焦点となった景気条項「消費税引き上げ法案付則第18条」に仕掛けられた増税推進派への「時限爆弾」
〔PHOTO〕gettyimages

 消費税引き上げ法案をめぐる民主党内の事前審査論議が終わった。野田佳彦内閣は30日に引き上げ法案を閣議決定する方針だ。問題の景気条項(付則第18条)はどう書かれているのか。

 多くのマスコミはこの条文を要約して報じた。それはそれで簡潔だが、やはり景気条項を評価するには全文に目を通したほうがいい。今後の国会審議がどうなるかを占うためにも不可欠な作業だ。そこでまず、全文をそのまま紹介する(ふりがなも原文通り)。

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 (消費税率の引上げにあたっての措置)

第十八条 消費税率の引上げに当たっては、経済状況を好転させることを条件として実施するため、物価が持続的に下落する状況からの脱却及び経済の活性化に向けて、平成二十三年度(注・2011年年度)から平成三十二年度(2020年度)までの平均において名目の経済成長率で三パーセント程度かつ実質の経済成長率で二パーセント程度を目指した望ましい経済成長の在り方に早期に近づけるための総合的な施策の実施その他の必要な措置を講ずる。

2 この法律の公布後、消費税の引上げに当たっての経済状況の判断を行うとともに、経済財政状況の激変にも柔軟に対応する観点から、第二条及び第三条に規定する消費税率の引上げに係る改正規定のそれぞれの施行前に、経済状況の好転について、名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認し、前項の措置を踏まえつつ、経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる。

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 以上である。

 野田や財務省など増税推進派は「これは努力目標」と説明している。一方、朝日新聞によれば、前原誠司政調会長は「政府の成長戦略を法律化して政府に義務を課す形にしている」と話したという。

 私は率直に言って「よく政府はここまで妥協したな」という印象をもつ。引き上げ反対派からみれば、たしかに不十分な点もある。第一項で名目と実質の成長率の数字を書き込んだものの、その数字はあくまで目標にとどめ、政府は早期の目標達成に「必要な措置を講ずる」というにすぎない。

 そのうえで第二項で名目と実質の成長率と物価動向を確認し「前項の措置を踏まえつつ」施行停止を含めて対応する、という書きぶりになっている。

 そこで政府は「目標達成に必要な措置を講じさえすれば、経済状況をみて引き上げを実施できますよ」という解釈が成り立つ。つまり、もっともらしい成長政策を掲げて予算化すれば、目標成長率を達成しなくても「必要な措置は講じた」のだから、それで十分という話だ。

 ところが、第一項は「経済状況の好転」をはっきり引き上げの条件と明記したうえで、第二項で「経済状況の好転について、名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認し」と書いてあるから、第一項の名目3%、実質2%成長が達成できなければ、経済状況が好転したとはいえない、という議論も可能である。目指す名目と実質の成長率は11年度から20年度までの平均だが、13年度に経済が上向いていないと、目標達成は難しいだろう。

 玉虫色なのだが、あれだけ数字を明記することに反対していた野田と財務省にしてみれば、やはり妥協に追い込まれたとみていい。この景気条項をどう読むかという論点は、いずれにせよ国会で与野党論議の火種になるのは間違いない。

 実際に引き上げるのは野田政権ではない可能性が高いので、この部分をどう解釈するかは今国会以降も引き継がれるはずだ。つまり、この法案が仮に原案通り可決成立したとしても、引き上げ実施にハードルが残った形になった。反増税派がとりあえず反撃のとっかかりを残したと考えれば、今回の決着はそう悪くもない。

増税推進派に高いハードル

 名目3%、実質2%という成長率の達成がどれほど大変かといえば、日本銀行の見通しで13年度は実質1.5%、消費者物価上昇率がプラス0.5%だ。このとき名目はどのくらいになるか。名目成長率をはじき出すのに使う国内総生産(GDP)デフレーターは、政府も日銀も13年度分について発表していないので、なんとも言えない。

 GDPデフレーターのほうが消費者物価上昇率を下回る傾向である点を踏まえれば、13年度の名目はせいぜい実質と同じ程度か、実質以下の1%程度になってもおかしくない。つまりデフレは13年度になっても脱却できていない可能性が高い。

 そうなると、引き上げ第一弾の14年4月には、とても「経済状況が好転した」とは言えないから、この法案が成立したとしても結局、増税はできないのではないか。そこを先取りして、政府の一部には「デフレが続いていても増税は可能だ」というような声もある。だが、それはいくらなんでも暴論だ。

 ほかにも今回の増税法案には、詰めていない問題がいくつもある。

 たとえば給付付き税額控除や医療、介護、保育など自己負担の合計額に一定の上限を設ける総合合算制度、それらの前提になる共通番号制の整備、当面の措置である「簡素な給付措置」、住宅取得での取り扱い、消費税との二重課税が指摘されてきた自動車取得税や自動車重量税の扱いなどだ。

 第7条の最後には「歳入庁の創設による税と社会保険料を徴収する体制の構築について本格的な作業を進めること」という一文も入っている。ここは財務省が必死で抵抗する部分である。徴税という「経済警察機能」を握っていることが永田町や経済界ににらみをきかせられる根本的理由であるからだ。

 財務省にとっては、予算編成権と徴税権、国の隅々にまで網の目を張った情報収集能力こそが権力の源泉なのだ。

 法案はこれらの課題を本則第7条に書き込んで、それぞれ「具体化に向けて・・・速やかに必要な措置を講じなければならない」と定めている。これもまた高いハードルになる。

 前回コラムで、そもそも法案成立の見通しが立っていないので景気条項の「議論にたいした意味はない」とばっさり書いたが、仕上がってみると、増税推進派には相当「重たい荷物を背負わされた」感が強いのではないか。

(文中敬称略)

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