国立公園での地熱発電開発に光明!
頑固な環境省を方針転換させた"強力包囲網"

 ようやく山が動き始めた---。

 先々週、本コラムで環境省に対して再考を促した国立公園と国定公園の地熱発電所の建設規制(「羊頭狗肉の規制緩和 地熱発電を阻む環境省のレンジャー魂」)について、政府の行政刷新会議や国家戦略室のエネルギー・環境会議、経済産業省・資源エネルギー庁の3者がそれぞれ、頑なだった環境省から譲歩を引き出すことに成功したという。

 肝心の環境省がまだ新方針を盛り込んだ通知を公表しておらず断定するのは危険だが、世論を無視して省益の追及を優先する官僚が多い中で、今回、環境省が世論の高まりに真摯に耳を傾けたのだとすれば、おおいに評価に値するできごとだ。

 今回のいくつかの合意が、2001年に稼働した八丈島発電所を最後に、13年間にわたって発電所新設が凍結されてきた地熱発電の建設の再開や、原子力発電偏重だったエネルギー構造の転換に繋がるかどうか、筆者も国民の1人として引き続き注意深く見守っていきたい。

 初めて本コラムを読む人のために記しておくと、地熱発電は、地中深くに溜まっている蒸気を取り出して発電する技術だ。他の再生可能エネルギーを用いた発電と比べて圧倒的に稼働率が高いことが特色。平均稼働率は、太陽光が12%、風力が20%程度にとどまっているのに対し、地熱のそれは70%となっている。稼働率の高さは、発電コストを低く抑えるうえで有利というメリットにも繋がる。

 こうした長所は、地熱発電が、他の再生可能エネルギーのように天候に左右されないことに起因する。晴れないと発電ができない太陽光発電や、風がないと発電できないうえ構造的に風車の回転部分や風向きに合わせて方向を変える部分の故障が多発しがちな風力発電と比べて、地熱には熱源の探索が困難ながら、いったん開発に成功すれば地下の熱源から噴出する蒸気が安定しているという特色がみられるからである。

 ところが、そうした長所の割に、国内の地熱発電所は現在、18ヵ所と少ない。

 これは、1974年に、当時の環境庁が通知を発出、それ以前に操業していたか、すでに建設工事が始まっていたものを除いて、「当分の間、国立・国定公園の景観及び風致維持上支障があると認められる地域においては新規の調査工事及び開発を推進しない」としたことが最大の原因だ。

 その後、1994年の通知のように「開発を目的とした調査井掘削を含めて個別に検討し、その都度開発の可否の判断を行う」といった方針を打ち出しながらも、実際の運用では厳しく新規開発を制限してきた経緯がある。

 加えて、経済産業省・資源エネルギー庁も原発振興を優先して、かなり意図的に地熱発電の強化を怠ってきた。これらの結果、富士箱根伊豆国立公園内の「普通地域」(5区分ある国立公園の地域区分の中で最も規制が緩い地域)にある八丈島発電所が2001年に運転を開始したのを最後に、過去13年間にわたって新たな地熱発電所は1つも建設されなかった。

 結果として、全国レベルでみると、潜在的には2357万kW(大型原子炉の23.5基分)の発電所建設が可能とされているにもかかわらず、実際の発電容量は合計で54万kWにとどまっている。潜在的な熱源の9割以上は、全国に29ある国立公園、同じく56ある国定公園などの自然公園の特別地域などに集中しているが、こうした地域での建設が環境省によって厳しく規制されてきたことの影響は計り知れない。

 もちろん、早くから見直しを求める声はあった。最初のきっかけは、1997年に採択された京都議定書だ。地球温暖化対策として、温暖化ガスの排出削減が重要になり、地熱発電への期待が高まった。

行政監視・批判が手緩いマスメディア

 さらに昨年3月の東京電力・福島原子力発電所の事故によって、地熱発電所の建設規制の緩和の必要性が飛躍的に増した。環境省自然環境局が同6月、「地熱発電事業に係る自然環境影響検討会」を設置したことは、規制緩和に舵を切るための措置と受け止められていた。

