日銀がインフレ目標で「政治の圧力に屈した」と報じるマスコミの無知
白川方明総裁〔PHOTO〕gettyimages

 日銀がインフレ目標を導入した。日銀はこれまで「物価安定の理解」という表現で政策委員が考える物価安定を数値で示していたが、今回「物価安定のめど」と言い換えて目標である点をはっきりさせた形だ。

 とはいえ、数値自体は従来と変わらない。「理解」では、消費者物価指数の前年比が「2%以下のプラスの領域で中心は1%程度」としていた。「めど」に変わっても「「2%以下のプラスの領域で当面は1%」を目指すとしている。

 日銀はこれまでインフレ目標を頑なに拒んでいた。米国の連邦準備制度理事会(FRB)が1月下旬にインフレ目標の導入を決めた後も、白川方明総裁は国会で「私の感じでは、むしろFRBが現在、日銀が行っている政策に近づいてきたとの認識を持っている」と語っていたほどだ。

 もしも、白川が言うように「FRBが日銀に近づいてきた」のが本当なら、一歩先を行っていたはずの日銀がなぜ、いまさらFRBの後追いをするのか。事実は正反対である。FRBが先んじて動いたから、日銀が追っかけざるをえなくなったのだ。まったく厚顔というか白々しいというか、よく恥ずかしげもなく言えたものだ。

マスコミはびこる「日銀信仰」

 もっともFRBが動いただけでは、日銀は動かなかっただろう。白川が動かざるをえなくなったのは、国会で与野党が日銀の金融政策を批判し、日銀法改正が現実味を帯びてきたからだ。自民党は次期衆院選のマニフェスト(政権公約)に日銀法改正を盛り込む、と報じられている。

 法改正となれば、インフレ目標の設定どころか、達成できなかった場合の責任条項まで入りかねない。少なくとも日銀総裁の解任規定をどうするかが議論になるのは確実である。そんな悪夢を避けるためにも、ひとまず妥協に動いたというのが実態だろう。

 そんな展開をみて、多くのマスコミが「日銀は政治の圧力に屈した」と批判的な論調で報じた。白川の記者会見でも「マーケットの一部には、政治的な圧力に屈したのではないかという見方もある。どう考えるか」という質問が出た。これに対して、白川は「日銀が本来考えていないことをしたということはまったくありません」と答えている。

 こうなるとご愛敬としか言えないが、問題はむしろマスコミのほうだ。

 たとえば毎日新聞は「背景に政治の包囲網 問われる『距離感』、独立性揺らぐ懸念も」という見出しを掲げて「『金融政策の独立性が揺らぐ』との懸念も出ている」と伝えた(2月15日付け朝刊)。

 私自身もかつて日銀を担当していたからよく分かるが、多くの記者は「日銀の独立性は神聖不可侵のもので、政治が圧力をかけて日銀を動かすのはとんでもない話」という単純素朴な観念を抱いている。信仰に近いといってもいい。

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