[陸上]
海老原有希<Vol.2>「28年ぶりの金メダル」

今までやってきたことは変えない

 海老原と岡田コーチは4投目、5投目とさらなる記録を求め、試行錯誤する。4投目は重心を低くし、しっかり投げ切ることをテーマにした。だが、かえってフォームが乱れてしまい、うまくいかなかった。

 次の5投目はより高く角度をつけてみた。ところが最後に手首のスナップを利かせることができず、ただ、やりは高く上がっただけに終わった。残るはラスト1投。海老原は大会前まで何度も体にしみこませたフォームを、そのまま出しきることを心に誓った。

 思いは岡田コーチも同じだった。
「しっかり握って、手首を返す。そして、やりを浮かせる。今までやってきたことは変えないよ」

 5投目が終わった直後、そう海老原に伝えた。気づけば試合は緊迫の度合いを増していた。海老原は3投目からトップの状態が続き、アジアランキングでは上位の中国勢が伸び悩んでいた。
「中国の選手が絶対に抜いてくるはず。60メートルも投げないで勝てるとは思えなかった」

 この6投目ですべてが決まる。2位につけるアジアランキング1位の薛娟が最後の投てきに入る前、もう1度、岡田コーチは念を押した。「どんなことがあっても、今までやってきたことは変えないぞ。そのまま行け!」。海老原も大きくうなずいた。