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特別読み物 巨大エレクトロニクス産業の興亡 パナソニック シャープ ソニー 日立 東芝「失敗」の研究「選択と集中の罠」 
にハマった経営者たち

 昔はほしいけど買えない家電がたくさんあった。でももう、日本人はほとんどのものを手に入れてしまった。売れないものに「選択と集中」をした結果、かつての基幹産業は瀕死の状態に陥っている。

討ち死にした3人の経営者

 パナソニック7800億円、ソニー2200億円、シャープ2900億円。この3月期決算で各社が計上する純損失だ。同時に3社とも社長交代、事実上の現社長更迭を発表した。

 巨額の赤字を垂れ流し、3社は生きるか死ぬか、まさにその岐路に立たされている。そして新社長は生き残りをかけた舵取りを求められることになる。

 だが、その前に。

 なぜ瀕死の状態になるまで手が打てなかったのか。どのタイミングで、誰が、何を間違えたのか。

「失敗の研究」を尽くさなければ、失敗を繰り返すことになる。そうすれば今度こそ、息の根が止まる。

「'08年のリーマンショック後、電機メーカー各社は一斉に赤字に転落したわけですが、その時点でスピードある判断をできなかった経営者が失敗した。それはパナソニックの大坪文雄社長であり、シャープの片山幹雄社長であり、ソニーのストリンガーでした。

 そして、失敗の『原因』というより『象徴』と言えるのが、パナソニックの尼崎第3工場であり、シャープの亀山工場の閉鎖です」(日立製作所を経てサムスンに10年間常務として勤めた吉川良三氏)

 経営者たちが一様に陥ったもの、それが「選択と集中」という名の罠だった。

 パナソニックは大坪社長の前、中村邦夫社長時代の'00年、薄型テレビにプラズマを採用する方針を大々的にブチ上げた。

「プラズマはわれわれの顔だ」

 そう語る中村氏のこだわりとは裏腹に、'05年までにはプラズマという技術の敗北はすでに見えていた。

「中村さんが社長時代に鶴の一声で決めた『選択と集中』路線を、大坪さんは忠実に踏襲しただけだった。中村会長が人事権を掌握していて、事実上の院政を敷いていましたからね。

 '06年頃、プラズマテレビ市場のシェアトップの座を韓国のLGに奪われた。再びトップの座を奪還する、それだけでなくプラズマパネル市場でもLGを叩き潰す。そのための設備増強に走ったんです」

 そう語るのは40代でチームリーダーを務めるパナソニック現役社員だ。さらにこう続ける。

「しかし、当時はすでに薄型テレビ市場は液晶パネルが優位性を保っていて、プラズマは早晩消えるとすら言われていた。当時、パナソニック社員の間でも『プラズマ、どうなの?』という会話が交わされていました。画面がキレイだのスポーツ番組に適しているだの売り文句もありましたが、自宅用には液晶テレビを買った社員のほうが多いと思います」

 同社の元幹部も語る。

「シャープが亀山工場をつくると決まり、パナソニックも'07年、競うように工場建設を決めた。法人市民税、固定資産税の減免や補助金交付など、自治体の優遇措置も当時はあった。

 社内でも工場の建設に躊躇する声があったが、早く建てないと優遇措置が受けられなくなるとの焦りもあって踏み切りました。

 尼崎第3工場が稼働を始めた'09年はちょうど家電エコポイント制度がスタートした時期で、毎月の需要が前年の約1・8倍に増えていた。フル生産しても間に合わないくらいの需要があったのです。ところが2年経つと需要が激減した」

 テレビのような家電は頻繁に買い替えるものではない。急激な需要増のあとには冷え込みが待っていることは、考えたらわかりそうなものだ。まして国内3社が一斉にテレビに「選択と集中」したのだからなおさらだ。

 だが、巨大な組織においては、そうした当たり前のことが見えなくなる、見えていても止められなくなるという事態が往々にして起きる。

「木は見えるけど森は見えないと言うか、自分がどこにいるのか、何をしているのかわからなくなってしまう瞬間があります。幹部ですらそうだから、平社員はなおさらでしょう。いきおい、彼らは目の前の仕事を淡々とこなすようになる。

 元々は優秀な人間が集まっているはずなのに、集団IQは低い。それが日本の巨大企業の特徴かもしれません」(元幹部)

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