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『ニューヨーカー』ジョン・カシディ記者のインサイドレポート 年俸30億ドル(2250億円) 世界最大のヘッジファンドを率いる男(レイ・ダリオ氏)の物語 上
12歳の時、アルバイトで得た給料やチップを資金に投資を始めた〔PHOTO〕gettyimages

 社員に対する厳しい姿勢や、社内外での高いカリスマ性から「投資業界のスティーブ・ジョブズ」とも呼ばれる。証券会社をクビになった男は、いかにして世界最大のヘッジファンドを作ったのか。

運用資産は7兆円以上

 ひょろっとした長身で、表情豊かな顔には皺が刻まれており、灰青色の瞳の持ち主---。世界最大のヘッジファンド『ブリッジウォーター・アソシエイツ』を訪れると、同社の創業者は、ブルーのシャツとグレーのコーデュロイパンツを着用し、足元は黒革のブーツと、まるで英国のロックバンドの老メンバーのような服装で迎え入れてくれた。

 創業者の名前は、レイ・ダリオ(62歳)。欧州債務問題や運用成績の悪化を背景に、多くのヘッジファンドが苦戦を強いられる中、'10年には運用成績が45%のプラスとなり、'11年も引き続き好調をキープした、運用資産1000億ドル超(約7兆5000億円)を誇る巨大ヘッジファンドを率いる男である。

 ダリオの年間報酬('10年)は、推定30億ドル(約2250億円)。いまでこそケタ外れの億万長者だが、実は彼の父親はマンハッタンの片隅にあるジャズクラブで働くミュージシャンで、母親は専業主婦と、裕福な家庭環境に育った「御曹司」ではなかった。

 また、ハーバードビジネススクールを経て証券会社に入社後、上司とケンカをして殴ったり、顧客向けのイベント会場にダンサーを呼び寄せ、ストリップさせたことなどが原因でクビになるといった、奔放な一面も持ち合わせている。

 吹き荒ぶ逆風の中、巨億の富を生み出す「カリスマファンドマネージャー」とはどんな人物で、いかにして世界最大のファンドを作り上げたのか---。

 米コネチカット州ウエストポート郊外にあるオフィスで、簡単なあいさつを済ませると、ダリオはさっそく分厚いブリーフィングブック(状況説明書)をつかみ、私を大会議場に導いた。そこでは、毎週定例の「世界では何が起こっているか」会議が開かれており、20~30代の若い出席者約50人が居並ぶ中、ダリオは部屋の正面近くの定位置に陣取った。

 同社は、日本の債券やロンドンの銅先物など、世界中で100以上の金融商品を売買しているため、会議のテーマは多岐に及ぶ。

 ヘッジファンドの会議といえば、ポートフォリオを決定・実行する「スピード」や、「情報の秘匿」を何よりも重視していると思いがちだ。しかし、同社が徹底していたのは、意外にも会議の「透明性」だった。

 会議の議題がギリシャやスペインなどの欧州経済から、インフレ抑止のために金利を上げたばかりの中国経済へと移った。

 ダリオが「中国経済は過熱の危険性がある」と指摘すると、出席者の誰かが、「中国経済の減速は(貴金属や穀物などの)商品の価格にどう影響するか」と質問を投げかけた。それに対し、同社の共同CEO(最高経営責任者)兼CIO(最高投資責任者)のグレッグ・ジェンセンは、「中国経済がたとえぎくしゃくしても、世界の商品価格を押し上げるには十分な成長スピードを維持していると思う」と見解を述べた。

 ダリオが他の意見を求めると、部屋の後方から黒いスウェットシャツ姿の若い男が、「中国経済のスローダウンはグローバルな需給関係に大きく影響するだろう」と話し始めた。

 しばらく耳を傾けたものの、ダリオはこう言って彼の発言を遮った。

「キミは自分の知識をひけらかしたいのか、それとも推測を発表したいのか」

 若い男は、「知識に裏付けられた推測をあえて言いたいのです」と答えると、ダリオはこう釘を刺した。

「やめとけ。キミにはそういうクセがある。前にも言っただろう」

 気まずい沈黙ののち、若い男は「個人的な考えを求められたと思ったものですから」と弁明を試みた。だが、ダリオは批判の手を緩めない。結局、この若い男はもう一度注意深く検証してみると引き下がったため、ようやくその場は収まった。

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