 ところが、自然環境局は今年2月、地熱発電所の設置調査のために行う試掘について、公園の外か、もしくは5段階ある区分のうち一番保全価値が低い「普通地域」から上位の区分の地下に位置する熱源への「斜め掘り」しか認めないという方針を打ち出した。

 逆に言えば、経済産業省・資源エネルギー庁や事業者から、開発プロジェクトの早期実現には解禁が不可欠との要求が出ていた「第2、3種地域」(5段階のうち3番目と4番目に規制が厳しい区域)で熱源の真上から試掘する「垂直掘り」や、同じく「第2、3種地域」における発電所建設については、引き続き一律に禁止し続ける方針を明らかにしたのだ。

 同じジャーナリストとしてなんとも情けなかったのは、大手紙の報道ぶりだ。確信犯か、それともうまく誘導されたのかは不明だが、環境省のプロパガンダに協力するかのような記事が相次いだ。

 「国立公園で地熱発電後押し 環境省、設置規制緩和へ」(2月14日 朝日新聞デジタル)

 「地熱発電 国立公園内の基準緩和へ 特別採掘に限り容認」(2月15日 毎日新聞)

 「環境省、地熱発電所の要件緩和 『斜め掘り』容認へ」(2月14日 47News共同ニュース)

 といった記事で、自然環境局の「斜め掘り」解禁は画期的で、「垂直掘り」は不必要であるかのような論調の記事が氾濫したのである。これらの報道に勢いを得て、環境省の自然環境局は、新たな通知を出して「斜め掘りの規制緩和」だけで押し切る構えを見せていた。

 そうした中で、本サイトが警鐘を鳴らした。3月13日に、筆者のコラム「羊頭狗肉の規制緩和 地熱発電を阻む環境省のレンジャー魂」を掲載したのだ。

 このコラムは、遠隔地からの斜め掘りしか認めないことは開発コストを大きく押し上げる要因になり、事実上、規制緩和に期待して策定を開始したプランの多くがとん挫、新たな地熱発電所が建設できない懸念が強いことを幅広く世の中に伝えた。

 約30人の国会議員が参加している「超党派地熱発電普及促進議員連盟」(共同代表 二階俊博元経済産業大臣、増子輝彦元経済産業副大臣)が同日、環境省に1994年の通知の廃止を求める要望書を提出したほか、野田佳彦首相が議長を務める行政刷新会議、古川元久担当大臣が率いる国家戦略室、経済産業省・資源エネルギー庁なども巻き返しに出て、環境省に方針転換を促した。"包囲網"が形成されたのだ。

 そして環境省は、21日に公表した通知の骨子案において、軌道修正を打ち出した。

 大手紙の中にも、インターネット上で「これまで開発規制区域の外から斜めに掘る『傾斜採掘』のみを容認する方針を示していたが、自然環境への影響を最小限にとどめるなどの条件付きで、区域内で掘る『垂直採掘』も認めるとした」(21日付毎日JP)、「規制緩和の理由について、環境省は『エネルギー供給状況の変化から、地熱資源利用に道を開くことを決断せざるを得なかった』と説明した」(同)との報道があった。

 実際、骨子案をみると、「現下の情勢に鑑み特に、自然環境の保全と地熱開発の調和が十分に図られる優良事例の形成について検証を行うこととし、そのため、以下に掲げるような特段の取組が行われる事例を選択し、掘削や工作物の設置の可能性について、個別に検討する」と、試験的なパイロットケースに限定したうえで、

(1)地熱開発事業者と地方自治体、地域住民、自然保護団体、温泉事業者などの関係者との地域における合意の形成、

(2)自然環境、景観及び公園利用への影響を最小限にとどめるための技術や手法の投入、、造園や植生等の専門家の活用、

(3)地熱開発の実施に際しての、周辺の荒廃地の緑化や廃屋の撤去等のミティゲーション、温泉事業者への熱水供給など、地域への貢献する、

(4)長期にわたるモニタリングと、地域に対する情報の開示・共有---といった条件を満たす場合に限って、容認する方針を打ち出した。

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