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インサイドレポート この最大のピンチをこの男で乗り切れるか
パナソニック新社長人事背景とこれから

6月から社長になる津賀宏一専務はまだ55歳〔PHOTO〕gettyimages

 中村現会長が社長時代に成し遂げた「V字回復」から10年。パナソニックは創業以来最大の赤字を出すことになった。再建を担う若き新社長は、実績も度胸も十分。その双肩に「名門」の浮沈がかかる。

部課長たちの反乱

「津賀(一宏)新社長の誕生は言ってみれば、足して2で割った人事。中村(邦夫)体制に終止符を打ちたい陣営は津賀さんの若さと物怖じしない性格に賭けた。一方、中村さんにしても自分に真っ向から対立する人物では納得できないでしょうが、津賀さんは自分と同じAVC(オーディオ・ビジュアル・コンピュータ)部門のトップを経験し、大学も一緒。バランス的にも絶妙な人事だと言えるんじゃないですか」(パナソニック幹部社員)

 2月28日の記者会見で発表されたパナソニックの新社長人事。大坪文雄社長の後を継ぎ、6月の株主総会を経て新社長に就任するのは同社専務の津賀一宏氏(55歳)である。

 55歳での社長就任は、創業者・松下幸之助による抜擢で、末席の平取締役から22人抜きで社長に就任した3代目社長・山下俊彦氏の57歳より、さらに若い。

 奇しくもその山下氏は津賀新社長誕生の発表と同じ日に92歳で亡くなった。創業家以外で初の社長となった山下氏と、創業家以外で最も若い社長となる津賀氏の〝新旧交替〟は因縁めいたものすら感じさせた。

 パナソニックでは中村邦夫現会長が、大坪氏に社長を譲った後も実権を握り続けてきた。社内で「天皇」と呼ばれる中村氏は、この人事で会長を退任、取締役も外れ、相談役に退くことになった。後任会長には大坪社長が就任する。

「実は昨年8月頃から大坪社長の退任が囁かれていました。しかし、大坪社長は実直な工場長タイプで、中村会長の路線を忠実に踏襲しただけ。パナソニック凋落の原因を作ったのは中村会長とその一派だという批判は社内でも強かった。

 今回の人事を見ると、その中村一派が全員退任しています。特に驚いたのは、これまでなら『金庫番』として副社長確実のポストだった財務担当常務まで退任していること。津賀氏の新社長就任より、中村体制を終わらせるための人事でしょう」(ジャーナリスト)

 パナソニック(当時は松下電器産業)中興の祖である中村氏は、'00年に社長に就任すると、薄型テレビを中心としたデジタル家電に力を入れ、創業以来の大赤字から黒字にV字回復させた。なかでも中村氏が推進したのがプラズマテレビだった。しかし、'05年頃から薄型テレビは液晶が中心になったにもかかわらず、プラズマにこだわったパナソニックのテレビ事業は、巨額の投資を回収できずに赤字を出し続ける「お荷物」になっていた。

 そこに円高やタイの洪水による工場の操業停止、買収した三洋電機の「のれん代」など、負の要素が重なったのが今期('12年3月期)。当初は300億円の黒字を見込んでいたが、昨年10月末に4200億円の赤字見通しを発表。さらに、そのわずか3ヵ月後には赤字額の見通しが7800億円に膨らんだ。創業以来最大の赤字額である。

 当然、中村会長と大坪社長の経営責任を問う声が社内外から上がったが、大坪社長はともかく、中村会長はギリギリまで退任するつもりはなかったようだ。

 全国紙編集委員が言う。

「パナソニックには、松下幸之助が社長を退任した66歳を超えて社長を続けてはならないという不文律のようなものがありました。大坪社長は66歳ですから、この不文律に照らせば退任は自然です。ところが、このタイミングで大坪氏が辞めるのは経営責任を取った形になり、中村会長も責任を問われるのは必至。

 そこで、中村会長は不文律を破って、大坪氏の続投を画策した。昨年末に読売新聞(大阪本社版12月30日付)が『大坪社長 異例の続投へ』と1面で報じたのも、中村会長サイドからのリークだと言われています」

 これだけの赤字を抱え、経営責任を取らなければ、市場からも消費者からも見放される---。現場の部課長クラスの危機感は頂点に達していた。

「中村・大坪体制に反対する部課長クラスが、続投報道のあった昨年末から、代わる代わる松下正幸副会長に『このままではパナソニックが潰れる』と直談判したそうです。『天皇』にダメ出しできるのは、創業家しかありませんから」(前出の全国紙編集委員)

 中村・大坪両氏は、同社OBに対して、巨額赤字を出したことを詫びつつも「来年度は必ず業績のV字回復を果たしてまいります」と続投への意欲を滲ませる連名の手紙を2月8日付で出している。社長就任の打診は2月に入ってからだと津賀氏も語ったように、今回の新社長人事がいかに急転直下決まったものであったかを物語る。

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