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杞憂に終わるか?深刻か?HONDAの危機感

 東日本大震災に加え、タイの洪水被害の影響もあって、ホンダが苦境に立たされている。北米、国内ともに販売不振に直面したホンダに打開策はあるのか? ホンダの今を取材した

ホンダの躍進を支えてきた北米でのアコード、シビックの不振

 この10年間、波こそあれ、高い成長率を達成してきたホンダ。2010年度決算では営業利益が5697億円を達成。純利益額ではトヨタやNTTを抜いて初めてトップに躍り出たことは記憶に新しい。しかし、今年になって東日本大震災での部品供給の停滞に加え、生産拠点を持つタイ工場の洪水被害というダブルパンチをうけ、営業利益は大幅に減少することは確実。

 当初、2012年3月期の営業利益を2700億円と予想していたが、タイの洪水による影響が大きすぎ、未定としている。ちなみに東日本大震災の影響を受けた2011年4~9月期の営業利益は前年同期比81・1%減の750億円にとどまった。

 国内販売に目を向ければ、こちらも深刻だ。2011年度の上半期(4~9月)の登録車の販売台数は前年比67・3%の17万2939台、軽自動車も前年比66・0%の5万6145台と東日本大震災の影響をもろにかぶったカタチとなっている。左の表が示すようにトヨタとホンダが受けた影響はあまりに大きかった。

 その結果、登録車の新車販売は昨年のおよそ3分の2になってしまった。車名別のTOP30では2位にフィットが入っているものの、残りは7位のフリード、13位のステップワゴンしかなく、しかも昨年までは両車とも好調だったが、前年に比べると、半減といえる落ち込みで、先行きが心配される。さらに厳しいのが軽自動車で、オリジナルモデルを持たない日産にまで抜かれて4位に転落、地盤沈下に歯止めがかからない。

 ひとことでいうならば、あいかわらずフィットシリーズだけが売れていて、残りのモデルは売れていないという図式が続いている。

 10月末にフリード&フリードスパイクにハイブリッドが追加となり、インサイトもマイナーチェンジしたことで、販売は上向きになることが予想されるが、落ち込んだ全体の販売を回復し、さらにホンダのシェアアップができるかというと、いささか難しい。

 というのも、東日本大震災の影響が世界的にようやく解消されると思われていた10月、今度はタイの洪水被害がホンダを襲ったからだ。

「今年の春に純利益で日本一になったといっても北米マーケットが儲けを生んでいるだけ。タイの洪水の被害で生産調整を行なうなど北米マーケットにも影響が出ているうえに、ちょうどライバルであるヒュンダイが攻勢に出てきているタイミングでもあり、社内には危機感がありますよ」とあるホンダ関係者は語る。

■北米で日産に抜かれる

 ホンダの昨年度の世界販売台数は約351万2000台で北米はそのうち約145万8000台。なんと4割を超えた。その北米でホンダが苦戦している。今年9月のアメリカでのホンダの新車販売台数は8・0%減の8万9532台と5カ月連続で前月を下回った。いっぽう日産は前年同月の25・3%増の9万2964台に伸び、ホンダは6位に転落した。

 ホンダの落ち込みはヒュンダイのソナタによる攻勢でアコードが前年同月比13・0%減と不振だったことに加えて、4月に投入されたばかりのシビックが、アメリカの消費者団体専門誌である『コンシューマー・リポート』の推奨リストから外されたことが響いたのか、こちらは同26・4%と大幅減だったことが要因だ。

 トヨタのカムリハイブリッドが2万5900ドル(1ドル77円で約199万4000円)という超お買い得価格で発売されたことを思えばアコード(2万1380ドル=1ドル77円で約160万5000円)はさらに厳しい販売状況となるかもしれない。一時生産調整を余儀なくされた北米工場は現在生産を再開しているが今後、洪水被害によって部品供給が滞れば新車不足となる可能性も否定できない。

