ドイツ
ホテル代の立て替えやビジネスクラスへの無料アップグレード、果てはメディアへの圧力ーーあまりにケチくさいスキャンダル続出で国民から愛想を尽かされ、メルケル首相にクビを切られた「セレブ好き大統領」
ドイツ、ヴルフ元大統領〔PHOTO〕gettyimages

 2月17日、ドイツ大統領ヴルフがやっと辞任した! この事件については、去年の12月に一度書いた(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/31075)が、一応の決着が付いた今、ぜひともその顛末を書かなくてはならない。

 ヴルフ大統領 "大スキャンダル"の発端は、友人である大金持ちの実業家から無担保、低利子の融資を受けていたにもかかわらず、それに関して州議会で質問された際、虚偽の証言をしていたのがばれたことだった。大統領になる2年前、ニーダーザクセン州の州知事時代の話である。ドイツの州というのは多くの自治権を持つので、知事にはかなりの権力がある。

 そのヴルフ氏が大統領に就任したのは2010年の6月。ドイツの大統領は国の元首で、政治には直接携わらないが、格としては首相より上。国家が道を誤らないように俯瞰するという、いわゆる良心の重鎮のような役目を果たす。したがって、国民の尊敬を集め得る人物でなくてはならず、知性と同じぐらい重要なのが、徳と人格。そして、今までは確かにそういう人たちが選ばれてきた。

 しかし、ヴルフ大統領の場合、最初から異色だった。どういうふうに異色であったかは12月に書いたので繰り返さないが、2008年に再婚した美人若妻とのストーリーはかなり派手で、セレブのお友達とのパーティー写真がふんだんに出回っていた。

 さて、12月に過去の偽証が明るみに出て以来、ヴルフ大統領に関する奇妙な話は限りなかった。彼は、叩けば埃のたくさん出てくる男だったのだ。あちこちのセレブのお友達の豪華別荘でおんぶにだっこのホリデーを過ごしたり、家族旅行の際、飛行機のエコノミー席を無料でビジネスクラスにアップグレードしてもらったり、自動車会社からまだ市販されていない新車をプレゼントしてもらったり、私的利用のホテル代をやはりセレブのお友達に払ってもらったり、とにかく安っぽい話が山のよう。それも、問題の融資を受けたマイホームはたったの5000万円ほどの物件だし、いくつかのホテル代も大した金額ではない。何だかケチくさくて、聞いている方が嫌になる。

 ただ、彼の弁護士事務所の説明によると、友人の別荘には無料で泊ったわけではなく、あとでちゃんとお金を払ったし、ビジネスクラスへのアップグレードは、プライベートのフライトで貯めたものでフライト中に処理したし(ルフトハンザの話では、フライト中にアップグレードはできないとのこと)、また、ホテル代やそこでのベビーシッター代も、立て替えてもらっていただけで、帰り際に現金で返却したのだそうだ。最初は騒ぐほどのことではないと思っていた寛大な人たちまで、この言い分にはあきれ返った。

 そればかりでなく、融資の件では、この特ダネを取った新聞社の社長に電話をして、ニュースを出さないよう脅していたことまで明るみに出た。迂闊なことに、大統領は留守録に話しており、証拠が残っている。こうなると、報道の自由の侵害? 法と秩序の番人を任ずる大統領としては、あるまじき行為である。何よりも、これによってヴルフ大統領はメディアを敵に回すことになった。今どき、メディアに向こうを張って生き残れる政治家はいない。

 そうするうちにクリスマスが訪れ、クリスマス恒例の大統領スピーチとなった。これは、大統領の任務の中でも注目されるものの1つだ。とはいえ、これほどたくさんケチくさい話を聞いてしまったあとでは、いくら大統領が立派なことを話しても、国民としては白けるばかり。しかも、スキャンダル沸騰の真っ最中だったのに、大統領は一言もそれに触れなかった。

 国民の怒りは、おそらくその「まるで何もなかったような清浄そうな顔」に向けられたのだと思う。大統領は、国民が忘れてくれる日を待つつもりだったのだろうが、国民としては憤懣やるかたなく、そのうえ、毎日のようにザクザクと新しいケチ話が出てくるのだから、忘れられる道理もない。

大統領府に警察の手が

 そこで1月4日、大統領は信頼回復を狙って、(仕方なく)テレビ第1、第2放送(ARDとZDF)の共同インタビューを受けた。そして、その場でいくつかの間違いは認めたものの、不正はしていないと強く主張。「5年の任期でこの職に就いたので、5年後、良い大統領として任期を終えたい」と辞任をきっぱり否定した。なお、自分と妻をあたかもメディアの犠牲者であるかのように演出したのが、見ていて不愉快だった。

 そのうえ、インタビューの後まもなく、またもやその発言のいくつかが嘘であったことが判明。早急に答えると約束したジャーナリストからの質問状にも、後日、ちゃんとした回答はなされなかった。そんなわけで結局、信頼回復どころか不信感が増大、国民の間ではかえって大統領の辞任を望む声が高くなった。しかし、それでも大統領と夫人は国内外の来賓相手に、何食わぬ顔で優雅なシーンを演じ続けた。

 1月29日には寝耳に水、なんと、ヴルフ大統領の長年のスポークスマンG氏の自宅と事務所に手入れが入った。見かけで人を評することはよくないが、敢えて言わせてもらえば、このG氏、見るからに人相の悪い、アッと驚く大統領スポークスマンだ。しかもG氏は大統領により、クリスマス直前に、理由を明らかにしないまま解雇されていた。

 いずれにしても、大統領府という神聖な場所に警察が入ったのだから、事態はすでに異常を通り越していたが、大統領は依然として何食わぬ顔。長年の二人三脚の相手であったG氏の行状は知らなかったそうだ。手入れの容疑は収賄。

 さて、多くのセレブの実業家たちが大統領や悪党面のG氏にいろいろなサービスをした理由が友情からではないだろうということは、どんなにぼんやりした国民でも容易に想像がつく。案の定、ヴルフ大統領の形勢が徹底的に悪くなったのは、当時、州知事の地位を利用して、特定の人にビジネスの便宜を図っていたことが明らかになり始めてからだ。検察の本当の目的は、ホテル代や無料ホリデーなどのケチ話ではない。どうも、私たちが知らない大きなお金が動いていたらしい。

 決定的なニュースが入ったのが2月16日の夜。ニーダーザクセン州の検察がヴルフの大統領解任に向かって動き出した。大統領は不逮捕特権を持つので、そのままでは逮捕も起訴もされないが、連邦議員の4分の1が同意すれば、特権解除の是非を連邦裁判所に問うて、解除することができる。この夜、検察庁がその手続きを連邦議会に申し立てたのである。もちろん前代未聞の不祥事だ。

 翌朝11時、追い詰められたヴルフ氏の辞任会見が大統領府で行われた。夫人と共に現れた彼は、外国人政策における自分の功績を自賛、さらに、報道が自分と妻をひどく傷つけことと、身の潔白を強調したが、でも、まことに呆気ない幕切れだった。

 前日までヴルフ大統領を庇っていたメルケル首相は同日、イタリアのモンティ首相との約束をキャンセルしてベルリンに留まり、記者会見で、超党派で次の大統領を探す心づもりを披露。1年半前、ヴルフを引っ張って来たのはメルケル首相であったため、早急に申し分のない代替候補を立てなくては、つぶれた面目が取り戻せない。大統領の存在は政治と無関係とはいうものの、やはり、全く無関係ではあり得ない。

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