スポーツ

二宮清純レポート
セーブ王は逃げない岩瀬仁紀中日ドラゴンズ・投手「クローザーの心得」

2012年03月24日(土) 週刊現代
週刊現代
二宮清純氏

 敵からすれば「死の宣告」のようなものだ。男はいつも最終回に現れる。そして一球一球、対峙する者の戦意を摘み取っていく。今日も明日も明後日も。そんな毎日を10年近くも続けてきた男がここにいる

振り返るのはまだ早い

 同じアウトでも初回の3つと最終回の3つとでは、まるで意味合いが異なる。とりわけゲームの幕を引く27個目のアウトは緞帳のように重い。

 クローザー、すなわち幕引き屋。岩瀬仁紀がこの稼業を本格的に始めて9年目のシーズンに入る。

 タイトロープを渡り切った先には監督のねぎらいの握手が待っているが、渡り損ねれば、そこは地獄の谷底だ。信頼を失うのは一瞬だが、それを築くには長い歳月がかかる。まさにクローザーは一日にして成らず---。

 数々の修羅場を乗り越えてきた通算セーブの元日本記録保持者・江夏豊は、クローザーという仕事を独特の表現で説明している。

〈先発は完投したら、勝ったら、次の日は精神的にも解放されますけど、反対に抑えの場合、ほんとうにホッとできるのは、一日のうちにわずか十五秒か二十秒でしょう。

 つまり、最後のバッターを打ち取って、マウンドからベンチに帰って、監督、コーチ、先発ピッチャーと握手をする。「ご苦労さん」と言われる。それまでのあいだだけですからね。そして次の瞬間、明日の試合が待っている。これはもう、抑えの宿命です〉(自著『エースの資格』PHP新書)

 心地良い解放感に浸れるのは1日のうち、わずか15秒か20秒。一仕事終われば、もう次の仕事への準備。心の休まる日など、1日もない。それがクローザーだと江夏は語る。

 37歳の守護神は、滞積するストレスを、どのように克服しているのか。

「この仕事は結果が良かれ悪かれ、ストレスはたまるものです。だから2月から11月までは、とにかく我慢、我慢。解放されるのはオフになってからで十分。ストレスから逃げるのではなく、当たり前だと考えなくちゃ、この仕事はできません」

 なるほど、できる男はストレスすらも飼い馴らし、明日への活力に変える術を持っているということか。

「いい思いも悪い思いも、たくさんしてきました。一喜一憂していたら、前には進めませんよ」

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