 北米依存が大きいことがここにきて足を引っ張っているのだ。北米での不振はホンダの業績に直結する。経営陣をはじめ、そうとうな危機感が生まれていることは間違いない。

 そのいっぽうで、国内販売を巻き返すべくさまざまな研究と新型車の開発が進められていた。

■N BOXからパワープラント一新

 ホンダが本格的に軽自動車の企画、開発をはじめたのは一昨年くらいから。すでにタントとパレットがスーパーハイトワゴンのジャンルを確立していた。同じジャンルに同じタイプのモデルを投入することを潔しとしないホンダが、「よりいいものを作ればいい」と作ったのがNBOXだ。

 ライフ、ゼスト、バモスがあるホンダだが、ライバルに比べるといまひとつの実力だったことは否めない。ところがいまや新車の3台に1台以上が軽自動車という時代になり、この先まだ伸びると予想されるジャンルだけに、ホンダも乾坤一擲、スピード感をもって開発したのがN BOXだ。

 このモデルは、軽一番の空間をもつことが売りで、そのわかりやすい高性能はヒットにつながるはずだ。さらに国内販売の不振を挽回すべく昨年からN BOX以外のパワープラントの開発もみっちり行なっているという。

 そこには現行の簡易型のIMAハイブリッドにかわる次世代ハイブリッドや新型スポーツエンジンおよび新型V6エンジンも含まれているというから楽しみだ。N BOX以降は新型車の発売やMCのタイミングで順次新エンジンが発表され、搭載されていくはずだ。特に次世代ハイブリッドシステムがどんなものなのか? 次世代というからにはプリウスを凌ぐものになるのか注目だ。

 またNSXやビート後継モデルに注目がいくが、ホンダが一番欲しいのはヒット作。その意味でオデッセイにかわるまったく新しい多人数乗車モデルが開発されているという情報もあり、開発現場は活気を取りもどしているようだ。数年前は「あれもやるな、何もするな」だったのが、いまは「あれやれ、これやれ、すぐやれ」というふう変わってきたという。

 ホンダがいよいよ眠りから覚めるのか? 具体的な動きを遠藤氏に聞いてみた。

■12年の柱は軽自動車

 10月中旬、関西のホテルに全国ホンダカーズ店のトップを集めてビジネスミーティングが行なわれた。'12年を中心とした国内四輪車の販売方針と新商品展開のあらましを説明、Nシリーズと呼ばれる一連の新型軽自動車の増販要請が行なわれた。

 12月18日に発売する新型スーパーハイトワゴンのN BOXを皮切りに来春にはN BOXをベースにしたレジャービークルのHXを発売する。同シリーズにはN BOX同様に上級&スポーツバージョンのカスタムシリーズが設定され、こちらは切り離されて来夏に追加となる。

 さらに来秋にはセダンバージョンのBXを投入する。かつてのヒットモデル「N360」の再来を想わせ、全高は1550㎜以下で立体駐車場に格納できる高さとなる。

 ミニクーパーのようにルーフのカラーを変えられるバージョンを用意、他モデル同様エアロフォルムのカスタムも設定。極限まで追求したボディの軽量化、アイドリングストップ付き新型3気筒エンジン、CVTの組み合わせで超低燃費を実現させる。ダイハツのミライースはJC08モードで30㎞/ℓを実現させているが、BXはこれを超える31~32㎞/ℓを目指して開発を進めている。

 ビジネスミーティングの会場にはN BOX、HX、BXのプロトタイプが展示され実車説明が行なわれたが、会場には'13年に投入する予定の次期型ゼストスパークらしいスポーツバージョンの写真展示もあった。6連ヘッドライトと横線基調の大型グリル、エアロパーツ、インチアップしたタイア&アルミホイールはかっこよく、走りのポテンシャルの高さを想わせるボディシェルだったという。'13年にはオープンエアモデルも登場の予定で、こちらはかつての「ビート」の再来となりそう。

