官々愕々
官僚にこそストレステストを

 第9回の本コラムで懸念を示したとおり、関西電力の大飯原子力発電所(福井県)再稼働への手続きが急ピッチで進んでいる。

 班目春樹原子力安全委員長が、原発の安全指針には瑕疵があった(=できそこないだった)と認め、ストレステスト(耐性検査)の一次評価だけでは不十分だと再三表明しているにもかかわらず、枝野幸男経産相は「安全宣言」をして強硬突破する方針を固めたようだ。

「枝野大臣は原発を止めようと頑張っている」と思っていた人は「君子豹変?」と考えるかもしれないが、そんなことはない。最初から経産省の官僚と枝野大臣は国民を騙していたのだ。

 よくよく振り返ってみると、彼らは決して再稼働させないとは言っていない。例えば「電力が足りないから原発を動かすなどという考え方を取る訳ないでしょう」と強い口調で言えば、誰でも原発は動かさないんだな、と思う。だが実は、必ず最後に「原発を動かすか動かさないかはあくまでも安全かどうかで決まる」と小さな声で言っておく。単純なマスコミは、「電力需給にかかわらず原発稼働に否定的」と書いてくれる。再稼働すると決めた後は、「安全だったら動かすと最初から言ってましたよ」と言い逃れするのである。

 これは典型的な官僚の考え方に基づく行動だ。「国民は馬鹿だから、本当のことを教えると余計な『騒ぎ』を起こして、政策を円滑に進めることができなくなる」。従って、原発再稼働という「重要な判断」をするに当たっては、「国民に本当のことを教えずに、再稼働を決定してから結果だけを伝え、文句が出たらうまく言いくるめてしまうほうが手っ取り早い」と考えるのである。

 SPEEDIによる放射性物質拡散予測を「公表すると『馬鹿な国民』はパニックに陥って大混乱するから」として隠した結果、多数の住民がしなくてもよい大量被曝をした。そんなことになったのも、この考えが原因だ。

 驚くことにこの考えは今も全く変わっていない。その典型例が、滋賀県が独自に実施した、美浜・大飯原発で事故が起きた場合の放射性物質拡散予測の公表問題である。その公表について周辺の自治体から強い反対の声が上がり、結局滋賀県は自分の県についてのみの公表しかできなかった。先日、私はその結果を嘉田由紀子知事に見せてもらった。予想した通りとはいえ、実際に500ミリシーベルトを超える地域が真っ赤に表示され、福井から一部他県まで広がる画像を見ると背筋が寒くなった。

 実は、この情報は文科省も知っているが黙っている。「馬鹿な国民」がパニックを起こすことを恐れたのだろう。大阪府は滋賀県からこの情報を取得して大阪府について公表した。早晩、他府県も追随せざるを得ないだろう。

 今や世界の防災対策の基本は「リスクコミュニケーション」という考え方だ。あらゆる情報を住民と共有し、住民との対話の中でその評価と対策を考えることで結果的に合理的で「生きた」防災対策ができるという考え方で、日本の政府・官僚とは正反対である。

 原発事故の際に国民は冷静に対応したのに対して、パニックに陥ったのは他でもない自ら「賢い」と思っている政府・官僚だった。ストレステストは原発でなく、まず、民主党の政治家と官僚に対して行うべきだろう。

「週刊現代」2012年4月7日号より

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「核のゴミ」を処理できないという大問題の解決策がない以上、「原子力は悪である」という前提に立った上で取り扱うべきだという「倫理感」が国民の共通基盤になるはずだという筆者の思いは、熱く、なおかつ説得力がある。
 福島第一原発の事故で原発の恐ろしさに目覚めた人、原子力ムラの企みと横暴に怒りを感じた人、そして「脱原発」を目指す多くの人に、真実を伝え、考える道筋を示し、そして希望を与える「魂のメッセージ」。