『Big Data for Good ~データ・サイエンティストによるNPOへのプロボノ・プロジェクト、Data Without Boarders』

 「ビッグデータ(Big Data)」というトレンドが近年急速に話題になりつつあります。情報通信分野の技術革新により大量で多様なデータのリアルタイムでの生成、取得、蓄積、分析、可視化等が可能になり、得られた知見を社会や経済の問題解決、事業の効率化に役立てようとすることを広く指す言葉として使われているようです。

 昨年秋に封切られた実話に基づく米映画『マネーボール』(原作:マイケル・ルイス/2003年)の中では、ブラッド・ピット演じるオークランド・アスレチックスのジェネラル・マネージャー(GM)ビリー・ビーン氏が、データ分析を武器に新しい価値観で貧乏球団を立て直そうとする物語が描かれ、話題を呼びました。

『マネーボール』公式ウェブサイトより

 映画の中でも、「経験や直感ではなく、データ分析に基づいた知見や意思決定は今後ビジネス、政治等あらゆる分野で必要とされる」というメッセージが力強く訴えられており、スポーツ界のみならず、ビジネス分野でも、この「ビッグデータ」が話題になるひとつのきっかけを提供しました。

 顧客の属性や購買履歴を元にしたオンラインターゲット広告の進化や、顧客の消費行動から得られる知見を元にした商品・サービス開発等、様々な分野で、今後ますますイノベーションが加速していくことと思います。

 一方、「ビッグデータ」ブームで注目すべき大きなトレンドは、データ分析を活用することで、行政や医療サービスの改善、そして途上国の経済開発、貧困撲滅等の分野においても、大きな役割が期待されている点です。

 一番顕顕著な動きとして知られている例としては、政府機関が収集、発行するさまざまな統計情報、地理情報、環境情報、伝染病の情報、予算、支出、調達に関する情報等を、「オープンデータ」として公開する動きが世界に広がっていることです。

 アメリカ政府が2009年初頭に「Data.gov」を立ち上げたのを皮切りに、 イギリスの「data.gov.uk」、カナダの「data.gc.ca」、フランスの「data.gouv.fr」、香港の「Data.One」、イタリアの「dati.gov.it」、サウジアラビアの「saudi.gov.sa」等、現在20ヵ国以上が専用のサイトを運営し、データをオープンにすることで政府機関の透明性向上、市民参加促進、政府内および官民の連携を進めています。

データ・サイエンティストによるNPOへのプロボノ・プロジェクト、「Data Without Boarders」とは

 こうした動きは今や政府機関のみならず、国連機関、NPOにも広がりつつあります。そんな動きを後押しする試みの一つとして、データ分析の専門家(データ・サイエンティスト)によるNPOへの支援プログラム、「データ・ウィズアウト・ボーダーズ~Data Without Borders(国境なきデータ)」というプロボノ・プロジェクトが今、注目を集めています。

「データ・ウィズアウト・ボーダーズ」ウェブサイトより

 「データ・ウィズアウト・ボーダーズ」とは、データ分析を組織の経営に活かすための、そのような人材やリソースを持っていないNPO等と、優秀なデータ・サイエンティストとの橋渡しを行う、有志のプロジェクトです。

 ニューヨーク・タイムズのR&Dラボに勤務するデータ・サイエンティスト、Jake Porway氏と、ニューヨーク大学のPhD過程在籍中のDrew Conway氏が6月にブログ上で呼びかけたこの試みは、既に国連機関や大手NPOから支援の要請を受け、様々なメディアやカンファレンスを通じてその活躍が報じられています。

 例えば、昨年秋にニューヨークで行われた週末24時間をかけてデータ分析に取り組む「DataDrive」というイベントには、アメリカ自由人権協会(アメリカン・シビル・リバティ・ユニオン(ACLU))という伝統ある大手非営利団体がニューヨーク市内の警察官の取り締まり記録と地域住民の人種構成のデータを持ち寄り、各データがビジュアル化される作業が行われました。

 また、データ分析・活用に取り組んでいる国連機関のUN Global Pulseは、途上国を含む23ヵ国の人々に対して行った携帯電話経由のアンケート調査の回答データを持ち寄り、調査結果を動画としてビジュル化する作業が、「データ・ウィズアウト・ボーダーズ」のメンバーにより実現しました。その成果は、11月にニューヨークで行われた国連総会で披露され、データ分析の重要性は、国連事務総長潘基文氏の以下のようなメッセージを通じて強調されました。

〈 世界の多くの地域で、人々が仕事を失っていたり、病気になったり、食べ物がないというような事態が起きており、これらの兆候は開発に関するそれぞれのシグナルに含まれている。(民間企業がデータ分析に取り組んでいるように)我々もリアルタイムでこうしたシグナルに耳を傾け、活用しなければならない。 〉

 生まれたばかりのプロボノ・プロジェクト「データ・ウィズアウト・ボーダーズ」は、専属のスタッフがいる訳ではなく、週末や夜の空いた時間を活用して、データ・サイエンティストが国境を越えて社会をよくするために取り組むことを目指す団体です。継続性への疑問や不安もよぎるものの、こうした専門性を持った若者達の取り組みが世界規模で広がっていることは、非常に意義があることだと思います。

 システム自体は非常にシンプルな試みです。震災をきっかけに日本でも注目が集まりつつある技術者コミュニティの社会的課題解決への参画という機運の中で、「ビッグデータ」をキーワードにしたこうした試みが日本でも更に広がっていくことを願っています。

 以下は「データ・ウィズアウト・ボーダーズ」の共同創設者Jake Porway氏によるプレゼンテーションです。

 本記事に関するご意見、ご質問、フィードバック等は筆者のFacebookページまでお願いいたします。ツイッターは@socialcompanyです。

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