なぜファンドマネジャーの手は汚れて見えるのか?
素人同然の資産運用がまき散らすダーティーイメージの大弊害

証券取引等監視委員会によるAIJ投資顧問への強制調査(3月23日) 〔PHOTO〕gettyimages

 AIJ投資顧問の問題の本質は、アマチュアをプロだと信じたことにあります。皆さんは30年間築地で魚を売っていた仲卸人がいきなり包丁を持って料理をし始めた人をプロの料理人と認めるでしょうか?

 先日、私はある国立病院の新たなガン治療に関する記者発表に参加をしました。そこで医者と記者とのやり取りを聞きながら、社会的信頼を受けているプロと信頼を受けていないプロとの大きな差について考えさせられました。

 医者という業務全般をダーティーだと思っている日本人はあまりいないでしょう。もちろん、個別には問題な医者も出てくるし、診療費の不正請求をするような病院長などの話もありますが、これはあくまでも特殊事例で、全般的には医者は一定の尊敬を受けているし、医療行為そのものをダーティーという人はまずいないと思います。

 しかし、ファンドマネジャーというとなんとなくいかがわしさやダーティーだと思う人は少なくなく、投資行為そのものを悪と考えている日本人は少なくありません。

 先日、私が教えている明治大学の学生の大半が、授業を受ける前は「ベンチャー=ブラック」、「投資=ダーティー」だと思っていたという現実に驚きました。商学部の私の「ベンチャーファイナンス」の授業を受けにきてくれる学生でさえそうですから、文学部、法学部、理工学部、もしくは他大学の学生にいたっては相当残念な状態であるのは間違いありません。

 また、これを読んでくださっている読者の方々のなかにも、「ベンチャー=ブラック」、「投資=ダーティー」、常識じゃないの?という人がいらっしゃることでしょう。

 株式投資の本質とは何か?私はあえて言います。

株式投資をすることは
お洒落で
知的で
かっこいい
社会貢献です!!

 株式というのは、株式会社を支えるエンジンであり肉体そのものです。それはそこにいる従業者のすべての活動の価値が反映されているものです。工場を作ったり、新しく店を出店したりする資金の元手は多かれ少なかれ会社の株主資本から成り立っています。

 もちろん銀行などから借り入れを行うこともありますが、自己資金のない借金というのは企業においてはまずありえないのです。不確定な未来にお金を投じることが株主の役割であり、それが結果的に儲かることもあれば損をすることもあります。でも、そのようなリスクを取る人がいなければ未来を作ることができないわけです。

少し知っているだけに危ない

 しかし、今回のAIJ投資顧問の問題はとても重大な事件で、私は腹がたって仕方がありません。ごく一部の不届き者のために「投資=ダーティー」というイメージを、さらに強固にさせてしまったからです。

 AIJ投資顧問は年金資金を中心に2000億円を集め、そのほとんどを「消失」させてしまったという大変な事件です。浅川社長はよく知らない人ですが、野村証券の出身者だそうです。ここで大事なポイントは、証券マンは"金融商品の販売のプロ"であって、"資産運用のプロ"ではないということをしっかりと確認をしたいと思います。

 築地の魚の卸売業者と日本料理屋さんと同じ専門性だと思いますか?両方とも魚を扱いますが、扱う意味合いが違います。新鮮な魚を的確に料理人に運び届ける魚の仲卸人は立派なプロの仕事です。しかし、それを切ったり、焼いたり、煮たりする料理人とは専門性が違います。それは職業の価値には差はありません。しかし、職業の専門性には差があるのです。

 AIJ投資顧問の問題を考える時には、まずこの点をしっかり理解する必要があります。証券会社で約30年間、金融商品を販売してきた人が金融商品を組成することはまったく別の仕事なのです。

 私たち、資産運用業にいる人間からすればまったくのど素人とほとんど変わりがないのです。むしろ少し知っていると思っている分だけ危ないというのが実情です。自動車のディーラーが車を作りだす行為などに似ています。大手の証券会社出身だと資産運用もプロのような錯覚がありますが、資産運用は長年の修行が必要で、それには単なる腕前だけではなく大きなお金を扱うモラルについても先輩から後輩にしっかり叩きこまれるべきものなのです。私は先輩から「お金はオッカネー」と言われ続けてきました。

 大きなお金を扱うプレッシャーに耐えるだけの胆力とそれを預かる社会的責任に対する自覚。不法行為を働いて個人的な利益(もしくは会社の利益)を得ようとする誘惑をはねのける力などが必要です。そしてかつライバルに対して絶対によい成績を出すんだという意欲。

 別の例えを言えば、車のディーラー一筋30年と言うオヤジが車を組み立て始めた時に、それに喜んで乗る人はいるかもしれませんが、わずかでしょう。しかし、今回はまさにそのようなことが起きてしまった。要するに、資産運用業は独立した仕事であってプロがやるべき仕事であり、金融商品を販売する人と運用する人はまったく違う仕事であるということが、認識されていなかったということが非常に問題であると私は思うのです。

 とはいえ、これは私も含めて資産運用業界全体の問題でもあるでしょう。日本の資産運用会社のほとんどは販売会社の子会社になっている構造で、子会社の社長や役員などが多くは販売会社の天下りに占められていて、資産運用会社そのものが独立した業態としての自覚も発言力も「ほとんどない」状態であるのが実態です。販売会社と資産運用会社の区別がつかない状態をきちんと改めなければ同じような事件は今後も起き続ける可能性があります。

 販売会社の人のモラルが低いと言っているわけではありません。そうではなくて、大きなお金を様々な誘惑から逃れ、その社会的責任を果たすことに対する自覚を得ることは、そのような自覚を持った専門家を仕込んでいく必要があり、教育抜きに運用現場に携わることは原則あってはならないということが言えるのではないでしょうか。

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