相次ぐ携帯電話の通信障害
データ通信量の急増への対応が後手に[通信]

一連の通信障害に対する再発防止策を説明するNTTドコモの山田隆持社長(左)=東京都内で2月21日

 昨年から携帯電話で通信障害が相次いでいる。このうち業界最大手のNTTドコモによる通信障害は、スマートフォン(多機能携帯電話、スマホ)の普及で急増するデータ通信量にインフラ整備が追いつかなかったことが主因だった。携帯電話各社は混雑する通信をさばくための設備投資や、データ使用量が多いヘビーユーザー対策に腐心するが、万全の対策は見いだせないのが現状だ。一方、総務省も、通信障害を相次いで起こした業界1、2位の2社を行政指導すると共に、技術基準見直しなどの対策をまとめる方針だ。

 ドコモでは、昨年6月以降計5回の通信障害を起こしている。このうち1月25日の通信障害は、東京都の14区内で、従来型携帯電話とスマホ双方の通話、メール、データ通信が3時間半にわたって不能に陥った。平日の昼間とあって、商用の電話やタクシーの決済システムができなくなるなどビジネスへの影響も大きかった。

 総務省は1月26日、「スマホへの対応が十分でない」としてドコモを行政指導した。ドコモは山田隆持社長ら6人を減給処分するとともに、通信設備増強のために4年間で500億円の追加設備投資を決定した。

 スマホの特徴は、携帯電話会社以外の事業者や個人が製作したアプリ(アプリケーションソフト)を利用して、機能を増やせることだ。しかし、1月25日にドコモで発生した通信障害では、この長所が裏目に出た。

 ドコモの多くのスマホで採用している米グーグル社製の基本ソフト(OS)「アンドロイド」は28分に1回、接続状況を基地局に知らせるために制御信号を発している。また「無料で通話やメールをやりとり」「地図上で道案内」などの機能を持つアプリを組み込むと、使っていない時でも、位置情報やアプリの更新情報を知らせる制御信号を3~5分間隔で送受信する。ユーザーがスマホ端末を使っていなくても、知らないうちに一定のデータが流れていることになる。そこに電話やネット閲覧のデータ通信が加わると、携帯電話会社の機器に負荷がかかり、異常が発生する。

 しかし、携帯電話会社が、制御信号の量を把握するのは至難の業だ。アンドロイドは、誰でも自由にアプリを開発して搭載できる「オープン性」が売り物だからだ。携帯電話会社が、すべてのアプリについて何分間隔でどのぐらいの量の制御信号を出すのかをつかむのは不可能だ。ドコモは再発防止策として、グーグルやアプリ開発者に、制御信号を減らす改良や、制御信号の情報開示を呼びかける。

 一方、KDDI(au)やソフトバンクモバイルが販売している米アップル社製の「iPhone」は、アップルがOSを製作して、対応アプリも審査する「垂直統合モデル」。このため、アップルがアプリの制御信号を把握できる。

 それでも、スマホの普及とアプリ利用は今後も増加が予想される。通信混雑は業界共通の課題だ。ソフトバンクの孫正義社長はドコモの通信障害を「我々も笑えない」と述べた上で「OSとアプリ製作者も一緒になって問題解決に取り組まねば、みんなが困る」として、業界の垣根を越えた協力が必要との見解だ。

 通信混雑に対して総務省も危機感を募らせる。対策として、地デジ放送移行などで「空き地」となった周波数帯「700メガヘルツ」「900メガヘルツ」を携帯電話会社に割り振る方針だ。これらの周波数帯は、山や建物などの障害物を避けて通りやすく良質なため「プラチナバンド」と呼ばれる。第1弾として900メガヘルツを1社に割り当て7月からの利用開始を目指す。また700メガヘルツについても今後2社に割り当て、15年までに利用開始とする。

 プラチナバンド割当が「データの通り道確保」なのに対して、ドコモの通信障害は「データの混雑整理」ができなかったことが原因だ。

 「混雑整理」にはさまざまな対策がある。各社がしのぎを削る無線LANの基地局増設は典型例だ。この基地局は「WI‐FI(ワイファイ)スポット」などと呼ばれ、ネット回線だ。データ通信をネット回線にも振り分けて、混雑する携帯電話回線から負荷を弱める「オフロード」という考え方だ。

 ヘビーユーザー対策も有効な手立てだ。携帯電話のデータ通信は「1%の利用者の通信量が全体の3分の1を占める」と言われる。背景には、携帯電話各社ともデータ通信が5000円前後で使い放題となる定額料金制を導入していることがある。

 ドコモは直近3日間の通信量が300万パケットに達すると通信速度を遅くする規制を09年10月から実施しており、KDDIにも同様の規制がある。さらにドコモは今年10月から、高速無線通信サービス「Xi(クロッシィ)」については、通信量が7ギガバイトまで定額で、それ以上は通信量に応じて追加料金を支払う「従量制」を導入する。

ドコモ、交換機2割増強へ

 ドコモは一連の通信障害を受けて2月21日、具体的な再発防止策を発表した。増大する通信量をさばくため、携帯から送信されるデータを処理する「パケット交換機」を4月末までに40台増やし、台数を現在より2割増強することなどが柱だ。また、スマホのアプリケーションを開発している約700の事業者に対して、ネットワークへの負荷低減を図るように要請した。

 通信障害はドコモだけではない。KDDI(au)も昨年4月から今年2月11日までに5回の通信障害を起こし、総務省が行政指導に踏み切った。特に昨年4月30日と今年2月9日のケースでは、スマホの利用が困難になった。同社の場合、原因は個々の機器故障が原因で、「スマホの混雑対策が引き起こした障害ではない」(広報部)との立場だ。

 ただ、川端達夫総務相は契約数1、2位を占める両社で相次いだ通信障害に「電力で言えばしょっちゅう停電しているのと同じ」と危機感を持ち、総務省として再発防止策を打ち出した。ドコモ、KDDIだけではなく主要携帯電話会社とトラブル事例を共有して、機器類の点検を指示▽通信機器の運用や管理法を定めた「技術基準」を8月をめどに見直す---ことが柱だ。

 携帯電話会社にとって今や、スマホ市場は主戦場。通話収入が落ち込む中、スマホで多用されるデータ通信の収入を新たな収益の柱に見込むからだ。各社は端末や利用割引の値下げ合戦でユーザー獲得にしのぎを削る。その上、ユーザーが増えれば通信障害回避のための設備投資も巨額になる。「ユーザー獲得」と「通信の質確保」の二つの命題をどう実現するのか。各社は厳しい競争の中でまさに二兎を追う難しい課題を突きつけられている。

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