政治的智慧も説得術も欠如した民主党政権が窮地に立つ日本をさらに崖っぷちへと追いつめる
厚生労働大臣のときに、派遣労働者問題が大きくクローズアップされた〔PHOTO〕gettyimages

 先週金曜日は、国会で日切れ法案の処理と暫定予算の採決を行った。まさに泥縄式の対応であり、それは単に「ねじれ国会」だけが理由ではない。民主党政権の国会対応のまずさが大きな原因である。

 しかも、選挙のときに国民に約束したマニフェストを、ことごとく破る政策決定を繰り返している。これでは、詐欺であり、バラ色の公約を信じて民主党に投票した有権者は浮かばれまい。

 民主党政権下では、多くの政策が自公政権のときに「逆戻り」している。これでは政権交代の意味がない。先に成立した労働者派遣法の改正も、その例である。私が厚生労働大臣のときに、派遣切りなど、派遣労働者問題が大きくクローズアップされ、大晦日の日比谷公園に作られた派遣テント村は世間の耳目を集めた。

 労働者派遣は、会社にとっては、雇用調整を容易にし、人件費を抑制して競争力を維持する手段となる。働く者にとっては、自由な働き方を可能にする選択肢が増えることになる。しかし、悲惨な派遣労働者の実態が報道されるにつれて規制を求める声も高まっていった。

 これらの声に応えるために、私は厚労大臣として、悪質な企業への指導監督や必要な規制を強化し、派遣労働者の保護に努めた。それに対しては、賛同する意見が多かったが、同時に、主婦などから「なぜ規制するのか。自分の職場を奪わないで」という切実な声も寄せられた。

 政権交代後、民主党は派遣労働者保護をさらに進める法案を準備したが、成立させることができず、私が大臣のときに準備した法案とほとんど変わりない形で修正されて成立した。結局は、政権交代は時間の浪費に終わったということである。

 しかし、それは単に民主党のマニフェストが詐欺だったということにとどまらず、問題の解決をかえって遠のかせる結果ともなっている。

 具体的には、この3年間の混乱期間に、労働者の調達について、大企業は派遣という形式をやめ、下請け形式に変えていったのである。派遣労働者なら公権力のチェックが厳しいが、下請けなら自分のところには何の問題も生まれないからである。

 これが、経済や労働市場の実態なのである。そのようなことも理解せずに、ユートピア的な理想論ばかりでマニフェストを固めたところに民主党の問題があるのである。しかも、その理想論を実現させる政治的智慧も国民を説得させる術も持っていないのだから、始末が悪い。結局は、下請け企業が泣かされるのである。

国難という傷口がさらに広がる

 それは、消費税増税についても同様である。国会が慌ただしく年度末処理に追われる金曜日、朝の閣議で、野田内閣は消費税増税法案を閣議決定した。国民新党の内部分裂には、国民は呆れかえったが、民主党内部では小沢派の一部議員が政府や党の役職を辞任した。これから、国会での審議、そして採決への道のりは険しいと言わざるをえない。

 高度福祉社会を維持するためには財源が必要であり、また、それには消費税増税を中心にすべきことは、国民はよく理解している。しかし、なぜ今なのか、そして、なぜ公約を踏みにじってまで民主党政権が行うのか、十分には納得していない。

 民主党が主張してきた通りに行政の無駄を削減したのか、社会保障の全体像は示されたのか、実質2%の経済成長実現のための工程表は作成されているのか、デフレ下の増税はかえって経済を減速させるのではないか。これらの質問に対する答えが準備されていない。
そして、何よりも、国民の生活や中小企業の立場をよく分かっていないようである。消費税増税分は、下請けの中小企業の犠牲によって支えられることになるであろう。派遣労働者問題と同様である。日本の会社の大多数は中小企業である。彼らが活力を失えば、日本経済の明日はない。産業の空洞化はますます進んでいくであろう。

 外交関係を見ても、日本は大きな試練に直面している。北朝鮮の弾道ミサイル発射が迫っている。そのときに、基礎知識、答弁能力、国民とのコミュニケーション能力を著しく欠いた田中直紀氏がまだ防衛大臣のままである。

 中国では、重慶市トップの薄煕来氏が解任させられ、権力闘争が激化している。韓国では、総選挙が始まった。5月にはフランスで大統領選挙が行われ、その結果はEUの将来に大きく影響を与える。イラン問題で原油の価格が高騰し、また東京電力の電気料金が値上げされることで、国民の生活や企業活動に支障を来すことになりかねない。

 しかし、日本外交は停滞したままである。日本の危機はさらに深刻なものになっていく。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら