雑誌
特別対談 中沢新一×内田樹
「橋下現象と原発これからの日本を読む」

 1950年生まれの同い年。対談本『日本の文脈』がベストセラーとなっている二人の思想家が、政界を席捲する橋下現象と原発をキーワードに日本人の国民性を説き明かす。進むべき道は、どっちだ。

ヤンキー的なもの

内田 橋下フィーバーは、きわめて現代的な現象だと思う。

中沢 それはまたどういう意味で?

内田 彼は典型的なアンチ・パターナリスト(反父権主義者)でしょう。既得権益者に向かって、「われわれに権力も財貨もすべて譲り渡せ」という。世界のリーダーたちも現にどんどん低年齢化している。オバマもサルコジもプーチンも。

 一昔前は、スターリンもチャーチルもルーズベルトもドゴールも、「国父」というイメージの老人たちが政治を仕切っていたでしょう。

中沢 ガンジー以外はみんなオヤジでしたね(笑)。

内田 国父は「私にすべて任せておきなさい、悪いようにはしないから」と言うだけ。国民はしかたないから父を信認して丸投げして、個別的な政策の適否なんか吟味しない。久しく国際政治はこの父たちの密室会談だった。

中沢 そのオヤジたちはいまや政治の世界では退場を迫られている。代わりに登場したのが兄ちゃんみたいな人たちで、彼らはおしなべて新自由主義を掲げて人気を得ている。

 背景に「ヤンキー的なもの」の静かな台頭もあるかも。最近の日本各地の祭り文化を担っているのは実はヤンキーの方々です。昔はヤンキーの他に必ず「長老」みたいな人がいたもんですが、だんだん長老の存在感が希薄になりつつある。

内田 「父」は寡黙だし、説明しないし、腹が読めないけど、「兄ちゃん」は言うことがわかりやすいし、感情にも共感しやすい。彼らは無能な老人が権力や財貨を占有していることが許せない。だから、徹底的に「能力主義」的な仕方での社会の再編を要求し、反対者は容赦なく追放する。

 父は反対者もゴクツブシも含めて身内の面倒だけは見ようという気があったけれど、「兄ちゃん」にはそれがない。

中沢 商店街でバッタリ出会った優等生をボコボコにするヤンキーみたいに(笑)、文化人やインテリを「悪者」にして徹底的に叩く。

内田 フロイトの言った「原父殺害」を思い出すね。男兄弟が力を合わせて父親を殺し、その富を分け合う。強大な父が去り、フラットな世界が訪れる。

中沢 でも僕たち自身、若い頃そうだったでしょう。オヤジを倒せって。

内田 そうなの。自分がやってる時は何をしているのかわからなかったけれど、60歳を過ぎて若い人見ているとわかるね。問題は、もう巨大な父なんかどこにもいないということ。それなのに、まだ「父を倒せ」と言っている。システムはずいぶん前からかなり壊滅的な状態なんだ。

「壊せ」というスローガンが出てくるのは社会制度が堅牢で奪還するだけの富がどこかにあるというのが前提なんだけれど、その現状認識はもう通じない。

中沢 「今の資本主義によって繁栄し続ける」という前提ですね。僕は週刊現代で『大阪アースダイバー』を1年間連載してくまなく歩いたけど、今の大阪は全然堅牢じゃなくなっている。東大阪の町工場や船場の古くからある店はボロボロになり始めている。

 そういう大阪で「新自由主義的な発想でいかないと繁栄を維持できない」と言う人たちがいるけど、「今の繁栄」そのものがもうボロボロな幻想で。

内田 すでにボロボロに疲弊した労働者たちをさらに徹底した能力主義で格付けして非力なものを叩き落とすというのは、坂道を転げ落ちている時にアクセルを踏むようなものだよ。

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