珍無類な言葉に取り憑かれ、8年もの歳月をかけて、「どりこの」の謎を追いつづけた『伝説の「どりこの」』の著者・宮島英紀氏

 いまから80年ほど前、日本中に野火のごとく広がった言葉がある。それが「どりこの」だ。

 これはいったい何なのか。暗号か? まじないか? はたまた秘境に棲息する未確認生物か・・・。

 『伝説の「どりこの」』(角川書店)の著者・宮島英紀氏は、この珍無類な言葉に取り憑かれ、8年もの歳月をかけて、「どりこの」の謎を追いつづけた。

 昭和を席捲した「どりこの」。しかし、いまや「どりこの」という言葉は、人々の記憶から消え去り、幻となっている。それはいったい何故なのか? 謎に包まれた「どりこの」は、調べれば調べるほど、愉快な事実が噴き出したという。「どりこの」に肉薄した調査の一部を、著者に披露してもらおう。

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 ひんやり冷えた収蔵庫。窓ひとつない巨大金庫のようなその場所は、物音すら侵入を許さないといわんばかりの静けさだった---。

この木箱のなかに「どりこの」が・・・

 ここは、講談社が創業以来100年以上にわたり編んできた雑誌や書籍に関する資料、表紙絵や口絵、チラシやポスターなど、ファン垂涎の貴重品を収めた秘庫なのである。横山大観の筆による原画や、おじいちゃんたちが泣いて喜ぶ『少年倶楽部』の大型紙模型附録「軍艦三笠」「空中軍艦」なども、ここに保管されているのだ。

 特別の許可を得て、庫内に足を踏み入れた私は、吸い付けられるようにして、目当ての「物」へと近づいていった。夥(おびただ)しい貴重品の数々・・・探していた「物」は、宝器に埋もれるようにして、長い眠りについていた。収蔵庫の片隅に置かれた古い木箱。まっ黒いススとホコリにまみれた木箱の側面には、まぎれもなく「ど」「り」「こ」「の」の文字が描かれ、下部には「発売元」「大日本雄辯會講談社(講談社の前社名)」と刻印されている。「どりこの」とは、出版社である講談社が販売していた商品なのだ。

 とすると、その正体は雑誌や本なのか? いや、そうではない。「どりこの」の文字の上部には、「高速度滋養料」と記されているではないか。そう、「どりこの」とは、一種の栄養ドリンクなのである。この古い木箱のなかに、ガラス瓶に入れられた「どりこの」が、当時のままの姿で眠っているのだ。

瀕死の病人が生き返る?!

 講談社がドリンク販売を手掛けていたとは驚きだが、ビックリするのはまだ早い。講談社は「どりこの」を販売するにあたり、販促史上例のない超弩級にして、ちょっぴり恥ずかしい大キャンペーンを展開したのである。