ドイツ
緑の党は向かうところ敵なし!
ドイツの政治を揺らがす「核廃棄物スキャンダル」

「フクシマ」の影響はヨーロッパの政治にも
〔PHOTO〕gettyimages

 ドイツの北部、ニーダーザクセン州のアッセというところに、岩塩の廃坑がある。第一次世界大戦前まで採掘されていたこの地下の巨大な廃坑跡に、1967年から78年のあいだ、核廃棄物が大量に投げ込まれた。微量から中量の放射性物質を発生する廃棄物だ。どのくらいの量が投げ込まれたかというと、ドラム缶で12万6000個だそうだ。

 当時の大義名分は、"廃坑の塩分が核廃棄物に対してどのような影響を及ぼすかを研究する"というものだったが、早い話が"臭いものに蓋"。その証拠に、ここには核廃棄物のほかにも、殺虫剤、汚染された動物の死骸、ヒ素、鉛など、どこに捨てていいかわからないさまざまな厄介物が持ち込まれた。しかし、地下725メートルという場所であったため、市民の目に触れることも、話題になることもなく、こうして30年が経過した。

 問題が浮上したのは2008年のことだ。まずは、ドラム缶の貯蔵場所となっている坑内が崩壊しかけている可能性が指摘された。また、ドラム缶が今やどういう状態になっているかもわからない。規則に反して、液体状の廃棄物も貯蔵されていることがわかった。

 また、9キロ貯蔵されているといわれていたプルトニウムは、実は28キロであることも明らかになった。しかも、坑内には地下水が浸み出しているらしい。それも、塩分の高い地下水だ。これによって、いずれドラム缶が侵食し始めるなら、この一帯の地下水が大々的に放射能汚染される恐れがある。というか、すでにそれは始まっているかもしれない。

 事態を重く見た連邦放射能対策庁は、アッセのドラム缶を地上に回収することを決定し、2010年の初め、調査のためのボーリングを開始した。まずは、12ヵ所の横坑の状態、そして、放射能漏れの有無を把握しなくてはいけない。

 いずれにしても、地下700メートルの、どうなっているかわからない状態の場所から、12万以上の、ひょっとすると放射線を発しているかもしれないドラム缶を回収するというのは、並大抵の技術ではできない。だから、数年のうちに回収というだけで、きちっとした予定も立っていない。コストに至っては、試算するのもおぞましいほどの額になるはずだ。

 そうするうちに、今月になって、アッセの坑道内の放射性物質の値が急に上昇したことが報告された。横坑12号付近で、1リットル当たり24万ベクレルのセシウム137が検出されたという。これは許可量の24倍だそうだ。放射能対策庁によると、別に騒ぐほどの値ではないらしいが、どこからこの放射性物質が漏れ出しているのかは、調査するという。また、この放射性物質が地上に拡散しないよう、厳重な注意を払うということだ。

クリーンでも安価でもなかった原発

 しかし、市民団体や反原発のグループは、もちろんこのような説明では納得しない。緑の党も、「行動が遅くなればなるほど、放射能汚染の危険は増す」と警告し、1日も早いドラム缶の回収を主張している。

 30年来、原発反対に徹してきた緑の党は、福島の原発事故以来、行くところ敵無しの勢いだ。原発事故のわずか2週間後に、私の住むバーデン・ヴュルテンベルク州で州議会選挙が行われたが、今まで50年以上CDUの牙城だったこの州が、なんと、まるで魔法のように、緑の党の州になってしまった(得票数はCDUが第1位だったが、2位と3位の緑の党とSPDが連合して政権を握った)。CDUの致命傷は、原発推進を唱えていたことだった。

 選挙の後、偶然会った知人に、「フクシマがなければ、マップス(CDUの前州知事)を撃ち落とすことはできなかったよ」と、朗らかに礼を言われた。彼は緑の党の支持者なのだ。私は、緑の党という政党が存在することには意義があると思っているが、積極的に支持しているわけではない。しかし、この調子でいくと、州だけでなく、国政の方でも、メルケルのCDUは緑の党に足元をすくわれる恐れが出てきた。原発問題は、ドイツの政治地図を変えてしまうかもしれない。

 いずれにしても、アッセのドラム缶は、放射能汚染の危険やら爆発的なコストなど、さまざまな問題を抱えた時限爆弾になってしまった。30年も前に、臭いものに蓋をした無責任な人たちは、とっくにリタイアして安穏な老後を送っているはずで、すべての負担と危険は次世代の人間に覆いかぶさっている。電力会社の宣伝文句、"クリーンで安価な原発"は、実は、クリーンでも安価でもなかったのだ。

 国民は、この尻拭いに莫大な血税が使われることに反発し、核廃棄物を廃坑に放り込むという安易な処理方法で膨大な利益を得ていた電力会社が、アッセのドラム缶回収の費用を負担するべきだと主張している。ただ、もしそうなれば、電力会社は負担分を電気代に上乗せするだろうから、どのみち国民が付けを払わされることに変わりはない。また、安価な電力のおかげで、今まで皆で便利な生活を送って来たと考えれば、全員同罪かもしれず、犯人を特定することはなかなか容易ではない。

 去る4月26日は、旧ソ連のチェルノブイリ原発の事故の25周年だった。あの大事故が起こったとき、私はちょうど東京にいたのだが、そのあとドイツに戻ったら、巷は大騒ぎになっていた。チェルノブイリの大火災で噴き上がったヨード131とセシウム137が風に乗って、最初はポーランドからスカンジナビア半島に、次は、チェコ、ドイツを通ってさらにフランス、スペインに、そして最後はルーマニア、ブルガリア、ギリシャ、トルコへと、結局、数日間でヨーロッパ中に撒き散らされたのだった。

 多くのドイツ人は、医者の警告にもかかわらずヨードを服用し、子供を持つ母親は、バイエルン州の牧場の草を食べた牛の出すミルクから放射性物質が検出されたと、パニックに陥っていた。

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