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『ニューヨーカー』ジョン・カシディ記者のレポート世界最大のヘッジファンドを率いる男の物語 下 なぜ私には見えるのか
ハーバードビジネススクールを卒業後、証券会社勤務を経て『ブリッジウォーター』を立ち上げたレイ・ダリオ氏〔PHOTO〕gettyimages

 リーマンショックの1年以上前に、金融機関の多くが破産寸前にあると見抜いた。欧州債務問題でライバルたちが苦しむ中、莫大な利益を上げた。どうやってピンチをチャンスに変えてきたのか。

金融危機を予見

 運用資産1000億ドル(約7兆5000億円)を誇る、世界最大のヘッジファンド『ブリッジウォーター・アソシエイツ』。同社は米国や海外の債券など、さまざまな商品に投資しているが、その際、何百もの「判断ルール」を設けている。

 純資産60億ドル(約4500億円)を保有する同社の創業者レイ・ダリオ(62歳)は、かつてその「判断ルール」のひとつひとつを書きとめ、リングバインダーにとじていたが、いまはブリッジウォーターのコンピュータにデジタル保存している。

 その内容は、ある国で実質金利が下がった場合、その国の通貨は下落する、というきわめて一般的なものから、より踏み込んだものまで、多岐に及ぶ。長期的に見ると、金価格は流通している全貨幣量を金ストックの規模で割ったものに近似するが、もし金価格がそのレベルから大きく逸脱したら、それは金の「買い」ないし「売り」の機会、といったものもある。

 こうした細かな「判断ルール」を重視する一方、ダリオは経済を体系的に分析した上で、投資することの重要性を主張している。目の前の数値ばかりにとらわれる他のヘッジファンドとの大きな違いはこの点だ。
「多くの人々は今日の出来事を語る際、歴史的な背景や、経済がどんな枠組みで動いているのか、考えていない」

 そう話すダリオは、経済を見る時、最も注意を払っているのは、銀行や他の金融機関が与える与信(融資枠)の総計だ。それこそが消費全体のカギを握るファクターだと考えており、だからこそ、ダリオの目にはいち早くサブプライムローン問題の深刻さが見えていた、というのだ。

 '07年7月、まだ多くのエコノミストたちが与信の拡大にあまり関心を払わず、FRB(米連邦準備理事会)が調整する市場の通貨量ばかりに注目していたころ、ダリオはブリッジウォーターが発行する日刊ニュースレターで、「バカげた融資とレバレッジの実際」について執筆し、「この狂気から逃れる方法はないのか」と記している。

 実際にサブプライムローン問題がはじけると、ダリオはワイマールドイツにまでさかのぼって過去の金融危機の詳細を調査。また、世界の主要金融機関の公会計に目を通し、銀行などによる不良貸し付けによってどれほどの損失を抱えているか推算した。結果、出てきた数字は8390億ドルだった。

 以来、ダリオは「経済が下り坂となれば、それは通常の不況では済まない」「銀行の損失は天文学的な数字になる」と繰り返し警告を発し、'07年12月には財務省、そしてホワイトハウスを訪ねたが、見向きもされなかった。

 '08年になって金融システムが崩壊寸前の事態に陥り、深刻な景気後退を引き起こすと、ようやくダリオの分析を評価する者が出てきた。ローレンス・サマーズ元財務長官が振り返る。

「ダリオはものすごく知的かつ攻撃的な男で、経済を体系的に見る方法を知っている。私はそれら全部に同意しているわけではないが、今のような不透明な時期には非常に有力な分析方法だと思う」

 FRBが経済再生のために大量に貨幣を刷ることを余儀なくされる---こう予測したダリオは、そのシナリオで儲けるために数多くの賭けに出ている。たとえば金をはじめとするコモディティの買い持ち、ドルの空売り。これらの取引で'08年は大幅に利益を上げた。その後、ダリオはオバマ政権の景気刺激策では経済は回復しないと予測。'09年は損失を招いたが、'10年、GDP成長率が鈍ると、米長期国債の買い持ちや欧州国債の空売りなどを仕掛けることによって、莫大な儲けを生み出すことができた。

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