日本が世界を動かす
2012年02月24日(金) 赤羽 雄二

大企業が変われない理由と生き残りへのステップ

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 前回、日本の製造業の競争力低下について簡単に触れた。今回は、この点について、具体的な数字を挙げ、かつ、生き残りへのステップをどう模索すべきかについて詳しく述べたい。

日本の製造業の業績悪化

 日本の代表的製造業の業績悪化が著しい。2月3日、パナソニックの今期純損失の予想は7800億円に下方修正された。最終赤字は2年ぶりだが、過去最悪の赤字額となる。円高、タイの洪水被害に加え、三洋電機買収時ののれん代償却が響いたと発表されている。ただ、個別の事情はあるものの、大局的に見れば、サムスン、LGなど韓国メーカー等の追い上げの中、ヒット商品を生み出せなくなり、本業での収益力が低下していることが大きな理由と考えている。

 シャープも今月初め、2012年3月期の連結業績予想を下方修正し、過去最大の純損失2900億円となることを発表した。主力の薄型テレビの販売低迷、液晶パネルの大幅減産が大きく足を引っ張っている。パナソニック同様、目立ったヒット商品を何年も生み出せていない。

 ソニーは2月2日、2011年4~12月期連結決算を発表し、2014億円の純損失であることが明らかにされた。タイの洪水被害や円高の影響が大きい。ただ、テレビ事業が8年連続の赤字であり、商品開発力だけではなく、経営そのものにも疑問点が大きい。

 NECは、1万人規模の人員削減を含む事業構造改革を発表した。グループ従業員11万人強の4%にあたる5000人(国内2000人、海外3000人)の削減に加え、外部委託業務も5000人分を打ち切る。11年度の当期純損益予想は、黒字から一転、1000億円の赤字となっている。携帯事業が不振で、担当のNECカシオモバイルコミュニケーションズとNEC埼玉の2つの会社の社員の4分の1に当たる500人規模の希望退職を募る予定である。

 自動車業界も苦しい。ホンダは、今期純利益予想が前期比6割減の2150億円になる見通しだと発表した。円高とタイの洪水被害で、販売台数は8年ぶりの低水準となる。他の製造業が大赤字なので目立たないが、黒字とは言え、6割減、というのは企業経営としては極めて深刻な状況と考えられる。

 マツダは、4-12月期の連結決算は純損失1128億円と、4期連続赤字が確定した。東日本大震災後の減産や、タイの洪水被害などで、販売台数が前年同期比6.9%減の89万1000台に減少したことが大きく足を引っ張っている。欧州や中国での販売が不振だ。

 日本板硝子は、2月2日、グループ全体の1割にあたる、3500人の削減を発表した。欧州の景気低迷の影響を大きく受けており、過剰設備の削減にも取り組む。

競争力低下の背景

 今回の業績悪化の直接的原因は、急激な円高に加え、タイの洪水被害、東日本大震災における被害と販売不振によると説明されている。各社の経営努力、従業員の努力、関連企業の努力は、もちろん並大抵のものではなかったかと思われる。ただ、より本質的には、日本の製造業の競争力が大幅に低下したことが最大の理由ではないだろうか。

 日本の製造業は、1970-1990年代までは光り輝いていた。世界第二の大国として、日本人はプライドを持って世界中に製品を提供していた。YKK、パナソニック、トヨタ等、世界中に生産拠点を持つ企業も多数生まれ、比較的安価で、高品質の商品を世界中に提供することができた。韓国、中国企業が台頭してくるまでは。

 韓国・中国企業の台頭以前と以後では、製造業の競争優位性が決定的に変わった。比較的安価で高品質の商品に関しては、ハングリー精神旺盛で、日本企業から徹底的に学んだ彼らに相当部分取って代わられたからである。日本企業として勝ち残るには、誰が狙うべきユーザーで、そのユーザーが何を本当に求めているのか、徹底的に考え抜き、ディスカッションし尽くし、新しい企画を考え、最新の情報技術をフルに投入して世界中の人が感動する商品を生み出すことが必須となった。

 この当たり前のことがなぜできないのか、と普通の日本人は思うかも知れない。あんなに素晴らしい商品を開発し、世界に提供してきた日本の製造業がここに来てなぜ足踏みしているのか、と思ってしまう。

