。『男と女は誤解して愛し合い、理解して別れる』の名文句には痺れました。どうしても会いたくなって、カトウちゃんに頼んだのです。いつも"ピッコログランデ"に行き、シマジさんが何を買ったかチェックして、同じものをいくつも買っています。今日、着ているシャツもジャケットもパンツもシマジさんと同じイタリアのブランドです。アンダーパンツも一緒にしようかと思ったのですが、ガロが1枚1万円と聞いてやめました。アッハハハハ」

 その夜、約束通り3人にサロン・ド・シマジにお越しいただき、したたかシングルモルトを飲んだ。

「もうこんな時間ですか。スミマセン。こんな遅くまでお付き合いいただいて、有り難う御座います」と藤巻はすまなそうに言った。時計は深夜の2時を指していた。人生というやつは、気が合うと男も女も会っているうちに、あっという間に時が過ぎて行くものである。シマジはやせ我慢しながら、軽いアクビをして答えた。

「藤巻さん、夜はまだ若いですよ」