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総力取材 消えた年金資金2000億円
AIJ投資顧問の悪い奴ら

AIJ本社は日本橋の一等地にオフィスを構えていた〔PHOTO〕gettyimages

 また出てきた野村證券OB/契約先のリスト/回収は不可能/ウソをついていたのはAIJだけなのか/あなたの年金資金も危ない

 ターゲットは、地方の年金基金運用担当者。口八丁手八丁で2000億円もの資金を集めたが、たった10年足らずでほとんどが雲散霧消した。どこに消えたのか---背後に闇の勢力が見え隠れする。

40億円しか残ってない

 東京・日本橋の中央通りに面した一等地にオフィスを構えるAIJ投資顧問。

 '04年のある日、野村證券OBのA氏は、同社役員の松木新平氏を訪ねた。

「『儲かって仕方がないよ。オプション取引などをやってるけど、順調にいっているね』と、松木さんは余裕綽々という様子でした」(A氏)

 AIJの入居するビルから中央通りを挟んで向かい側にあるDICビル地下のレストランで、松木氏はそう豪語したという。

 A氏はこの前後、やはりAIJ投資顧問に移った別の野村OBとも、偶然電車で顔を合わせている。

「おお、久しぶり!ということで少し話しました。彼はAIJで営業担当をしていて、出張で全国を飛び回っていると聞いた。

『先日は、大島まで営業に行ってきたよ』と話していました。業績は順調だということでした。忙しいんだろうな、と思いましたよ」(A氏)

 しかしこの頃には、すでにAIJが公表する取引実績は虚飾にまみれていた。

 野村仕込みの営業力で地方の企業・団体の厚生年金基金から2000億円以上の資金を集めていたが、現在確認されているAIJの預金額はたった40億円だという。

 同社社長の浅川和彦氏は「香港の口座にまだ200億円ある」などと説明しているようだが、確認されていない。合計94もの企業・基金・団体が資金を預けた投資顧問の実態は、「張り子の虎」だった。今後、AIJに預けたカネの大部分が行方不明だと確定すれば、多くの年金基金が損害をこうむり、受け取れる年金額も少なくなる可能性が高い。AIJに資金を預けていた年金基金の加入者・受給者は合わせて88万人にも及ぶ。

 巨額の資金は、どこに消えたのか---。

 AIJ投資顧問は、'02年6月から資金の運用を開始した。野村證券OBの浅川氏は米系運用会社の日本拠点を買収、'04年8月に商号を変更し、AIJ投資顧問となった。

 野村證券時代からトップ営業マンとして知られた浅川氏は、全国の年金基金に狙いを定め、猛烈な勢いで資金集めを開始した。

「浅川さんとは1回会ったけど、いかにも証券会社の支店長という感じのおっちゃんでした。平身低頭、語り口は流暢で、理路整然と話すし、しょっちゅうジョークを言っていた。野村の京都支店長もやっていたそうで(実際には京都駅前支店)、バブルを生き抜いてきた匂いのする営業マンです。初めから安定運用を謳っていて、こちらのツボを押さえている。あんまり派手な実績だとこっちも疑うけど、そうではない微妙なラインを衝いてくるんですわ」(京都織物卸商厚生年金基金の担当者)

 浅川社長は、AIJの系列証券会社の営業マンを使って全国の年金基金の運用担当者に食い込んでいった。

「最初のきっかけは、電話の営業ですね。(AIJの)系列証券会社のアイティーエム証券の営業担当から電話があり、面会したいという申し出があって、AIJ投資顧問という会社の概要の説明がありました。それから数度の接触があり、約1年後に資金運用委員会を開いて、AIJ代表の浅川さんと、証券会社の担当者が来て、委員の前でプレゼンをしたんです。委員会に諮って5億円の購入を決定しました。

 はじめの説明では、『毎月コツコツ稼ぐ商品だ』ということでしたが・・・・・・」(北海道乗用自動車厚生年金基金常務理事)

 契約後は浅川社長の事前の説明どおり、毎月平均して0・5%程度の利益が出ている、というレポートが寄せられた。ときには0・1%しか儲けがない月もあったが、おおむね0・5%平均で回っていたので、1年後にさらに10億円を追加で委託したという。

 しかし、総額15億円、年金基金の7・5%に及ぶこの資金が、今後返還されることは絶望的だろう。

「浅川社長の手法は、巧みなセールストークと、酒食の接待。野村證券時代から、馴染みの店やスナックなどに顧客を招いて派手に接待していた。酒はそれほど強くはないんですが、とにかく楽しいお酒で、顧客を飽きさせない。カラオケも上手でした」(別の証券会社幹部)

 今回、AIJの顧客となった年金基金の担当者に、「酒食の接待、女性のいるクラブなどでの接待などはあったか?」

 と聞いたが、いずれも「それについては・・・・・・」と口をつぐみ、なかにはいきなり電話を切ったところもあった。

 こうして膨れ上がった資金が、2000億円にも達した。この1年間だけでも、180億円以上も預かり資金を増やしている。後述するように、業界の一部からは同社のパフォーマンスに疑惑の目を向けられていたが、一般投資家はまったく気が付いていなかった。証券取引等監視委員会が今年1月に検査に入り、その内容を日経新聞がスクープするまでは、「安定した実績を誇る会社」とみなされていたのだ。

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