羊頭狗肉の規制緩和
地熱発電を阻む環境省のレンジャー魂

 全国の原子力発電所が相次いで運転を停止する中で、自然再生可能エネルギーの隠れた本命として見直し機運が高まっていた地熱発電の育成が風前の灯になってきた。

 まるでプロパガンダに協力するかのように主要メディアは実態を伝えないが、環境省の自然環境局は、事業者の要望を無視して、発電所建設に必要な国立公園と国定公園の規制緩和を拒む姿勢を固めた。

 結果として、すでに地元との調整が始まっていた全国の9地域のうち、6地域の計画が暗礁に乗り上げる見通しという。

 問題の自然環境局は一般的な中央官庁の組織とは異質の存在で、本来は国立公園に駐在して現場を管理・監視することを使命とする自然保護官(レンジャー)の牙城。日頃から、環境省の中からも「独立王国のようだ」(環境省関係者)と苛立つ声が絶えなかった。今回も再生可能エネルギーの振興という省の方針を無視しているという。

 東京電力・福島原子力発電所の大惨事を受けてエネルギー戦略の歴史的転換が急務であるにもかかわらず、国益の変化とは無縁のレンジャー部隊に国策を委ねることの弊害が改めて浮き彫りになっている。

 まず、有力メディアの報道を紹介しよう。

 「国立公園で地熱発電後押し 環境省、設置規制緩和へ」(2月14日 朝日新聞デジタル)

 「地熱発電 国立公園内の基準緩和へ 特別採掘に限り容認」(2月15日 毎日新聞)

 「環境省、地熱発電所の要件緩和 『斜め掘り』容認へ」(2月14日 47News共同ニュース)

 と、自然環境局の打ち出した「斜め掘り」の解禁方針を前向きに評価する報道一色となっている。

 しかし、斜め掘りの解禁は、本当に地熱発電の振興に役立つのだろうか。

地熱資源開発が計画されている地域
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 まず、「地熱資源開発が計画されている地域」というリストを見ていただきたい。現在、全国の事業者が進めている地熱発電所の建設計画を、資源エネルギー庁がヒアリングしてまとめたものだ。

 計画は全部で11あり、このうち地元との調整が始まっている9件の具体的な内容がリストアップされている。

 ところが、<国立・国定公園第2種・第3種特別地域を調査・開発範囲に含む計画>の6件が、今回の環境省の規制見直し方針に失望し「すべて事業化を断念する可能性が高い」(資源エネルギー庁関係者)という。

 残りの3件も、今後の調査の行方次第では、環境省の規制がネックになって断念せざるを得ないとみられている。

 つまり、今回の自然環境局の見直しは、有力メディアが伝えたニュアンスほど実効性は高くない。

押しつけられる2倍のコスト

 では、何がいけないというのだろうか。

 下図をみていただきたい。業界団体の研究に基づいて、資源エネルギー庁が作成したものである。

垂直掘りと斜め掘り

 ポイントは、地熱発電に使う高温の水蒸気が溜まっている「貯留槽」の真上から「垂直掘り」(下図では「ケースA」)をする場合と、離れた地点から斜めに掘る「斜め掘り」(同「ケースC」をする場合のコストの違いだ。

 6地区の開発事業者がかねて要望していたのが、この垂直掘りだ。逆に、自然環境局は、斜め掘りしか認めないと主張していると考えてもらえば良い。

 垂直掘りの採掘距離を1800mと仮定すると、標準的なコストは4億円強。一方、ケースC地点まで離れて40%ほど長い2500mの距離を掘るとすると、そのコストは2倍の8億円程度に跳ね上がってしまう。

 実際の調査では、20ヵ所ぐらい採掘することが多いので、斜め掘りは、事業計画上の調査コストが80億円から160億円程度に跳ね上がる原因になる。地熱発電所は、環境アセスメント手続きなどもあり、8年から10年程度の開発期間が必要。この間、採掘コストも回収できないため、投資リスクを負う事業主体がいなくなるという。

 つまり、主要メディアが持ちあげた環境省の見直し方針はコストを押し上げる問題があり、羊頭狗肉の規制緩和に過ぎないのだ。むしろ、メディアは「環境省、公園内での垂直掘り要望を拒否 地熱発電の事業化難しく」と報じるべきだったと言える。

 地熱発電は、再生可能エネルギーの中でも稼働率が高いのが特色だ。現在運転中の設備の稼働率をみても、太陽光(12%)、風力(20%)を大きく上回り、地熱のそれは70%に達している。

 晴れないと発電ができない太陽光発電や、風がないと発電できないうえ、風車の回転部分や方向を変える部分の故障が多い風力発電と比べて、地下の熱源から噴出する水蒸気は安定しているからだ。

 ところが、国内の地熱発電所は現在、18ヵ所しかない。

 1974年に、当時の環境庁が通達を発出、それ以前に操業していたか、すでに建設工事が始まっていたものを除いて、「当分の間、国立・国定公園の景観及び風致維持上支障があると認められる地域においては新規の調査工事及び開発を推進しない」としたうえ、1994年の通達でも「開発を目的とした調査井掘削を含めて個別に検討し、その都度開発の可否の判断を行う」として厳しく制限してきたからだ。

 富士箱根伊豆国立公園内の「普通地域」(5区分ある中で一番規制の緩い地域)にある八丈島発電所が2001年に運転を開始したのを最後に、過去13年間にわたって新たな地熱発電所は1つも建設されていない。

 その結果、全国で潜在的には2,357万kW(大型原子炉の23.5基分)の発電所建設が可能とされているにもかかわらず、実際の発電容量は合計で54万kWにとどまっている。潜在的な熱源の9割以上は、全国に29ある国立公園、同じく56ある国定公園などの自然公園の特別地域などに集中しているが、こうした地域での建設が環境省によって厳しく規制されてきたからだ。

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