二宮清純レポート
福岡ソフトバンクホークス投手 森福允彦
球史に刻んだ「11球」その原点

二宮清純氏

「江夏の21球」は江夏豊が31歳の時の偉業だった。昨年11月16日、日本中を驚かせた「森福の11球」。天下分け目のマウンドで、身長わずか171cmの双肩にかかった重圧は計り知れない。男はまだ25歳。

「アイツしかいなかったから」

 昨年、50個だったバレンタインデーのチョコレートが今年は200個に激増した。前年比、実に400%増。驚異的な伸び率だ。

 森福允彦、25歳。突然のモテ期到来には伏線がある。福岡ソフトバンクが中日を破って8年ぶりの日本一を達成した昨季の日本シリーズ、彼こそは陰のMVPだった。

 本拠地で2連敗したソフトバンクは、敵地の名古屋でひとつ星を返したものの、依然としてシリーズの主導権は中日が握っていた。

 それまでの3試合のスコアは中日の2対1、2対1、2対4。こうした体温の低いゲームは中日の最も得意とするところなのだ。

 迎えた第4戦、ソフトバンク先発はシーズン19勝(6敗)のD・J・ホールトン。中日は同5勝(3敗)のサウスポー川井雄太をマウンドに送った。

 初回、ソフトバンクは幸先よく2点を先取したものの、中日は5回裏に1点を返し、プレッシャーをかける。

 6回裏、ついに眠っていた中日の3、4番が火を噴いた。森野将彦のレフト前ヒットに続き、トニ・ブランコがレフト線へのツーベース。アップアップのホールトンはチームで最も勝負強い和田一浩との勝負を避けた。

 無死満塁。絶体絶命のピンチでソフトバンクの監督・秋山幸二は中継ぎサウスポーの森福をマウンドに送った。

 ニックネームは〝チョメ〟。浅黒い肌にスラリと伸びた細い手足。まるで戦いの場を求めてフィリピンからやってきた軽量級のボクサーのようだ。

「他にいなかったから」

 あっさりと秋山は言う。

「だってあの場面で、投げられるヤツ、他にいないでしょう」

 いきなり火事場での消火作業を命じられたファイヤーマンの心境はいかばかりだったか。