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あなたの選択は?森永卓郎「年金、私の考え」「今なら1割増し、60歳からもらおうよ」
「年金財源確保のための消費税引き上げは、財務省や富裕層を喜ばせるだけなんですよ」

 公的年金は60歳から70歳の範囲で、もらい始める時期を自由に決められる。そこで議論百出、いつからもらうのが得策なのか---。経済アナリストの森永卓郎氏(54歳)は、本誌が主張してきたように、「年金は60歳からもらったほうが賢い」と考えている。

 ほとんど話題になっていないのですが、今もらえる年金は、本来もらえる年金の額より約1割も高いのです。この〝高水準〟は数年の間は変わらないでしょうから、60歳になったらすぐに年金を繰り上げ受給したほうが、絶対に得なんです。

 どういうことか、簡単に説明しましょう。

 '04年の「100年安心プラン」と銘打たれた年金改正で、公的年金制度が少子高齢化で破綻しないように、毎年0・9%ずつ、年金支給額を引き下げていくことに決められました(マクロ経済スライド)。

 ところが、この決定は今まで一度も実行されていない。長引くデフレ経済によって物価が下がったため、0・9%の支給額引き下げの前に、物価が下がった分の支給額引き下げが必要となったからです(物価スライド)。

 民主党政権はまず、この物価スライドを優先的に考え、今年10月から0・9%ずつカットし、約3年かけて払い過ぎである2・5%分を解消すると決めました。

 私は昨年末、NHK『日曜討論』に出演したとき、小宮山厚労相にこのことを訊ねたんです。

「(物価スライドの)2・5%分の払い過ぎを解消すると厚生労働省は言っていますが、マクロ経済スライドの未実施分はどうするのですか」

 これに対して、小宮山厚労相は、「まずは物価スライドの未実施分を3年かけて解消するのが優先。その間はマクロ経済スライドの解消には手をつけません」と公言したんです。

 つまり、本来ならば'05年から今年まで、0・9%×8年分=7・2%ほど支給額を削減しなければ、年金財政は正常に保てないのに、今後3年間はその分を削減しないというのです。民主党政権は、「そんなに削減したら選挙で大惨敗する」と思っているからでしょう。

 だから、現在の年金は、物価スライドの未実施分2・5%に加えて、マクロ経済スライドの未実施分7・2%の合計で9・7%分が本来よりも多く支給されているわけです。また2・5%の払い過ぎが解消された3年後でもやはり0・9%×11年分=9・9%ほど多く支給されることになります。

 約1割も高い額の年金をもらえるというだけで、今すぐ年金をもらったほうがよい、と主張しているわけではありません。

 60歳定年を迎えた男性が、65歳から年金を受給しようと辛抱強く待つ間、いまだ実施されていない1割分の年金削減が断行されたと仮定してみましょう。

 この場合、60歳から繰り上げ受給した男性が受け取る累積年金額が、65歳からもらい始めた人に抜かれるのは83歳の時点です(国民年金の場合)。

 要するに、平均寿命(男性79歳)以上に長生きしても、60歳からもらい始めた人のほうが総額で得をすることになる。

 一方で、65歳まで年金受給を我慢して待つ間に、年金支給額が減額されるリスクについて考えましょう。

 まず、日本が現状のデフレ経済を脱却できない限り、年金制度の破綻は早まっていきます。最も怖いのは、'14年に消費税率引き上げが実施されて、「恐慌」になることです。恐慌になると、物価は大きく下がり、失業者も増えるので、年金の保険料収入も減る。この悪循環により、20年で枯渇すると言われる積立金が、10年くらいで枯渇して年金財政が破綻するかもしれない。

 もちろん、国は破綻を防ぐために年金改正に踏み切るでしょうが、それは年金「改悪」に他なりません。'85年以降の年金改正を見ると、支払う保険料は上がるのに、支給額は一度も上がらず、巧妙なやり方で減額される一方だからです。

 例えば、一般にはまるで知られていない、厚生年金の報酬比例部分の支給額計算に用いられる〝乗率〟。'85年に、1%から0・75%に引き下げられた結果、モデル年金額(報酬比例部分)は月8万1300円から7万6200円に下がった。

 '00年の改正では、0・7125%に乗率を引き下げ、'03年度以降分の報酬比例部分の乗率については、なんと0・5481%まで引き下げてしまいました。

 近い将来に改正と称した荒技で、再び支給額を大幅に削減することは間違いありません。

将来の減額は確実だから

 かたや公的年金ばかりでなく、AIJ投資顧問の年金資産消失のように、企業年金もまるで信用なりません。国際金融市場では日常的なことですが、AIJの運用資金は英領ケイマン諸島、英領バミューダ諸島、香港と流れ、バクチまがいの投機に使われたんです。

 年金をバクチで運用すること自体が間違っていますが、年利1%強を取れれば御の字の状況では、年利10%、20%を確保するためには、危ういバクチに足を踏み入れなければならない。

 公的年金についても同じ。年金積立金の目標運用利回り4・1%など、ハイリスクな運用をしないと達成できるはずがない。だからこそ、損失額も大きくなり、財政が逼迫していく。

 現状では本来より高い額の年金をもらえること、年金運用はうまくいかず支給額が将来大幅に減額されるだろうことを考えると、なるべく早く年金をもらったほうがいい、という結論にならざるを得ないのです。

森永氏が監修を務めた新刊『年金は60歳からもらえ』(光文社)

 繰り上げ受給の主な利点をまとめておきましょう。

(1)本来より総額で1割増しの額をもらえる
(2)60~65歳の無年金・無収入期間が解消される
(3)支給額を確定させておけば、将来減額されても、支給開始年齢が68歳に引き上げられても影響なし

 ひと月の支給額が最大3割減額されたり、一度繰り上げ請求すると、取り消しや変更ができないという欠点を勘案してもなお、この利点のほうが大きい。

 60歳から年金をもらい始めると、「支給額が減らされるので、老後資金が不安だ」という人もいるでしょう。でも、おカネをかけずに楽しむ方法はいくらでもある。絵を描いたり、ピクニックしたり、歴史を学んだり---私の周りでは、ペットボトルの蓋の収集に凝る人が急増中です。

 老後の生活費を抑える方法として有効なのは、定年時にキャッシュで「終の棲家」を確保すること。郊外や田舎には安価な物件がいくらでもあり、一度買ってしまえば、家賃やローンの固定費が節約できます。私は埼玉のトカイナカに住んでいますが、近くのマンションでは90m2の部屋が700万~800万円で買えます。都心に持ち家があっても、売却して郊外のマンションを買えば、余ったおカネを老後の蓄えにできる。

 田舎に住めば、朝は小鳥の囀りで起きられ、水も美味しいし、近隣の畑で採れた新鮮な野菜を食べられる。少しでも長く悠々自適な生活をしたいなら、60歳から年金をもらうことですよ。

「週刊現代」2012年3月31日号より

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