川口マーン惠美「シュトゥットガルト通信」

北ドイツで零下28.7度、最低気温のレコードを更新!
大寒波に襲われても停電が起こらなかったドイツ

2012年03月02日(金) 川口マーン惠美
upperline
猛烈な寒さに襲われたドイツ〔PHOTO〕gettyimages

 今年はロシアから来た殺人寒波が凄かった。1月の終わりから2月の半ばにかけて、ヨーロッパは軒並み猛烈な寒さで、特に東ヨーロッパは壊滅状態。ルーマニアは南極並みの零下34度を記録、アフリカのアルジェリアまで大雪に見舞われた。

 ドイツもその例にもれず、2月5日から6日にかけて北ドイツで零下28.7度が記録され、最低気温のレコードを更新。外は冷凍庫より冷たい。凍死者は東ヨーロッパを中心に300人を超えた。

 これだけ気温が下がると、不都合なことがたくさん起こる。自動車のエンジンは掛からないし、特急は立ち往生する。ハンブルクでは町の真ん中のアルスター湖で市民がスケートを楽しめたが、もちろんドイツ中の川やバルト海までが凍ってしまい、貨物船もフェリーも通れない。火事が起こっても、ホースの中の水が凍結して、消防士たちは燃え盛る家を眺めるしかなく、屋台のソーセージ屋は小道具のケチャップやマスタードが凍って商売にならず、墓場では地面が20cmも凍って、穴が掘れず埋葬が出来ない等など。

 ただ驚いたのは、一般のドイツ人はこの寒さを「ワンダフル!」と称賛していたことだ。確かに、あの頃のドイツのお天気は、高気圧のおかげでキンキンに乾燥して青空だった。家の中から見ている限り、私も「ワンダフル!」だと思ったが、ただ、ドイツ人は家の中から見ているだけでなく、用もないのに外へ出ていく。

 ドイツ人とは外気が好きな人たちで、密閉した場所の空気は身体に悪いと固く信じている。だから、年がら年中、すぐに窓を全開して換気をするし、年がら年中、新鮮な空気を吸いに散歩に行くし、多くの人は真冬でも寝室の窓を少し開けて寝る。日本なら、こんな真似をしたら離婚騒動だ。

 彼らにとっては、乾燥した極度に冷たい空気はとりわけ体にいいらしい。私が日本の人たちに、「今、シュトゥットガルトはマイナス15度なのよ」と言うと、皆、「あまり外へ出ない方がいい」と心配したが、ドイツ人は、皆、この極寒の中、今がチャンスと散歩に繰り出す。そればかりではない。カフェの前に出されたテーブルに陣取って、毛布にくるまって熱い飲み物を飲んでいたのだから、信じられない! 私の目には、一種の強迫観念のように映った。

 トーマス・マンの『魔の山』では、主人公のハンス・カストルプは結核の療養のためにスイスの高山のサナトリウムに行く。真冬の厳寒期、患者は暇さえあれば毛布にくるまって、バルコニーの寝椅子に横たわる。昔、この場面を読んだとき、なぜこれが結核の治療になるのかと不審に思ったが、それと同じ光景が、今回ドイツのあちこちで見られたわけだ。身体に良いことをしていると信じている時のドイツ人は自己満足の極致で、目に幸せの星が出る。冷たい空気を吸わないようにマスクを掛けている日本人とは、大違いだ。

次ページ  話が逸れるが、ドイツでは、新…
1 2 3 次へ

このエントリーをはてなブックマークに追加 RSS
関連記事


underline
アクセスランキング
1時間
24時間
トレンドウォッチ