「年金受給額減額」の条件緩和には反対!AIJ事件を受けた民主党の年金基金運営見直し案を考える

 AIJ投資顧問の巨額損失事件の発生を受けて、民主党の作業チームが厚生年金基金の運営ルールの変更を含む対策案を検討している(『日本経済新聞』3月6日、朝刊)。現段階で報じられている案は、6月をめどに提言をまとめる叩き台とのことであり、現在、政策実行力を欠いている民主党内部の検討案なので、そのまま実現する可能性はほとんどないと思うが、何をどう直したらいいのかを考える上では参考になるから、ここで検討してみたい。

 『日本経済新聞』の記事を参考にまとめると、以下のようなことを検討しているようだ。

① 運用経験者の配置義務化
② 分散投資の義務づけ(1社への集中投資排除)
③ 信託・生保の受託者責任強化
④ 年金給付減額の条件緩和(年金受給者の三分の二から二分の一へ)
⑤ 保証利回りの強制引き下げ
⑥ 特別会計や補助金による積立不足の穴埋め
⑦ 資産運用管理の一元化(金融庁と厚労省の共管)
⑧ 金融庁、証券取引等監視委員会、財務局の人員増強

 順番に考えてみよう。

競争の公平性で問題あり

 ある程度以上の規模の年金基金に、運用経験者の配置を義務づけることは、ある程度の効果が出る場合もあるだろうが、運用経験者といっても質にばらつきがあることや、運用経験者であるが故に運用でリスクを取りたくなったり、また、運用業界の知り合いと癒着する可能性があったりすることを思うと、かえって危ない感じがする。

 担当者として運用経験者を一人雇う形よりも、運用経験者を含む運用チェックの委員会を作り、社外取締役的な権限と一定の責任を持たせて、外部の複数の運用経験者や専門家のチェックを受ける形の方がいいのではないだろうか。

 但し、現在の個々の運用商品の内容を本当に評価できる外部アドバイザーのなり手は、そう多くいるわけではない。どんな基金に運用チェックの委員会を義務づけるのか、条件に工夫が必要だろう(単に、運用金額だけではあるまい)。また、シンプルな運用だけを行う基金では、こうした委員会を不要にする手もある。

 分散投資の義務づけを今更やらなければならないとは、少々呆れる状況だし、厚労省はいったい今まで何を見ていたのだろうか。もっとも、日本には米国のエリサ法のようなものがないので、仕方があるまい。

 AIJ事件では、AIJ投資顧問に全体の3割以上の資産を預けていた基金が数基金あって驚いた。運用の内容によっては委託先の分散が不必要であったり、無駄であったり、する場合がでるだろうから、丁寧なルールの設定を望みたい。

 年金を管理する信託銀行、生命保険会社の受託者責任を重くして、彼らを通じて投資顧問会社を管理しようという発想には、現状では反対だ。

 報道によると、金融庁でも、年金資産を預かる信託銀行にあって投資顧問会社の運用をチェックする責任を強化しようとする考え方があるようだが、信託銀行自身が運用会社でもあるので、このアプローチには、競争の公平性の観点で少なからぬ問題がある。

 たとえば、筆者は、かつて信託銀行に勤めたことがあるが、この信託銀行では、年金特金を管理する立場を利用して、運用内容に注目する投資顧問会社のポートフォリオを調べたことがあった。資産管理と運用業務の両方を兼ねる立場を作ることは、競争上不公平だ。「情報を流用しない」という社内ルールなどは、社内で人事異動があるのだし、有効に機能しない。

 但し、別のプロによるプロのチェックになるので、このアイデアにも捨てがたい面はある。例えば、年金運用にあって、信託銀行は、資産の管理者(カストディアン・バンク)とアドバイザーに特化するのがいいのかも知れない。インデックス運用くらいは信託に残してもいいかも知れないが、少なくともアクティブ運用と資産管理を両方やることに関しては疑問がある。アクティブ運用は全て投資顧問の形態で行い、年金特金を受託する(資産の保管を担当する)信託銀行のチェックを受けるような形がいいのかも知れない。

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