 ホンダの軽自動車ラインアップはこれまで4銘柄態勢だったがN BOX、HX、BX、ビートの後継が加わると2倍の8銘柄に拡大する。ゼストのほかライフ、バモス、アクティシリーズも順次世代交代する方向で開発を進めている。現在のホンダの軽自動車販売は年間10万台そこそこにとどまっているが、'12年には倍増の20万台、'13年には更に10万台上乗せし30万台と一気に現状の3倍にも拡大する強気の中期計画を策定している。

■販売体制も変わる

 '13年には一時休止状態にあった、地場資本の小規模店の統合を推進する。現在ホンダカーズ店は全国で800弱、2000強の新車店舗があるがこのうちの半分以上を占める旧プリモ店の小規模販社を統合し各都道府県に4~5社、全国では250社程度にまとめ大型化する。

 このなかで軽自動車とフィットのスモールカーを重点的に販売する「スモールストア」を設置。カフェ風のファミリーな雰囲気を持たせたつくりで若いユーザーが立ち寄りやすいものとする。

 具体的な店舗コンセプトの提示は来春に行ない、以降ホンダカーズ店に参加を呼びかける。新しい販売チャンネルではなくホンダカーズ店内の別組織として構築する方針だ。またこれまでホンダの軽自動車はスズキやダイハツに比べて販売店のマージン幅が少ないのがネックになっていたことから、この11月仕入れぶんから3万円程度を上乗せして増販攻勢を促すようだ。

■登録車はどうなる

 2012年のニューモデル展開は軽自動車を主軸とする関係上、登録車は改良や追加モデルの設定にとどまる。ただ年度の終盤にはサプライズで新規モデルの投入も予想されるが、今回はまだ明らかにされていない。具体的にわかっていることはステップワゴンは来春にマイナーチェンジを実施する。内外装のデザイン変更とエンジンはアイドリングストップ機構を備えた新開発ユニットとし、同クラストップレベルの低燃費達成を図る。4WD車は現行の5ATをCVTに切り替えて燃費&走行性を改善する。3列目シートは現行のチップアップ式が不評なことから跳ね上げタイプに戻すようだ。

 さらにフィットは来秋に1・5ℓRSにハイブリッドを設定。1・3ℓを含め燃費や性能を向上させた「次世代IMAシステム」を採用。ノーマル1・5シリーズには女性向けの「シーズ」バージョンを設定する。このほか来秋をメドにプラグインハイブリッド車や電気自動車の発売も予定していると思われるが終盤の展開も含めて具体的な方策は来春に明らかにされる見込みである。

来春ステップワゴンはエンジンを最新のものに換装し、大幅燃費向上をめざす

 期待のNSX後継モデルやビート後継モデルは'13年の誕生で、その頃にはPHVあり、EVあり、ディーゼルあり、ターボありといろいろなパワートレーンが多彩なモデルに搭載されて登場してくるはずだ。

■20年までに100万台、シェア25%を目指す

 '12年の国内四輪車販売計画は70万台で今年の実績に対して10万台以上の上乗せを目指す。うち登録車は50万台、軽自動車は20万台でほとんどが軽自動車でカバーする計算となる。

フィットRSに新型ハイブリッドを搭載する可能性が浮上。こいつは楽しみだ

 また8年後の2020年における乗用車(軽自動車を含む)市場を400万台と想定し、そのうちの100万台、シェア25%を目指し増販攻勢を展開する大胆な方針である。

 この計画が画餅に帰すのかそれとも大輪の花を咲かせるのか、'12年が勝負の年になることは間違いない。次期ビートやNSX後継モデルが勢いをもって登場できるかは'12年の成功あってこそ。ある意味リーマンショック以上に難しい局面に立たされたホンダが底力をみせ、雨降って地固まるとなるのか、ホンダのこれからの1年に注目だ。

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