あらためて言う。消費増税法案に経済成長の数値を明記した「弾力条項」が必要なこれだけの理由
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 消費増税法案の党内事前審査議論は、弾力条項として数値目標を明記させるか否か、そしてさらなる増税規定を削除するか否か、この二点に集約されてきた。前者は附則の18条、後者は同28条の規定である。

 5年後のさらなる増税を規定する28条は、法案当局としては削除される可能性を十分考慮したうえでノリシロとして書き加えられた条文だと考えるべきだろう。議論の中で到底受け入れられない条文を忍ばせて、その取り下げを条件に絶対に譲れないポイントを守るという戦術が見て取れる。もちろん、譲れないのは附則18条の弾力条項における数値目標の設定だろう。

 なぜそこまで数値目標の設定を拒むのか、理由は三つほど会議でも挙げられていた。一つは、経済は生き物であり多様な結果が想定され、政府の政策判断を縛るような目標設定はすべきものではないというものだ。

 しかし、そもそも消費増税年度内措置の根拠とされている麻生政権時代の法案附則104条にも前提条件として経済状況の好転は示されている。経済状況が政府に影響を与える、「政府を縛る」のは当然のことである。それを議論するのは観念論としか言いようがない。

 二つ目は、数値目標の達成は困難である、との意見だ。名目3%、実質2%、特に実質はせいぜい0.7%がやっとなのに不可能な数字だとの意見だ。しかし、後述するが、この意見は現状分析をしっかりと行っていないのではないかと言わざるを得ない。

 三つ目は、政策は総合的に判断すべきであって数値で自動的にトリガーを引くようなものではないとの意見である。これは一つ目に近いが数値絶対主義を否定する文脈と思われる。いろんな議員の意見はあるだろうが、数値絶対ではなく、数値目標と併せて総合的に判断するという当然の考え方を用いれば、解決できる。

 いずれにしても、このような議論の中で、結論をどう落ち着かせるかが問われるわけだ。今一度、この18条についての整理を行ってみたい。

数値目標が必要な理由

○数値目標の意味

 そもそも数値目標の意味を考えてみよう。まず、消費増税を実施するか否かについて数値目標を設定することで、家計や企業などの民間は、経済状況が数値目標から乖離している際に、政府が何らかの行動を起こすことを期待することになる。

 例えば、名目3%成長や実質2%成長を明示的に目標設定した場合、民間は、政府が名目3%成長、実質2%成長に向け、新成長戦略を実施することやデフレ脱却に向けた政策の推進を「強く期待」することになる。

 さらに民間は、数値目標に従い政府の行動を予見するのみならず、予見に基づき消費や投資を決定する。つまり、成長を志向する数値目標を設定することにより、民間の活発な企業活動、消費活動が促され、これにより数値目標が達成される可能性が高まるのだ。

 もちろん、「政府が新成長戦略に基づき、「日本経済を良くしようと行動すること」が信頼されていることが前提となる。政府に閣議決定の遵守が求められるのは言うまでもない。

○数値目標の例

 今回の議論されている「増税」のトリガーに数値目標を採用している先進諸外国はないとも言われるが、数値目標を政策として用いていることは特別のことではない。例えばほとんどの先進国で、金融政策にインフレ目標が導入されている。これは、インフレ目標を設定することにより、中央銀行の政策に対する予見可能性が高まり、民間のインフレに対する期待が安定することを目的としている。

 仮に、何らかの経済の変動により、インフレ率が高くなった場合には、「中央銀行が金融を引き締める」ことを民間は予想し、企業行動や消費行動を決定する。例えば、金融引き締めを予想すれば、企業は投資を抑制する方向に動く。つまり、中央銀行の金融引き締めを予見した民間の活動により、経済活動は実際に中央銀行が政策変更をする前に抑制されることになり、インフレ率の沈静化が達成されることになる。

 このようなインフレ目標が機能する前提には、「目標にしたがって中央銀行は政策を実施する」という中央銀行に対する強い信頼感が前提となるのは言うまでもない。

○総合的判断の弊害

 先述したように民間は、政府の行動を予見したうえで、自らの投資や消費の行動を決定する。仮に法律上に経済上の好転について、明文化が行われれば、民間は、自ら消費税の引き上げの可能性を判断し、投資や消費活動を決定することになる。これは、「駆込み需要」の前倒し効果を生む。97年におきたような消費税引き上げ直前の大規模な消費・住宅投資の増加と引き上げ後の大幅な反動減を避けることが可能となる。

 仮に総合的判断とした場合、政府が消費税引き上げをどのように判断するのか、明示されないこととなる。民間は、消費税引き上げが行われるのかどうか、疑心暗鬼の中で、投資や消費活動を決める必要が生じる。実際には、97年と同様の「大きな経済変動」を生み出す可能性がある。

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