 日本の製造業の競争力が低下した理由は、実はかなり明確だと考えている。日本企業は「モノづくり」にすさまじい熱意を投入し、「モノ」の価格と品質で勝負してきた。いったん車ができたら、それを極限まで改善し続ける。いったんテレビができたら、画質や価格、サイズを体力の続く限り改善し続ける。その熱意と集中力は、多分今現在でも、世界一だ。

 ところが、問題は、その熱意と関心の中に「モノづくり」に向けられたほどはユーザー視点がはいっていなかったことだ。中国・インドを始めとするアジア諸国でも、中南米・アフリカ・ヨーロッパでも、数億~10億人規模の低所得者層が消費者として登場し、「そこそこによい、非常に安い商品」に殺到している。この市場を韓国・中国・インド企業や、欧米発のグローバル企業がごっそり持っていっている。

 一方、米国・中国・中近東等では、日本人には考えられない高所得者層が数百万、数千万人単位で生まれている。中国でのメルセデスベンツやシャネル、グッチ等ファッション系の高級ブランド商品の売上が話題に上るのは、その現れだ。

 さらに、競争の本質が「モノづくり」からよりサービス、プラットフォームとしての戦いに変わっていったことも、競争力の低下をもたらせた。

 もう一歩踏み込んで日本の製造業の競争力低下の背景を考えると、次の4点ではないかと考えている。

 第一に「ユニークな商品の開発力の弱さ」だ。これは、上述したユーザー視点に加え、全く新しいモノを生み出す力、生みだそうとする経営姿勢の弱さに起因する。日本では、テレビ、冷蔵庫等の家電、携帯電話、デジタルカメラ、自動車等、同一ジャンルに無数の商品が並び、消費者が選択に困ることが日常茶飯事だ。量販店でどれほど説明を聞いても、わかったようなわからないような感じで、結局はその時の気分とちょっとしたブランド指向と、最後にはエイヤで決めてしまう。ソニーのウォークマンは一世を風靡したが、それに次ぐ商品はその後見あたらない。

 第二に、「選択・集中分野の見間違い、垂直統合分野へのこだわり」がある。円高、災害以外にシャープ、パナソニック等の業績に影響をおよぼした最大の要因は薄型TVであり、各社が垂直統合にこだわった結果、供給過剰が起き、販売価格が下がり、収益率が一気に悪化したと考えている。デジタル製品の価値は、米アップルが示したように、何年も前にハードウェアからネットサービスに移っていたにも関わらず、ハードウェアの開発、生産設備、販売促進の投資を継続して集中的におこなった。技術的には価値を生み出しにくいところに投資を行ってきたので、アナログからデジタルへというシフトが完了した途端、競争力を失ってしまったのではないだろうか。

 第三に、「プラットフォーム、サービスの軽視」がある。日本企業の特徴として、iTunes Storeのようなプラットフォームを整備・構築するというよりは、それほど代わり映えのしない新製品を次々に出して、売れたらOK、売れなかったら値引きして在庫整理、という「数打ちゃ当たる」単発的な商品企画・開発が多く見られる。韓国サムスンは、日本企業の不振に対して絶好調であるが、現地のニーズを的確にとらえ、本国で共通プラットフォームを開発するなど、低価格商品でも十分利益を上げられる体制を確立している。

 第四に、「意思決定の遅さ、大企業病」がある。パナソニック、シャープ、キャノン、トヨタ等、半世紀前には素晴らしい日本発のベンチャー企業として生まれた。その後の躍進は世界中の消費者を感動させ、今日の地位を築いた。日本人に大いなる勇気を与えてくれた。ところが、高度成長期以降、組織が肥大化し、昇進するにもポジションが限られ、減点主義、保守型の官僚組織化が進んだ。こういった大企業の課長・部長クラスとはよくお話するし、意気投合もするが、その後、順調にお話が進むことは極めて希だ。3層、4層の階段を上って決裁を通すことが非常にむずかしく、ほとんどの場合、途中で挫折する。意気投合した中間管理職も、リスクを取って具申することが中々できない。どの壁かに跳ね返されている。この結果、経営者・社長は日本的「御神輿経営」の権化・象徴となり、ご自身が「裸の王様」になっていることさえ、多分気づいておられない。現実的な解決策は十分あるのに、実に惜しいことだ。

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